再発性多発軟骨炎の診断と治療体系の確立

文献情報

文献番号
201324152A
報告書区分
総括
研究課題名
再発性多発軟骨炎の診断と治療体系の確立
課題番号
H24-難治等(難)-指定-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 登(聖マリアンナ医科大学 医学部 免疫学・病害動物学)
研究分担者(所属機関)
  • 岡 寛(東京医科大学 八王子医療センター)
  • 遊道 和雄(聖マリアンナ医科大学 難病治療研究センター)
  • 山野 嘉久(聖マリアンナ医科大学 難病治療研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
i)研究の背景
再発性多発軟骨炎(relapsing polychondritis、以下RP)は、原因不明で稀な難治性疾患である。本邦における疫学情報や病態研究は不十分であり、かつ診断・治療のための指針が作成されていない。その為、認知度が低く診断が見過ごされているケースも多く、気道軟骨病変などの臓器病変を伴う患者の予後は極めて不良であり、診断、治療法の確立が急務である。
我々は平成21~23年度厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業[課題名:再発性多発軟骨炎の診断と治療体系の確立]において、RPに対する患者実態・疫学調査(RP 239症例)を行ない、重症例となりやすい気道病変はステロイド単独治療ではその病勢を抑えられないため、免疫抑制剤(メトトレキサート)が必要となることを発見した。そこで現在免疫抑制剤を用いた臨床試験を計画しており、そのため新たな患者登録・追跡システムが必要となった。
ii) 本研究の目的
①RPにおける治療臨床試験に向けた、高効率で正確である患者レジストリ方法を構築する。
②新規疾患パラメータの発見。有用なパラメータが現在欠落している。臨床試験に応用可能な新規疾患パラメータを発見する。
研究方法
i) 「患者主体」患者レジストリ作成への協力
難病患者支援を使命として2005年日本難病・疾病団体協議会(JPA)が結成された。厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「患者支援団体等が主体的に難病研究支援を実施するための体制構築に向けた研究(JPA研究班)」はその研究事業である。現在の主な研究内容は、国内外の患者会の調査・報告と患者レジストリの構築である。RP研究班もJPA研究班の研究分担者として、モデル疾患におけるレジストリ収集項目に関する予備的調査を委託された。その協力を通じて、そのレジストリの新規臨床研究への利用を検討する。
ii) 新規疾患パラメータの開発
ヒト免疫機構は自然免疫系にて情報を収集し、獲得免疫系で過去の記憶に則って強力かつ効果的に炎症を増幅することで成り立っている。疾患治療を考慮するうえで獲得免疫を制御することは重要となる。我々は、おそらく自然免疫系から獲得免疫系へのシグナルとして重要と考えられるsTREM-1が疾患活動性マーカーとしての可能性があることを報告した。RPの病因の一つとして獲得免疫系の誤った記憶と反応性が考えられるため、我々はその中枢とされるT細胞機能を検討を開始した。近年T細胞はその機能によってTh1細胞とTh17細胞に分類され、双方のアンバランスが免疫疾患の原因となっていることが示されるようになった。これらの機能付与には、血中のサイトカイン濃度が重要であるため、我々その測定より研究を開始した。
結果と考察
i) JPA研究班における「患者主体」レジストリの構築
25年度のJPA研究班研究は、国の難病対策の改編を受けて通称橋本班との共同研究体制をとった。それぞれのレジストリ内容にはセキュリティにおける差があるため、その調整が行われている。その結果を待ち、レジストリ情報の利用を検討する。レジストリと本研究ホームページとのリンクも検討する。
ii) 疾患活動性をより正確に反映するマーカーの検討
近年、様々なヒト免疫疾患においてTh1細胞およびTh17細胞という獲得免疫の主要な細胞に異常がみられることが報告されている。そのTh1/Th17細胞の生成に重要であるサイトカインの血中濃度を測定した。RPにおいてTh1細胞が産生するIFNγの上昇、Th1細胞の維持に重要なIL-12の低下がみられ、Th1細胞の過剰な活性化とそのネガティブフィードバックが考察された。
さらにそのIFNγ濃度はIL-23濃度と正相関(P=0.028)を示した。IL-23がその活性に重要に関与するTh17細胞もTh1細胞機能を介して、二次的にRPの病態形成に関わることが示唆される。
我々はTh1/Th17細胞機能とその相互関係を鋭敏に反映するリンパ球機能検査も確立しており、今後RPでの詳細な解析を行う。
結論
JPA班の研究により「患者主体」レジストリが形成されつつあり、研究に賛同する患者による登録が開始されている。RPにおいてもすでに10人以上がレジストリに参加している。本研究にて、そのレジストリを研究に反映させる体制は整えたものと考えている。
血中サイトカイン濃度の相関検討より、Th1/Th17細胞両者のRP病態形成への関与が推察された。はやり、軟骨局所に限らず自然・獲得免疫にわたる全身の炎症反応が起爆剤となり、それが軟骨に集約されていると考える必要性を推察する。その所見と、レジストリを利用した前向き追跡研究を組み合わせることは適切な治療を考慮するうえで重要であると考える。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表
その他

