多機能幹細胞を用いた自然免疫再構築による肝炎治療法の開発と臨床応用

文献情報

文献番号
201320016A
報告書区分
総括
研究課題名
多機能幹細胞を用いた自然免疫再構築による肝炎治療法の開発と臨床応用
課題番号
H25-肺炎-一般-003
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
大段 秀樹(広島大学大 大学院医歯薬保健学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 今村 道雄(広島大学病院)
  • 田原 栄俊(広島大学 大学院医歯薬保健学研究院)
  • 田中 純子(広島大学 大学院医歯薬保健学研究院)
  • 田中 友加(広島大学 大学院医歯薬保健学研究院)
  • 的崎 尚(神戸大学 大学院医学研究科)
  • 加藤 宣之(岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 渡辺 信和(東京大学 医科学研究所)
  • 尾上 隆司(独立行政法人国立病院機構 呉医療センター臨床研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
31,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、自然免疫再構築技術を応用したHCV根治療法を確立することを目的とし、新たな抗HCV自然免疫制御機構の解明とそれを基盤とした臨床試験を目指す。本年度は、新たな自然免疫抗HCV機構の解明、誘導NK細胞を用いた臨床応用への橋渡し研究および臨床研究を行った。
研究方法
誘導NK細胞を用いた臨床応用への橋渡し研究では、iPS細胞またはCD34+細胞から誘導したNK細胞の誘導効率およびテロメラーゼを含む遺伝的特徴を検討すると同時に、そのHCV複製抑制効果を、HCV肝炎感染ヒト肝細胞キメラマウスを用いて解析した。また生体肝移植後のC型肝炎ウイルス再感染に対するIFN治療効果に影響を与える因子の検討を行った。臨床研究では、肝癌に対するNK細胞移入療法による抗肝癌・HCV効果の検討を広島大学および米国マイアミ大学で継続した。さらにこれらの臨床検体におけるKIR遺伝子多型とHCV増幅機構の関連解析および多重染色フローサイトメトリー技術を用いたドナーNK細胞キメラ解析を行った。新たな自然免疫抗HCV機構の解明では、自然免疫系を再現し得るモデルとして不死化ヒト肝細胞株の作成を行い、そのフェノタイプをDNAマイクロアレイで解析した。またマウスを用いてマクロファージなど肝内免疫担当細胞の解析を行った。
結果と考察
抗HCV治療における自然免疫の主役をなすNK細胞は、iPS細胞や末梢血幹細胞から誘導可能である。iPS細胞からCD34+細胞、及びCD34+細胞からNK細胞への分化誘導を行ったところ、その効率はそれぞれ3~10%と10~20%であった。一方、ヒト末梢血由来CD34+細胞は90%以上の高効率でNK細胞に分化する能力を有していた。iPS細胞由来CD34+細胞のCD34 mRNA発現は末梢血由来CD34+細胞と同等であったが、細胞の分裂寿命の延長に働くテロメラーゼ及びBmi-1の発現は、iPS細胞由来CD34+細胞では低下していることを確認した。一方、CD34+造血幹細胞から誘導したNK細胞の抗HCV効果を、レプリコンおよびヒト肝細胞キメラマウスを用いたin vitroおよびin vivo実験により確認した。また、造血幹細胞から分化したnon-NK細胞には、HCVの細胞内侵入を助長する因子が含まれることを確認した。これらのことから、iPS細胞由来CD34+細胞からのNK細胞分化誘導効率を促進するためには、分裂能の低下を抑制するか、あるいは積極的に分裂能を高めることが必要であること、末梢血のCD34+細胞は誘導NK細胞の機能分子の誘導効率が高いが、誘導NK細胞の純度がその治療効果に重要であることが示唆された。臨床研究では、広島大学病院で施行された、肝癌合併生体部分肝移植に対するドナー肝由来活性化NK療法症例7例のうち5例で、有意な頻度のドナー由来細胞を検出可能であった。またHCV関連肝癌再発とKIR/HLA遺伝子多型との関連を解析した結果、licensed NK細胞の存在が再発率低下と有意に関連すること、さらにこの効果はHCV感染により減弱することを確認した。このことより自然免疫を用いた抗HCV治療においてLicense効果の意図的操作により治療効果を増強することが可能であることが示唆された。抗HCV自然免疫機構のさらなる解明を目的として、レトロウイルスを用いた遺伝子導入技術を用い、前半領域・および後半領域のHCVタンパク質を発現するヒト不死化肝細胞(PH5CH8/C-NS2細胞、PH5CH8/NS3-5B細胞)の作成に成功した。そのフェノタイプをDNAマイクロアレイで解析した結果、NK細胞上の活性化受容体NKG2DのリガンドであるULBP1の発現低下を確認した。このULBP1の低下はRT-PCRでも確認され、HCV感染肝細胞はNK細胞からの攻撃を逃れている可能性が示唆された。肝臓内免疫担当細胞の検討では、外来抗原表出細胞に対するマクロファージの貪食機能が、CD47-SIRPαシグナルを介して抑制されることを解明した。また類洞内皮細胞が抗原提示能・免疫抑制能を持つことを解明した。HCVは肝細胞に感染後、これらの機序により免疫から逃れている可能性を示唆すると考えられた。
結論
自然免疫抗HCV機構の解明を行い、CD34+造血幹細胞あるいはiPS細胞から抗HCV効果を有するNK細胞を誘導した。また効果的な治療を行うための因子を検討した。臨床応用に向けた課題に対して、計画に従って順調に研究を進めている。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2015-02-13
更新日
-

収支報告書

文献番号
201320016Z