遺伝性ポルフィリン症:新病型の診断法と新しい診療ガイドラインの確立

文献情報

文献番号
201324157A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝性ポルフィリン症:新病型の診断法と新しい診療ガイドラインの確立
課題番号
H24-難治等(難)-指定-006
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
中野 創(弘前大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 川田 暁(近畿大学 医学部)
  • 近藤雅雄(東京都市大学 生命科学)
  • 前田直人(山陰労災病院)
  • 上出良一(東京慈恵会医科大学 附属第三病院)
  • 大門  真(弘前大学 大学院医学研究科)
  • 竹谷  茂(京都工芸繊維大学 工芸科学研究科)
  • 古山和道(岩手医科大学 医学部)
  • 堀江 裕(済生会江津総合病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
遺伝性ポルフィリン症は現在9つの病型に分かれており,光線過敏症状,消化器症状,神経精神症状のいずれかを種々の程度に組み合わせて発症する.これらの疾患は根本的治療法がなく,対症療法で治療されている.急性症状を呈する病型や重度の肝障害を合併する病型では死の転帰をとることもあり,光線過敏症状が主体の病型では日常の光線曝露が制限され,患者のQOLが著しく低い.さらに,遺伝性ポルフィリン症は経験することがまれな疾患であること等から,正確に診断されていない症例が多い.我々はこれまでに9つ全ての病型の確定診断を可能にする環境を整備した.今年度は,より正確な診断とエビデンスに基づいた適切な治療が行われることを目的として以下の研究を行った:1.遺伝性ポルフィリン症の新規症例の収集,2.新しいガイドライン策定のための情報収集,3.遺伝子診断の妥当性の検証,4.重篤な合併症併発の遺伝学的背景探索,5.効果的な光線防御のための新しいサンスクリーン剤の開発,6.情報ネットワーク整備.
研究方法
1.遺伝性ポルフィリン症の新規症例の確定診断と情報分析:全国ポルフィリン代謝障害友の会等を通じて紹介された遺伝性ポルフィリン症家系の計29家系について,臨床情報を分析し,遺伝子診断を行った.また,遺伝性ポルフィリン症患者の診断・治療後の自覚症状等の変化を明らかにするために,ポルフィリン症患者61名を対象として,病型別に年齢・性・地理的分布,発症年齢,発症要因,自覚症状,合併症および生活習慣についてのアンケート調査を行った.
2. 新しいガイドラインの作成準備:海外におけるポルフィリン症診療の実態を参考に,これまでに得られている知見と照合しつつ,本邦の診療実態に合わせたガイドライン制定のための資料収集を行った.
3. 分子生物学的診断法の新規開発:X連鎖優性プロトポルフィリン症(XLDP)は遺伝子変異に基づく ALAS2酵素の活性上昇により発症するため,遺伝子発現が亢進するような状態ではALAS2酵素の活性上昇により,XLDPが発症する可能性がある.そこでALAS2の転写調節領域の機能解析を行った.
4. 新しいサンスクリーン剤の開発:これまでに実用化されているサンスクリーン剤は単剤では光線防御効果に乏しいため,2種類を組み合わせて使用することによる有効性について,27例の遺伝性ポルフィリン症患者を被験者として有効性と安全性を検討した.
5. 遺伝性ポルフィリン症情報ネットワークの整備:遺伝性ポルフィリン症の認知度は未だ低いため,既存のさくら友の会ホームページの充実を図るとともに,ポルフィリン症について平易に解説した患者向けの疾患解説を作成した.
倫理面への配慮:全ての被験者からインフォームド・コンセントを得るとともに,ヘルシンキ宣言,政府および関連学会が制定した遺伝子を含む生体由来検体の解析研究に関する指針,ガイドライン等を遵守した.また,研究実施施設における倫理委員会の承認も得た.
結果と考察
1.遺伝性ポルフィリン症18家系において遺伝子診断を行い,14家系で遺伝子変異を同定した. このことは潜在的な患者が少なからず存在することを示している.遺伝子診断を行って初めて確定診断を行い得た事例があり,今後も症例の集積と解析が必要である.アンケート調査の結果,合併する障害は深刻であり,患者は様々な不安を抱えており,診断後もこの点を深く認識することが重要である.
2.本邦初の診療ガイドラインを確立するために,海外のポルフィリン診療の実態を分析したところ,民間,学術団体としてAmerican Porphyria Foundation等3団体があり,インターネット上で診断や治療に関する情報提供を行っていた.ガイドラインは2種類が公表されており,実地診療に有用な情報を記載していた.
3.XLDPの原因遺伝子ALAS2の遺伝子発現を調節する領域の機能解析を行ったところ,第1イントロンに,赤芽球特異的転写促進領域を同定した.本領域は新たな遺伝子診断の対象領域となろう.
4. 2種類のサンスクリーンの併用を27例の遺伝性ポルフィリン症患者に使用してもらい,その有効性を全例で確認できた.長期間の使用においても副作用がみられず,安全性が確認された.本サンスクリーンは患者QOLの向上に資すると思われる.
5.インターネット・ホームページの情報を最新のものに更新した.また,「ポルフィリン症 難病指定に向けて―症例や治療をわかりやすく解説―」をDVDとして作成し,配布した.
結論
潜在的な遺伝性ポルフィリン症患者が相当数存在すると考えられ,遺伝子診断及び生化学的診断による確定診断を継続する必要があると考えられる.根治的治療がないため,更なる病態解明のためにポルフィリン症の臨床研究が継続される必要がある.