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

文献情報

文献番号
201324152B
報告書区分
総合
研究課題名
再発性多発軟骨炎の診断と治療体系の確立
課題番号
H24-難治等(難)-指定-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 登(聖マリアンナ医科大学 医学部 免疫学・病害動物学)
研究分担者(所属機関)
  • 岡 寛(東京医科大学 八王子医療センター)
  • 遊道 和雄(聖マリアンナ医科大学 難病治療研究センター)
  • 山野 嘉久(聖マリアンナ医科大学 難病治療研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
i)研究の背景
再発性多発軟骨炎(relapsing polychondritis、以下RP)は、原因不明で稀な難治性疾患である。本邦における疫学情報や病態研究は不十分であり、かつ診断・治療のための指針が作成されていない。その為、認知度が低く診断が見過ごされているケースも多く、気道軟骨病変などの臓器病変を伴う患者の予後は極めて不良であり、診断、治療法の確立が急務である。
我々は平成21~23年度厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業[課題名:再発性多発軟骨炎の診断と治療体系の確立]において、RPに対する患者実態・疫学調査(RP 239症例)を行ない、重症例となりやすい気道病変はステロイド単独治療ではその病勢を抑えられないため、免疫抑制剤(メトトレキサート)が必要となることを発見した。そこで現在免疫抑制剤を用いた臨床試験を計画しており、そのため新たな患者登録・追跡システムが必要となった。
ii) 本研究の目的
①RPにおける治療臨床試験に向けた、高効率で正確である患者レジストリ方法を構築する。
②新規疾患パラメータの発見。これまでRP患者の疾患活動性はCRPや抗type IIコラーゲン抗体によって評価されているが、双方ともに正常範囲内にある症例も多い。臨床試験に応用可能な新規疾患パラメータを発見する。
研究方法
i) 患者レジストリの作成
平成21年~平成23年度の前身研究のデータを活用し、メトトレキサートを用いた臨床研究を目標に患者チェックリストを作成する。
ii) 「患者主体」患者レジストリ作成への協力
難病患者支援を使命として2005年日本難病・疾病団体協議会(JPA)が結成された。その研究事業の一環として、同組織が研究代表を務める厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「患者支援団体等が主体的に難病研究支援を実施するための体制構築に向けた研究(JPA研究班)」がある。現在の主な研究内容は、国内外の患者会の調査・報告と患者レジストリの構築である。RP研究班もJPA研究班の研究分担者として、モデル疾患におけるレジストリ収集項目に関する予備的調査を委託された。その協力を通じて、そのレジストリの新規臨床研究への利用を検討する。
iii) 新規疾患パラメータの開発
我々は、昨年度までに血清sTREM-1がRPのよい疾患マーカーとなることを発見した。
前述のように、RPでは疾患活動性パラメータが乏しい。臨床研究ヘの応用可能なパラメータを追求する目的で、生体内炎症所見の総体を反映する「血中サイトカイン濃度」を測定した。
結果と考察
i) 臨床研究における患者チェックリストの作製
メトトレキサートを用いた臨床研究に向けた、患者チェックリストを作成した。国際的に用いられているRPの診断基準は臨床症状に基づいている。そのため初発時および経過にあわせた症状を記載できるように工夫した。
また、主治医への負担の軽減をはかり、できるだけ項目の簡略化を行った。そのため患者健康スケール評価もできるだけ少なくしたが、報告には不十分となるため課題が残存する。
ii) JPA研究班における予備的調査報告
現在JPA研究班におけるレジストリ作成は、セキュリティの調整が行われている。その結果を待ち、レジストリ情報の利用を検討する。レジストリと本研究ホームページとのリンクも検討する。
ⅲ)疾患活動性をより正確に反映するマーカーの検討
①RPの病因研究のため、我々は免疫の中枢とされるT細胞機能検討を開始した。T細胞はシグナルの入出力にサイトカインを利用するが、末梢血で出力シグナル(IFNγ)の増加と入力シグナル(IL12)の減少がRPで観察された。RPにおけるT細胞の誤った炎症増幅と考えられる。我々は細胞染色にて、直接T細胞機能を詳細に観察する方法も確立しており、今後あわせて検討する。これらのことは不明のまま残されている病因解明の一助になる可能性を持つとともに、疾患活動性・治療効果判定に重要な意味を持つと考える。前述のように、レジストリデータとの連結を図る。
②sTREM-1は活動性RP患者群において有意に高値を示し (P=0.0403)、さらに疾患活動性ともよく相関した。
結論
JPA班の研究により「患者主体」レジストリが形成されつつあり、研究に賛同する患者による登録が開始されている。RPにおいてもすでに10人以上がレジストリに参加している(2014年1月19日現在)。本研究にて、そのレジストリを研究に反映させる体制は整えたものと考えている。
血中サイトカイン濃度の相関検討より、軟骨局所の炎症のみでなく全身での炎症反応を考える必要性が判明した。その所見と、レジストリを利用した前向き追跡研究は適切な治療を考慮するうえで重要であると考える。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

