文献情報
文献番号
201324003A
報告書区分
総括
研究課題名
重症多形滲出性紅斑に関する調査研究
課題番号
H22-難治-一般-003
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
塩原 哲夫(杏林大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
- 外園千恵(京都府立医科大学 大学院医学研究科)
- 橋本公二(愛媛大学 先端研究学術推進機構学術企画室)
- 相原道子(横浜市立大学 大学院医学研究科)
- 末木博彦(昭和大学 医学部)
- 森田栄伸(島根大学 医学部)
- 浅田秀夫(奈良県立医科大学 医学部)
- 小豆澤宏明(大阪大学 大学院医学研究科)
- 阿部理一郎(北海道大学 医学研究科)
- 谷崎英昭(京都大学 大学院医学研究科)
- 橋爪秀夫(市立島田市民病院)
- 永尾圭介(慶應義塾大学 医学部)
- 黒沢美智子(順天堂大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
55,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
重症多形滲出性紅斑は高熱をともない皮膚と粘膜を侵襲する重篤な疾患で、本症にはStevens-Johnson症候群/中毒性表皮壊死症(SJS/TEN)、薬剤性過敏症症候群(DIHS)が含まれる。初期診断が難しいことから早期に適切な治療がなされないために、経過中に臓器障害や回復後に後遺症・続発症をもたらすことが多い。このような状況から、本研究の目的として、重症多形滲出性紅斑の疫学調査、疾患登録データバンク、発症機序・病態の解明、動物モデルの作成、治療法の確立・普及、眼科的後遺症や予後の解明、発症への遺伝学的背景の検証、重症薬疹治療の啓蒙などを目指した。
研究方法
研究方法として、
1)大規模の大学病院から小規模の病院まで無作為に調査病院を選出し、疫学実態調査を施行した。
2)ワーキンググループによる疾患登録データベースへ登録方法の確立、登録疾患及び項目の選出を行った。
3)発症機序並びに病態の解明のために、皮膚組織の免疫組織学的検索、単球及びリンパ球動態の解析、バイオマーカー、ヘルペスウイルス動態の検証を行った。
4)マウスを用いた動物モデルの作成を試みた。
5)本邦の重症薬疹のステロイドパルス療法や血漿交換療法などの治療成績を諸外国の成績と比較し、その有用性の評価をした。
6)予後調査票を郵送による眼科的後遺症、続発症などの予後の検証を進めた。
7)SJS/TEN後の眼後遺症患者の原因薬剤、発症年齢、感染症の有無などの情報集積と解析を行った。
8)遺伝的背景としてすでに同定されている薬剤の薬疹発症に関連するHLAの与薬前の遺伝子多型検査(ゲノムワイド解析)研究へ参加した。
1)大規模の大学病院から小規模の病院まで無作為に調査病院を選出し、疫学実態調査を施行した。
2)ワーキンググループによる疾患登録データベースへ登録方法の確立、登録疾患及び項目の選出を行った。
3)発症機序並びに病態の解明のために、皮膚組織の免疫組織学的検索、単球及びリンパ球動態の解析、バイオマーカー、ヘルペスウイルス動態の検証を行った。
4)マウスを用いた動物モデルの作成を試みた。
5)本邦の重症薬疹のステロイドパルス療法や血漿交換療法などの治療成績を諸外国の成績と比較し、その有用性の評価をした。
6)予後調査票を郵送による眼科的後遺症、続発症などの予後の検証を進めた。
7)SJS/TEN後の眼後遺症患者の原因薬剤、発症年齢、感染症の有無などの情報集積と解析を行った。
8)遺伝的背景としてすでに同定されている薬剤の薬疹発症に関連するHLAの与薬前の遺伝子多型検査(ゲノムワイド解析)研究へ参加した。
結果と考察
DIHSの疫学実態調査から、発症年齢、性差、受療率、DIHSの臨床、原因薬剤、施行されている治療法、死亡などが始めて明らかになった。DIHSの原因薬については、抗痙攣薬の頻度が高い傾向は予想通りであったが、この抗痙攣薬の中で、近年うつ病に適応拡大された薬剤が上位にあることが注目された。今後、本剤について医療関係者や国民にさらに注意を喚起していく必要がある。DIHSの治療については、大部分の例でステロイド治療が行われていたが、ステロイドパルス療法が初期から多数の例で施行されていた。この結果の解析は今後の治療普及の課題となると思われる。発症機序に関する基礎研究では、多くのことが解明された。SJS/TENでは初期にCD16陽性細胞の変動、皮膚への浸潤が見られることが判明し、病態形成への新しい視点をもたらした。また、SJS/TEN病態進展が急速で初期の試料検体が非常に得にくいという現状から、世界に先駆けて動物モデルを作成し、SJS/TEN類似の病変を発現し得たことは大きな意義がある。このマウスモデルは病態解明の基礎研究に加えて、将来的に治療研究、創薬などの臨床応用に貢献するものと期待される。また、SJS/TENの特徴として挙げられてきた細胞死の「アポトーシス」が、実は「ネクロプトーシス」であるとする結果は、画期的な知見であり、遺伝的背景を含めて、発症因子を明らかにできる可能性やSJS/TEN特異的な新規治療法開発にも寄与することが考えられる。予後調査ではDIHS回復後に自己抗体産生や自己免疫疾患が出現することが明らかになった。また、一部の自己免疫性水疱症に関する自己抗体が、DIHSでは回復後長期にわたり存在することが示された。さらに、興味あることに、自己抗体の出現はDIHSの治療と密接に関係していることも判明した。DIHS治療と転帰の解析は、今後の治療の選択へも影響を与える大きな要因となると考えられる。さらに、経過中の臓器障害、基礎疾患などを含めて詳細な検索を進めることが今後の課題である。薬疹発症から自己免疫現象発現までの経過を追求することは、自己免疫疾患全般の発症機序の解明に密接につながり、この成果は皮膚科のみならず、多くの分野に有益な情報を提供もたらす点で重要である。
結論
疫学調査で治療の実態は、特にDIHSの治療法についてさらなる普及活動が必要であることを示した。SJS/TENの病態における画期的知見や動物モデル作成は今後、初期診断、創薬へ応用できる可能性を含んでおり、さらに、世界に先駆けて進展させる必要がある。また、薬疹の回復後の自己抗体産生、自己免疫疾患発現の解明は、自己免疫疾患の発症の解明につながることが予想され、他科への成果の発信とともに継続して検証する必要がある。眼後遺症出現に関わる因子の解明、遺伝子検査による与薬回避システム構築などは、将来的な患者のQOLの低下を未然に防ぐことが可能になる点で大きな意義がある。今後、グローバルに本研究成果を発信していく必要がある。本研究で得られた成果を臨床応用へ導けば、国民の医療の向上、医療費削減に大いに貢献すると考えられる。
公開日・更新日
公開日
2014-07-23
更新日
2015-06-30