鍼灸の作用機序に関する科学的根拠の確立と神経内科専門医と連携した鍼灸活用ガイドラインの作成

文献情報

文献番号
201325022A
報告書区分
総括
研究課題名
鍼灸の作用機序に関する科学的根拠の確立と神経内科専門医と連携した鍼灸活用ガイドラインの作成
課題番号
H24-医療-一般-023
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 則宏(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 荒木 信夫(埼玉医科大学)
  • 山口 智(埼玉医科大学)
  • 伊藤 和憲(明治国際医療大学鍼灸学部)
  • 清水 利彦(慶應義塾大学 医学部)
  • 柴田 護(慶應義塾大学 医学部)
  • 鳥海 春樹(慶應義塾大学 大学院政策メディア研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
7,754,000円
研究者交替、所属機関変更
該当せず

研究報告書(概要版)

研究目的
鍼治療は多くの疼痛疾患に施行されているが、その有用性を確立するための臨床試験の質および量は不十分とされ、さらなるエビデンスの集積が求められている。また、その作用機序についてもいまだに不明な点が多い。このため本研究は、頭痛を対象に鍼治療が効果をきたす作用機序を明らかにするとともに有用性を示すエビデンス集積を目的として平成24年度より検討を継続している。
頭痛のなかでも拍動性で重度の痛みを示す片頭痛は、患者の日常生活を大きく阻害するため社会的・経済的損失が大きいことが知られている。片頭痛の病態には皮質拡延性抑制(cortical spreading depression; CSD)と呼ばれる現象が関与することが示されている。CSDは、脳局所の神経細胞やグリア細胞の細胞膜に脱分極が生じた後、電気的活動が抑制された状態が周囲に伝播する現象で、CSD発生後、三叉神経血管系の異常な活性化がおこり脳血管および脳硬膜動脈の拡張や脳硬膜の神経原性炎症により頭痛が生じると考えられている。
平成24年度は、三叉神経終末に侵害刺激を関与するとCSDを発生させる閾値の低下することを報告し、三叉神経の刺激が片頭痛発作の発生に影響を及ぼす可能性を指摘した。一部の片頭痛患者では発作前に肩や頸部の筋肉のこりを自覚することが多く、この現象が片頭痛誘発と関係する可能性を示唆するものと推察された。また、ラットの顔面部および肩背部筋群におけるトリガーポイントの作成も行い、片頭痛患者における予兆としての肩こりを実験的に作成することが可能となった。そこで平成25年度はマウスを用い三叉神経に支配される筋にトリガーポイント作成を試みるとともに、この動物を用いCSD発生閾値の変化をコントロールと比較した。同時に鍼治療を活用するためのガイドライン化に必要なエビデンスの集積についても継続した検討をおこなった。
研究方法
1.動物モデル(トリガーポイントモデル)の確立  
動物としてSprague-DawleyラットおよびC57Bl/6Jマウスを用いた。それぞれの動物の咬筋に伸張性収縮運動および虚血を加えトリガーポイントを作成し、圧痛に対する閾値の変化を検討した。なお圧痛点形成は筋電図と圧痛閾値の計測により確認した。さらに、この動物を用いCSDの発生閾値をコントロールと比較検討した。CSDの誘発にはKClを用い、0.025Mの低濃度より滴下して、CSDが発生したKCl濃度をその動物のCSD発生閾値とし各群で比較検討した。
2.人体における作用機序の解明
Arterial Spin Labeled MRIを使用し鍼治療前後で脳血流の変化をヒトにおいて検討した。また頭頸部筋群にトリガーポイントを認める頭痛症例において鍼治療によるトリガーポイントおよび頭痛の改善の有無についても検討した。
結果と考察
1.動物モデル(トリガーポイントモデル)の確立
トリガーポイントを咬筋に作成した動物では顔面皮膚の痛覚閾値に変化を認めず、一方、圧痛に対する閾値は作成後2日をピークに低下した。さらにこの圧痛に対する閾値の低下は虚血負荷により増強することを明らかにした。またトリガーポイントを咬筋に作成した動物群においてCSD発生の閾値をコントロールと比較すると低下していることを明らかにした。
2.人体における作用機序の解明
片頭痛患者の発作間欠期における脳血流は健常者と異なる分布を示した。健常者群および片頭痛患者群において弁蓋部、帯状回、島、視床および視床下部の脳血流は鍼刺激中5および10分で増加した。しかしその後、片頭痛患者群では鍼刺激終了直後には同部位の血流増加が持続し周囲の大脳皮質にも遷延し終了後15および30分後にも同部位の血流増加が持続し、健常者と異なる傾向を認めた。
結論
動物モデルの検討では咬筋に作成したトリガーポイントがCSD発生閾値を変化させることが明らかにされた。我々は、すでに三叉神経終末に侵害刺激を加えるとCSD発生の閾値が低下することを示しており、これらの結果より頭頸部に形成されたトリガーポイントは三叉神経終末を介しCSD発生の閾値を低下させている可能性があると推察される。本研究により、頭頸部に形成されたトリガーポイントは、片頭痛を増悪させている可能性が示唆された。これらの結果より、平成26年度はトリガーポイントを作成した動物においてCSDを発生させる閾値や睡眠リズムに対する影響について実験をすすめるとともに、鍼治療がこれらのパラメーターにおよぼす変化についても検討を加えるとともに臨床研究においてガイドライン化に必要なエビデンスの集積を継続する予定である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

収支報告書

文献番号
201325022Z