総合研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表
その他

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201324152C

成果

専門的・学術的観点からの成果
血清におけるIL-12ファミリーサイトカインの濃度異常を発見した。このことは、再発性多発軟骨炎における、獲得免疫、特にT細胞機能の異常の存在を示唆する。我々は同様の異常をベーチェット病でも観察しており、現在論文を作成中である。多種の自己免疫疾患共通の病因である可能性を仮定し、我々が開発した方法にて直接T細胞機能を検討した後にデータを解析し、論文発表を通じて情報の発信を図る。
臨床的観点からの成果
我々は、平成21~23年度厚労科研費事業「再発性多発軟骨炎の診断と治療体系の確立」班研究において本邦の同疾患の疫学調査を行い、重症となりやすい気道病変の臨床像および推奨される治療方針をまとめた(論文掲載予定)。さらに、同じく重症の中枢神経症状を来たしやすい、神経合併症の臨床像をまとめた。頭頚部軟骨炎の直接播種が推察される。現在論文投稿中である。
ガイドライン等の開発
上記の疫学調査解析より、呼吸、神経、心・血管、血液それぞれの疾患合併症例が重症例となりやすいことを見出した。この解析によって、診断および治療ガイドラインを一括に作成することは困難であると判断し、まず呼吸および神経合併症の解析を終了させ情報発信した。引き続き、心・血管合併症の臨床像の解析を実施する。全国当該診療科に対する疫学調査より開始している。すべての結果を持って最終的なガイドラインを作成する。
その他行政的観点からの成果
JPA班の研究により「患者主体」レジストリが形成されつつあり、研究に賛同する患者による登録が開始されている。RPにおいてもすでに10人以上がレジストリに参加している(2014年1月19日現在)。本研究にて、そのレジストリを研究に反映させる体制は整えたものと考えている。この研究は、厚生労働省が目指す難病患者データの「精度の向上と有効活用」という目標の実現の一助になると考える。
その他のインパクト
本班研究による、知的財産権の出願・登録状況は、1. 出願番号PCT/JP2006/318188 自己組織化軟骨様バイオマテリアル(2013年2月現在 特許査定手続き中)、および2. 特願2010-126487 平成22年6月2日「再発性多発軟骨炎の検査方法およびそれに用いられる検査キット」。再発性多発軟骨炎患者会「HOPE」の活動に対する協力・支援を実施した。また本研究班のホームページを開設し(平成26年3月~)、研究内容を公開した。

発表件数

原著論文(和文)
8件
原著論文(英文等)
7件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
自己組織化軟骨様バイオマテリアル
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2012-118647
発明者名: 学校法人 聖マリアンナ医科大学
権利者名: 学校法人 聖マリアンナ医科大学
出願年月日: 20120524
国内外の別: 国内
特許の名称
再発性多発軟骨炎の検査方法およびそれに用いられる検査キット
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2010-126487
発明者名: 学校法人 聖マリアンナ医科大学
権利者名: 学校法人 聖マリアンナ医科大学
出願年月日: 20100602
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Sato T, Yamano Y, Tomaru U et al.
Serum level of soluble triggering receptor expressed on myeloid cells-1 as a biomarker of disease activity in relapsing polychondritis.
Modern Rheumatology , 24 (1) , 129-136  (2014)
10.3109/14397595.2013.852854.
原著論文2
Shimizu J, Oka H, Yamano Y, et al.
Cardiac involvement in relapsing polychondritis in Japan.
Rheumatology (Oxford). , 55 (3) , 583-584  (2016)
10.1093/rheumatology/kev320.
原著論文3
Shimizu J, Oka H, Yamano Y, et al.
Cutaneous manifestations of patients with relapsing polychondritis: an association with extracutaneous complications.
Clin Rheumatol. , 35 (3) , 781-783  (2016)
10.1007/s10067-015-3160-2.

公開日・更新日

公開日
2014-06-02
更新日
2017-05-30

収支報告書

文献番号
201324152Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,900,000円
(2)補助金確定額
3,900,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,135,072円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 864,928円
間接経費 900,000円
合計 3,900,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2014-04-22
更新日
-