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201324157B
報告書区分
総合
研究課題名
遺伝性ポルフィリン症:新病型の診断法と新しい診療ガイドラインの確立
課題番号
H24-難治等(難)-指定-006
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
中野 創(弘前大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 川田 暁(近畿大学 医学部)
  • 近藤雅雄(東京都市大学 生命科学)
  • 前田直人(山陰労災病院)
  • 上出良一(東京慈恵会医科大学 附属第三病院)
  • 大門  真(弘前大学 大学院医学研究科)
  • 竹谷  茂(京都工芸繊維大学 工芸科学研究科)
  • 古山和道(岩手医科大学 医学部)
  • 堀江 裕(済生会江津総合病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
遺伝性ポルフィリン症は光線過敏症状,消化器症状,神経精神症状のいずれかを種々の程度に組み合わせて発症する,9つの病型の疾患群であり,現在,根本的治療法がなく対症療法で治療されている.急性症状を呈する病型では死の転帰をとることもあり,光線過敏症状も合わせて患者のQOLが著しく低い.さらに,遺伝性ポルフィリン症は経験することがまれであり,正確に診断されていない症例が多いことが明らかになっている.そこで,今回は全病型の確定診断を可能にする環境を整備することを目的として,基礎および臨床医学的研究を行った.また,より正確な診断とエビデンスに基づいた適切な治療が行われることを目的として,新しいガイドラインの策定のための臨床疫学的研究を行った.さらに新しいサンスクリーン剤の開発および情報ネットワーク整備にも取り組んだ.
研究方法
1)遺伝子・生化学的診断法の確立:X連鎖優性ポルフィリン症(XLDP)の原因遺伝子であるALAS2遺伝子の塩基配列決定システムを設定した. ALAS2酵素リコンビナントタンパク発現ベクターを作成し,酵素活性を測定した.骨髄性プロトポルフィリン症(EPP)でみられる肝障害に関与する生物学的因子を明らかにするために, ABCG2遺伝子の多様性について検討した.
2)遺伝性ポルフィリン症新規症例の確定診断と情報分析:全国ポルフィリン代謝障害友の会(名称:さくら友の会)等を通じて紹介された遺伝性ポルフィリン症家系の計29家系について,臨床情報を分析し,確定診断を行った.また,ポルフィリン症患者61名を対象として,病型別に年齢・性・地理的分布,発症年齢,発症要因,自覚症状,合併症および生活習慣についてのアンケート調査を行った.
3)新しいガイドラインの作成準備:,海外におけるポルフィリン症診療の実態を参考に,本邦の診療実態に合わせたガイドライン制定のための資料収集を行った.
4)新しいサンスクリーン剤の開発:遺伝性ポルフィリン症患者を被験者として,新規サンスクリーン剤の有効性と安全性を検討した.
5)遺伝性ポルフィリン症情報ネットワークの整備:遺伝性ポルフィリン症の認知度は未だ低いため,ポルフィリン症について平易に解説した患者向けガイドブック等を作成した.
倫理面への配慮については,全ての被験者からインフォームド・コンセントを得るとともに,ヘルシンキ宣言,政府および関連学会が制定した遺伝子を含む生体由来検体の解析研究に関する指針,ガイドライン等を遵守した.また,研究実施施設における倫理委員会の承認も得た.
結果と考察
1)XLDPの遺伝子診断法を確立した.ALAS2遺伝子の新たな転写調節領域が明らかになり,本領域の塩基配列の変化がXLDP発症に影響を与える可能性があることが判明した.ALAS2酵素の活性測定法を確立し,XLDPの発症機序が機能獲得型変異であることが確認された.ポルフィリン輸送体ABCG2をコードするABCG2遺伝子の多型と肝障害との関係については有意性がなかった.9病型全ての遺伝子診断が可能になり,今後の診療に有用であろう.
2)臨床的にポルフィリン症が疑われた29家系(うち海外2家系)において遺伝子診断を行い,21家系で確定診断を得た.晩発性皮膚ポルフィリン症の4症例について,原因遺伝子であるUROD遺伝子の遺伝子配列を調べたが,変異はみられなかった.遺伝性ポルフィリン症患者61名を対象とした生活習慣等に関するアンケート調査を行った結果,多彩な合併症および自覚症状を有することが分かった.
3)本邦初の診療ガイドラインを確立するために,海外のポルフィリン診療の実態を分析した.患者および医療従事者を対象とした団体としてAmerican Porphyria Foundation他3団体があり,インターネット上で情報提供を行っていた.海外の学術雑誌2種類のガイドラインが公表されており,実地診療に有用な情報を記載していた.本邦の診療実態に即したガイドライン作成の参考となった.
4)2種類のサンスクリーンを併用して27例の遺伝性ポルフィリン症患者に使用してもらい,その有効性を全例で確認できた.長期の使用においても副作用がみられず,安全性が確認された.患者QOL上昇に資すると思われる.
5)ホームページの改定とともに「ポルフィリン症相談ガイドブック」(小冊子)および「ポルフィリン症 難病指定に向けて―症例や治療をわかりやすく解説―」(DVD)を作成し,配布した.
結論
本邦においては潜在的なポルフィリン症患者がなお相当数存在すると考えられ,遺伝子診断及び生化学的診断による確定診断技術を継承する必要があると考えられる.根治的治療がないため,更なる病態解明のためにポルフィリン症の臨床研究が継続される必要がある.

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201324157C

収支報告書

文献番号
201324157Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,900,000円
(2)補助金確定額
3,900,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,615,314円
人件費・謝金 194,640円
旅費 0円
その他 190,455円
間接経費 900,000円
合計 3,900,409円

備考

備考
利息34円及び自己資本375円

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-