HIVエンベロープの治療標的構造に関する研究

文献情報

文献番号
201319025A
報告書区分
総括
研究課題名
HIVエンベロープの治療標的構造に関する研究
課題番号
H25-エイズ-一般-006
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
吉村 和久(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 横山 勝(国立感染症研究所 病原体ゲノム解析研究センター)
  • 武内 寛明(東京医科歯科大学医歯学総合研究科 ウイルス制御学分野 )
  • 細谷 紀彰(東京大学医科学研究所 感染症国際研究センター )
  • 井上 誠(ディナベック株式会社)
  • 鳴海 哲夫(静岡大学工学部  大学院工学研究科 )
  • 桑田 岳夫(熊本大学 エイズ学研究センター )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
18,060,000円
研究者交替、所属機関変更
研究分担者所属機関変更情報 鳴海 哲夫(研究者ID: 2050547867) 旧)東京医科歯科大学 (生体材料工学研究所) 、助教;~H25.9.30  新)静岡大学工学部 (大学院工学研究科)、准教授;H25.10.1~

研究報告書(概要版)

研究目的
HIVの同定以来、治療薬の開発はHIV特異的酵素を標的とするものが主流であった。ところが近年、より感染初期の段階での阻害を目的とする薬剤の開発が進んで来た。このことは、Envの構造を中心とした感染の侵入過程の基礎的研究の遂行が、新たなHIV治療標的及び免疫原の発見において、また新規治療法の開発において必要不可欠な課題であることを示している。
 この研究班では、Envが薬剤もしくは中和抗体から逃避する過程で誘導される立体構造が、新たな免疫原として、もしくは薬剤のターゲットとしてどのように形成されているかをウイルス学的側面と構造シミュレーションの面から検討し、かつ対応する標的細胞からのアプローチもあわせて行い、その過程で判明するEnvの立体構造上の脆弱性の発見を目指す。
研究方法
平成25年度は、柱(1)では新規薬剤開発とそれらの薬剤や抗体からの逃避ウイルスを誘導し解析をした(吉村、鳴海、井上、桑田)。また、逃避変異Envの立体構造および動的性質の影響を解析するため、HIV-1 gp120全長分子モデルおよびV1/V2を除いたHIV-1 gp120分子モデルを、ホモロジーモデリング法と分子動力学計算を組み合わせることにより構築を試みた(横山)。柱(2)では、変異Envと受容体との関係を、迅速かつ様々な組み合わせで調べるため、分割タンパク質を用いた新規アッセイ系の構築を試みた(細谷)。また、受容体の発現や、感染効率を変化させ得る細胞内因子を独自のshRNAの系を用いて探索した(武内)。
結果と考察
変異Envの立体構造変化と薬剤及び抗体感受性の関係の研究(柱1):本研究により得られたHIV-1 gp120全長分子モデルは、最近報告されたクライオ電子顕微鏡の結果や、X線結晶構造解析の結果とほぼ一致したことから、変異がgp120の立体構造および動的性質に与える影響を解析するための、基盤となる構造が構築できたといえる。今後この成果をもとにCD4MC耐性変異の解析を進めていく予定である。IC9564のベツリン酸の3位ヒドロキシ基およびスタチンのカルボキシル基は抗HIV活性発現とEnvとの相互作用に大きく寄与しており、これらに構造変化誘起能を付与することでケミカルプローブの創製が期待できる。SIV中和抗体B404は、これまでに報告されている抗HIV-1抗体とは異なるエピトープを認識していた。よってEnvの機能を阻害して感染を阻止するための、新たな標的部位となる可能性が期待されている。
変異Envと受容体に関する研究(柱2):DSP-Pheno assayはP3や生ウイルスを使用せず安全に最短5日でco-receptor usageを測定可能である。また大量検体が処理でき、今後阻害薬などのスクリーニングなどにも応用可能であると考えられる。ゲノムワイドスクリーニング法によりABPおよびイオンチャネル分子が細胞膜近傍に局在する新規HIV-1感染制御因子であることが判明した。この結果によりHIV-1感染過程における吸着・侵入過程メカニズムの理解を深めることが可能となるだけでなく、新たな治療標的となる可能性が示唆された。
結論
HIV-1 gp120の中和抗体逃避において、V1/V2は重要な役割を果たすと考えられる。今後、多くの逃避ウイルス変異との比較検討を行う事で、モデリングの精度をより上げて行く事が可能となる。また、Env三量体の構造変化を制御する新規のケミカルプローブの創製を目指して、IC9564の誘導体化研究を行い、ベツリン酸の3位ヒドロキシ基およびスタチンのカルボキシル基の構造活性相関を明らかにすることでHIV侵入阻害剤の創製研究を一歩前に進めることができた。SIVに対する抗体としては初めての広範囲中和抗体であるB404を分離し、その結合や逃避に重要なEnv部位を絞り込むことができた。今後は、B404逃避ウイルスやB404結合部位の解析を進め、感染を阻止するための新たな標的を探索していく。HIVで行っている研究との比較により、感染モデルとしてのサルの有用性の議論が可能となるといえる。
 新たなフェノタイプ検査系としてDSP-Pheno assayを樹立する事に成功し、HIV実験室株および臨床分離株を用いて薬剤などの阻害能を評価する事が可能となった。また、HIV-1感染過程におけるHIV-1侵入過程を制御する新規細胞内因子を2種見出すことができ、新たな治療標的となる可能性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2015-07-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201319025Z