文献情報
文献番号
201324111A
報告書区分
総括
研究課題名
デルマタン4-O-硫酸基転移酵素-1欠損に基づくエーラスダンロス症候群の病態解明と治療法の開発
研究課題名(英字)
-
課題番号
H24-難治等(難)-一般-073
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
古庄 知己(国立大学法人信州大学 医学部附属病院遺伝子診療部)
研究分担者(所属機関)
- 小林 身哉(金城学院大学 生活環境学部食環境栄養学科)
- 菅原 一幸(北海道大学 大学院先端生命科学研究院生命機能科学研究部門プロテオグリカン医療応用研究室)
- 福嶋 義光(信州大学 医学部遺伝医学予防医学)
- 籏持 淳(獨協医科大学 皮膚科)
- 武田 伸一(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 神経研究所遺伝子疾患治療研究部)
- 佐々木 克典(信州大学 医学部組織発生学講座)
- 中山 淳(信州大学 大学院医学系研究科分子病理学)
- 松本 直通(横浜市立大学 大学院医学研究科遺伝学)
- 野村 義宏(東京農工大学 農学部硬蛋白質利用研究施設)
- 岡田 尚巳(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 神経研究所遺伝子疾患治療研究部)
- 三宅 紀子(横浜市立大学 大学院医学研究科遺伝学)
- 岳 鳳鳴(ガク ホウメイ)(信州大学 医学部組織発生学講座)
- 水本 秀二(名城大学 薬学部病態生化学糖鎖医学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
研究分担者・水本秀二博士が、平成25年10月1日に、北海道大学大学院先端生命科学研究院・生命機能科学研究部門・プロテオグリカン医療応用研究室薬学(博士研究員)から、名城大学薬学部病態生化学糖鎖医学(助教)に異動したため、所属機関変更の手続きを行った。
研究報告書(概要版)
研究目的
エーラスダンロス症候群(Ehlers-Danlos Syndrome; EDS)は、皮膚・関節の過伸展性、各種組織の脆弱性を特徴とする先天性疾患の総称である。研究代表者らは、平成21-23年度難治性疾患克服研究事業の支援を受けて、進行性結合組織脆弱性(皮膚過伸展・脆弱性、全身関節弛緩・脱臼・変形、巨大皮下血腫)、発生異常(顔貌の特徴、先天性多発関節拘縮)に特徴付けられるEDSの新病型を見出した。さらに、原因遺伝子がデルマタン4-O-硫酸基転移酵素-1(D4ST1)をコードするCHST14であること、本症における進行性結合組織脆弱性は「D4ST1の欠損→デコリンに付加するグリコサミノグリカン鎖の組成変化(正常ではデルマタン硫酸[DS]であるが、患者ではコンドロイチン硫酸[CS]に置換)→デコリンを介するコラーゲン細線維のassembly不全」によることを明らかにした。ほぼ同時に、稀な多発関節拘縮症”Adducted thumb-clubfoot syndrome”および他のEDS患者においてCHST14変異が見出された。研究代表者らは、詳細な臨床的検討から、これらを同一疾患と結論付け、デルマタン4-O-硫酸基転移酵素-1欠損に基づくエーラスダンロス症候群(D4ST1-deficient EDS;DDEDS)と命名、その診療指針を提案した。
本研究班は、臨床遺伝、遺伝子解析、病理解析、糖鎖医学解析、再生医療、遺伝子治療の専門家が結集し、DDEDSの自然歴および健康管理指針の構築と根治療法の開発を目指すことにより、進行性の結合組織脆弱性病変に苦しむ患者のQOLを向上させることである。
本研究班は、臨床遺伝、遺伝子解析、病理解析、糖鎖医学解析、再生医療、遺伝子治療の専門家が結集し、DDEDSの自然歴および健康管理指針の構築と根治療法の開発を目指すことにより、進行性の結合組織脆弱性病変に苦しむ患者のQOLを向上させることである。
研究方法
臨床的検討として、疑い例の収集、確定診断例における反復性皮下血腫に対するDDAVP療法の有効性検討および聴覚評価を行った。遺伝子解析として、疑い例に対するCHST14遺伝子直接シーケンス解析、陰性例に対する全エクソーム解析を行った。病理解析として、患者およびホモ(Chst14-/-)マウスを対象に、皮膚、胃粘膜などのHE染色、デコリン免疫染色を行った。糖鎖医学的解析として、ホモマウスの皮膚および尿中のDS分析を行った。iPS細胞を用いた解析として、1人の患者由来iPS細胞の神経系分化能の詳細をマイクロアレイ発現解析により調べた。ホモマウスを用いた解析として、モデルマウスとしての妥当性を臨床症状、糖鎖医学的分析、病理解析などにより検討した。遺伝子治療研究として、ヒトCHST14遺伝子またはマウスChst14遺伝子を組み込んだアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを感染させたヒト腎臓由来の293細胞およびヘテロ(Chst14+/-)マウス由来皮膚線維芽細胞における硫酸基転移酵素活性を調べた。
結果と考察
臨床的には、新たに2家系3症例を収集、DDAVPによる反復性皮下血腫予防効果の確認、高音域の聴覚低下を示した。変異陰性例に対して全エクソーム解析が行われたが、原因遺伝子同定には至らず、検出しにくい他の原因遺伝子の存在が示唆された。病理では、ホモマウスの皮膚においてデコリン陽性線維の分布が粗になっており、患者同様皮膚コラーゲンネットワーク構造に異常を来していることが示唆された。糖鎖医学的解析では、ホモマウスの皮膚においてDSは完全欠損しており、患者と同様であった。iPS細胞を用いた解析では、神経細胞発達・分化調節に関わる遺伝子群の発現低下が示され、患者の中枢神経症状との関連が注目される。ホモマウスはDDEDS患者同様尿や皮膚中DSの著減を呈し、D4ST1酵素活性喪失に基づく病態を再現していると考えられた。また、ヘテロ、WTマウスと比べて、低体重、脊椎後彎、顔面非対称、皮膚脆弱性、筋力低下など患者と類似の症状を示した。CHST14またはChst14を組み込んだAAVベクターを感染させた193細胞、ヘテロマウス由来皮膚線維芽細胞では、ネガティブコントロールと比較して、3倍以上の有意な硫酸基転移活性上昇を示し、遺伝子導入したD4ST1タンパクが機能性であることが示された。さらに、D4ST1発現AAVベクターの大量調製に成功し、モデル動物を用いた治療実験の準備が整った。
結論
確定診断例は論文誌上の発表、研究会での報告を加え合計30家系41患者となり、EDSの重要な病型と位置付けられる。本研究班で樹立したiPS細胞およびノックアウトマウスは病態を再現しており病態解析・治療研究に使用しうる適切なモデルである。AAVベクターを利用した遺伝子治療は有望な治療戦略であると期待される。
公開日・更新日
公開日
2015-06-30
更新日
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