次世代シークエンス技術を駆使したウイルスゲノム解析によるC型肝炎の病態解明と臨床応用

文献情報

文献番号
201320019A
報告書区分
総括
研究課題名
次世代シークエンス技術を駆使したウイルスゲノム解析によるC型肝炎の病態解明と臨床応用
課題番号
H25-肺炎-一般-006
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
榎本 信幸(山梨大学 大学院医学工学総合研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 上野 義之(山形大学医学部)
  • 黒崎 雅之(武蔵野赤十字病院)
  • 鈴木 文孝(虎の門病院)
  • 相崎 英樹(国立感染症研究所)
  • 中本 安成(福井大学)
  • 朝比奈 靖浩(東京医科歯科大学)
  • 丸澤 宏之(京都大学大学院医学研究科)
  • 今村 道雄(広島大学病院)
  • 須田 剛生(北海道大学大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
39,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
●C型肝炎における病態の多様性はHCV遺伝子および宿主遺伝子の多様性を背景としていることから、ウイルス側因子の解明はHCV制御に不可欠と考えられる。しかしこれまでの研究は宿主体内のHCV変異体集団を部分的に解析した概要情報の集積であり、宿主内の変異ウイルス集団の遺伝情報の全体像と臨床像、宿主遺伝子情報との統合的な理解は全く進んでいない。
●本研究では近年の次世代シークエンス技術の急速な進歩を利用して、これまでにない膨大なC型肝炎ウイルス遺伝子および宿主遺伝子情報を得て宿主内HCV変異体(quasispecies)の全貌と臨床像との関係を明らかとして、病態解明、新規治療の開発へと展開することを目的とする。
研究方法
ウイルス変異情報を用いた個別化治療の構築
●抗ウイルス治療の効果を規定するHCVゲノムの解析: DAA(direct acting antivirals, 直接作用抗ウイルス薬)およびインターフェロン治療経過におけるHCV遺伝子のdeep sequencing解析を行い、治療抵抗性・耐性化を規定しているHCVゲノム構造と変異体構成の特徴の解明を進める(H25-27)。
●治療抵抗性HCV診断の臨床応用:治療抵抗性・耐性変異HCVの高感度検出法をdeep sequencingにより開発、治療効果予測、耐性変異モニタリングに臨床応用する(H25-26)。
●HCVゲノム変異情報のデータベース化と臨床導入基盤の形成:本研究より得られる遺伝子情報・機能情報・臨床情報を統合したデータベースを作成しデータマイニング解析を行う(H25-27)。
次世代シークエンス技術による新規治療法開発への基盤構築
●HCVゲノム変異を基軸とする病変の解析:経過観察症例および肝癌、肝移植症例などについてHCVゲノム変異動態を解明(H25-26)、血中miRNA、宿主遺伝子発現動態、肝癌ゲノム変異と関連させて解析する(H27) 。
●HCV治療抵抗性および病原性の分子機構の解析:耐性化・病態に関連する変異を持った感染クローンを再構成し(H25)、感染培養系およびヒト肝細胞キメラマウスに導入(H26)、分子機序を解析する(H27)。
●次世代シークエンス技術による感染持続機構の解明:自然免疫分子の発現動態解析と宿主内HCVゲノム変異動態との対応を明らかとし、HCVによる自然免疫攪乱機構を解明する (H25-27)。
結果と考察
ウイルス変異情報を用いた個別化治療の構築
●患者血清を用いたNS3プロテアーゼ阻害薬に対する耐性変異の検討において、NS3阻害剤耐性変異HCVは治療前から多くの症例に微量ながら存在した。一方、臨床的耐性HCVはこれらの変異HCVからは進展しておらず、野生型HCVに変異が生じることにより耐性へと進展していたことが系統樹解析から明らかとなった。すなわちNS3プロテアーゼに対する抵抗性獲得における機序の主体はselection(選択)ではなくmutation(変異)である可能性が示された。また、患者体内におけるHCVquasispeciesの構成はNS3プロテアーゼ阻害薬の開始に伴って大きく変化し、その構成変化は長期にわたり維持されることが示された。臨床的NS3阻害剤耐性HCVは出現後長期間(2年以上)にわたり患者に残存する場合もあることが確認された。
●NS5A阻害剤耐性HCVは、特にY93H変異では治療前から30%もの高頻度に存在することが明らかとなり、臨床的抵抗性に進展する可能性が懸念された。このため今後NS5A阻害剤の上市前に、実臨床に用いうる実用的な検出系を確立する必要性が明らかとなった。興味深いことにNS5A阻害剤耐性変異Y93Hは、宿主のIL28BSNPと有意に関連しており、患者のSNPによってNS5A阻害剤への感受性も異なる可能性が示された。IL28BSNPは内因性のインターフェロン発現に関与していることが考えられるため、今後予定されるIFNを含まないDAA阻害剤のみ治療においても、IFNおよびそのシグナルは治療効果に関与することが明らかとなった。

次世代シークエンス技術による新規治療法開発への基盤構築
●HCV全長にわたるHCV quasispeciesの検討する手法を確立した。
●住民コホートにおいてHCVによる肝発癌、ウイルス陰性化、生命予後肝発癌の関連を明らかとした。
●HCV慢性肝炎の組織中における欠損型HCVの存在と意義について明らかとした。
●HLAクラスII領域SNPと病態進展・肝発癌の関連を示した。
結論
C型肝炎ウイルスを中心に、宿主遺伝子を含めた遺伝子の次世代シークエンスを用いた検討を行うことにより、DAA治療抵抗性、肝炎の進行、肝発癌において重要な情報が得られることが示された。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2015-02-13
更新日
-

収支報告書

文献番号
201320019Z