文献情報
文献番号
201320002A
報告書区分
総括
研究課題名
肝移植後C型肝炎に対する治療法の標準化を目指した臨床的ならびに基礎的研究
課題番号
H23-肝炎-一般-002
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
上本 伸二(京都大学 医学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 千葉 勉(京都大学 医学研究科)
- 下遠野 邦忠(独立行政法人国立国際医療研究センター 肝炎・免疫研究センター)
- 森 正樹(大阪大学 医学系研究科)
- 大段 秀樹(広島大学 医歯薬保健学総合研究院)
- 太田 哲生(金沢大学 医薬保健研究域医学系)
- 朝長 毅(独立行政法人医薬基盤研究所 創薬基盤研究所)
- 上田 佳秀(京都大学 医学部附属病院)
- 増田 智先(九州大学 病院薬剤部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
29,000,000円
研究者交替、所属機関変更
研究分担者 増田 智先はH25.4.1-H25.8.31の間、京都大学医学部附属病院薬剤部講師として研究に参加。その後の異動に伴い、H25.9.1-H26.3.31まで九州大学病院薬剤部教授として研究に継続参加した。これにより所属機関変更ならびに職名変更を行った。
研究報告書(概要版)
研究目的
肝移植後C型肝炎症例の臨床像、治療成績を詳細に解析し、その予後、治療効果に関与するウイルス側、宿主側の因子を、次世代ゲノムアナライザー、プロテオミクス、培養細胞での感染系を用いて解析することにより、移植後C型肝炎に対する、効果的で副作用の少ない治療法を確立し、標準化することを目的とした。さらに肝移植後B型肝炎ウイルス活性化の現状を解析し、予防策の標準化を行う。
研究方法
1. 肝移植後C型肝炎についての臨床研究:肝移植後C型肝炎に対するテラプレビルを含む3剤併用療法の効果と安全性について解析を行った。
2. 肝移植後C型肝炎・B型肝炎についての基礎研究:HBc抗体陽性ドナーグラフト中のB型肝炎ウイルスの次世代ゲノムアナライザー解析、C型肝硬変の肝組織のプロテオーム解析、ならびに移植後ウイルス血症を呈する宿主因子の基礎研究を行った。
2. 肝移植後C型肝炎・B型肝炎についての基礎研究:HBc抗体陽性ドナーグラフト中のB型肝炎ウイルスの次世代ゲノムアナライザー解析、C型肝硬変の肝組織のプロテオーム解析、ならびに移植後ウイルス血症を呈する宿主因子の基礎研究を行った。
結果と考察
1. テラプレビルと免疫抑制剤との相互作用を克服するため、タクロリムスからシクロスポリンへのコンバート、テラプレビル開始後のシクロスポリンの治療薬物モニタリングによる投与量の調節を行った。その結果、免疫抑制剤濃度に大きな変化を与えることなくテラプレビルの投与が可能となり、拒絶反応や感染は認めなかった。全体で11人中9人でsustained virological response (SVR)を達成することができ、治療効果は良好であった。治療中には全身倦怠感、貧血、腎障害などの有害事象を認め、それぞれ対策を要したが、治療終了後に改善を認めた。これらのことから、肝移植後C型肝炎に対して、DAAを含む3剤併用療法を安全かつ効果的に行うことができることが明らかとなった。
2. 次世代ゲノムアナライザーによるHBc抗体陽性ドナーの肝内潜伏HBVの解析から、肝内潜伏HBVの多様性は極めて低く、均一なHBVが存在していることが明らかになった。このことから、潜伏しているHBVの遺伝子解析を行い、増殖力の強いG1896A変異株や、HBs抗体エスケープ変異株、核酸アナログ耐性変異株などの存在を同定することが、肝移植後のHBV活性化予測やその予防策の選択に有用である可能性が示唆された
C型肝硬変肝癌発症・非発症サンプルのプロテオーム解析の結果、C型肝硬変サンプルと正常肝サンプルでのプロテオームプロファイルは大きく異なる一方で、C型肝硬変、肝癌非発症・発症サンプル間の差は小さく、2倍以上の発現量の差が見られたタンパク質は42個であった。これらの発現差のあるタンパク質は、肝癌非発症・発症を予測するマーカータンパク質としてのポテンシャルを有するとともに、発症機構解明の手がかりとなりうる。
さらに、in vitroでのHCV基礎解析の結果、低酸素条件下ではウイルスゲノム複製が亢進する一方で、感染そのものも亢進することが明らかになった。その際、低酸素条件下で発現誘導されVLDLRが感染を亢進することを明らかにした。移植後のウイルス血症がこのようなHCV感染機構の変化によりもたらされる可能性が考えられた。
2. 次世代ゲノムアナライザーによるHBc抗体陽性ドナーの肝内潜伏HBVの解析から、肝内潜伏HBVの多様性は極めて低く、均一なHBVが存在していることが明らかになった。このことから、潜伏しているHBVの遺伝子解析を行い、増殖力の強いG1896A変異株や、HBs抗体エスケープ変異株、核酸アナログ耐性変異株などの存在を同定することが、肝移植後のHBV活性化予測やその予防策の選択に有用である可能性が示唆された
C型肝硬変肝癌発症・非発症サンプルのプロテオーム解析の結果、C型肝硬変サンプルと正常肝サンプルでのプロテオームプロファイルは大きく異なる一方で、C型肝硬変、肝癌非発症・発症サンプル間の差は小さく、2倍以上の発現量の差が見られたタンパク質は42個であった。これらの発現差のあるタンパク質は、肝癌非発症・発症を予測するマーカータンパク質としてのポテンシャルを有するとともに、発症機構解明の手がかりとなりうる。
さらに、in vitroでのHCV基礎解析の結果、低酸素条件下ではウイルスゲノム複製が亢進する一方で、感染そのものも亢進することが明らかになった。その際、低酸素条件下で発現誘導されVLDLRが感染を亢進することを明らかにした。移植後のウイルス血症がこのようなHCV感染機構の変化によりもたらされる可能性が考えられた。
結論
治療薬物モニタリングにより、肝移植後C型肝炎に対するテラプレビルを含む3剤併用療法による安全かつ効果的な治療が可能であった。この結果より、肝移植後C型肝炎症例に対してもDAAが使用可能であることが明らかとなり、今後、肝移植後C型肝炎に対する治療成績向上ならびに予後改善が期待できる。
また、臨床研究と基礎研究の両面から肝移植後C型肝炎ならびに肝移植後B型肝炎対策の効果予測、有害事象予測が可能となってきた。以上の解析結果から、より有効で有害事象の少ない対策法の確立が可能となった。
また、臨床研究と基礎研究の両面から肝移植後C型肝炎ならびに肝移植後B型肝炎対策の効果予測、有害事象予測が可能となってきた。以上の解析結果から、より有効で有害事象の少ない対策法の確立が可能となった。
公開日・更新日
公開日
2015-06-03
更新日
-