文献情報
文献番号
201324001A
報告書区分
総括
研究課題名
難治性炎症性腸管障害に関する調査研究
課題番号
H22-難治-一般-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
渡辺 守(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
- 坪内 博仁(鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科)
- 上野 文昭(大船中央病院)
- 藤山 佳秀(滋賀医科大学)
- 廣田 良夫(大阪市立大学 大学院医学研究科)
- 松井 敏幸(福岡大学筑紫病院)
- 三浦 総一郎(防衛医科大学校)
- 日比 紀文(北里大学北里研究所病院 )
- 岡崎 和一(関西医科大学)
- 杉田 昭(横浜市立市民病院)
- 高後 裕(旭川医科大学)
- 鈴木 康夫(東邦大学医療センター 佐倉病院)
- 千葉 勉(京都大学 大学院医学研究科)
- 味岡 洋一(新潟大学 大学院医歯学総合研究科)
- 福島 浩平(東北大学大学院医学系研究科)
- 渡邉 聡明(東京大学 大学院医学系研究科)
- 松本 主之(九州大学大学院)
- 有村 佳昭(札幌医科大学)
- 金井 隆典(慶應義塾大学医学部)
- 西脇 祐司(東邦大学医学部)
- 長堀 正和(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科)
- 中村 志郎(兵庫医科大学)
- 竹田 潔(大阪大学医学系研究科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
潰瘍性大腸炎(UC)およびクローン病(CD)は、若年者に数多く発症し、慢性に経過する症状により患者QOLを大きく損なう難治性炎症性腸疾患である。根本的治療が無く、今日なお患者数が増加の一途をたどることが、医学的見地のみならず社会的観点からも重要な問題である。我が国における最新の疫学解析をおこなうこと、時代に即した診断・治療・重症度分類の見直しをおこなうこと、病因を究明し新しい診断・治療法を開発すること、およびこれら最新情報を広く社会に発信することは、患者QOLの向上のみならず厚生労働行政への貢献という点においても重要である。平成22年度より3年間、UCおよびCDに関する調査研究をおこなった本班は、平成25年度に一年間の期間延長を得て、調査・研究をおこなった。
研究方法
具体的なプロジェクト(p)体系は以下の通りである。p-A) 総括的疫学解析プロジェクトでは、新しい臨床調査個人票の活用と全国レベルでのデータベース化をすすめ、我が国における炎症性腸疾患の最新疫学解析をアップデートすること、および発症に関わる因子の多施設解析を目指した。p-B) 臨床プロジェクトでは、診断基準・重症度基準の改訂、治療指針・ガイドラインの改訂などのコアプロジェクトをおこなうのみならず、専門施設を網羅したネットワークを利用した複数の多施設臨床研究を計画した。p-C) 基礎研究プロジェクトでは、新規診断・重症度診断・治療法選択の指標となりうるバイオマーカーを探索すること、および消化管再生機構を解明し臨床応用技術開発を目指すことを2大プロジェクトとし、目的志向型研究を展開した。p-D) 成果報告・啓発・専門医育成プロジェクトでは、調査研究班で得られた成果を社会に還元し、専門医育成および一般医家啓発のための活動をさらに発展させた。最終的には、これら複数のプロジェクトの有機的連携と効率的な成果の公開により、我が国における炎症性腸疾患診療体系の質的向上と均一化を介し患者QOLの向上を目指すこと、また総国民医療費の抑制を通じ医療財政へ貢献することを目的とした。
結果と考察
複数のプロジェクトを設定しスタートした本研究班では、最終年度となる平成25年度において大きな成果があげられた。すなわち1) 総括的疫学解析では、新しく構築した患者情報登録・予後追跡システムを利用し、我が国におけるUCおよびCDの総括的疫学解析が進み、最近の患者数増加と疾病構造変遷の背景となる環境因子の関与が明らかになった。2)基礎研究プロジェクトでは、前研究班の成果を集約し、「バイオマーカー探索」と「腸管再生研究」に重点をおいた結果、いくつかの新しい血清マーカーやゲノム遺伝子マーカーの発見があった。腸管再生研究では、世界で初となる大腸上皮幹細胞の体外培養技術、および本法で得られる培養細胞の移植による傷害上皮の再生技術を本研究班から公表し、大きな注目を集めることとなった(Nat Med 2012、Cell Stem Cell 2013)。3)臨床プロジェクトでは、本研究班で整備した拠点研究機関参加型臨床研究が進み、すでにいくつかはその成果を公表した。4)成果報告・啓発・専門医育成プロジェクトでは、診断・治療・管理知識等の普及を目的とした広報・啓蒙活動を広くおこなった。事業推進委員会による各地での市民公開講座や一般臨床医向けの教育講座のほか、本研究班独自の広報・啓蒙冊子の作成などの活動も目的通り遂行した。本研究班の成果を基礎として、今後も個々において質の高い複数のプロジェクトを、多角的に、研究者の有機的連携をもってすすめることにより、我が国における炎症性腸疾患診療体系の質的向上と均一化を介し患者QOLの向上が期待されるのみならず、不十分・不適切な医療による病態遷延や医療費高騰を是正し、総国民医療費の抑制を通じ医療財政への貢献も期待されると考える。
結論
研究代表者、分担研究者および研究協力者の協調的研究体制により、難治性炎症性腸疾患克服のためのプロジェクトを遂行する統合的調査研究を継続した。4年目となる平成25年度においても、疫学解析、臨床プロジェクト、基礎研究、成果の発信と啓発活動の各々で当初目指した成果が確実にあげられた。日常生活におけるQOLの著しい低下を余儀なくされる炎症性腸疾患患者に対し、高度でかつ均一な水準を維持した診断・治療体系の維持、基礎研究で得られた知見に基づく新しい治療法開発とその臨床応用、およびこれに基づく正しい情報の普及が可能になるものと期待される。
公開日・更新日
公開日
2014-07-23
更新日
2015-06-30