HIV Gag蛋白質と関連因子の治療標的構造の解明に向けた統合的研究

文献情報

文献番号
201319022A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV Gag蛋白質と関連因子の治療標的構造の解明に向けた統合的研究
課題番号
H25-エイズ-一般-003
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 裕徳(国立感染症研究所 病原体ゲノム解析研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 塩田 達雄(大阪大学微生物病研究所 感染機構研究部門 )
  • 増田 貴夫(東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 )
  • 梁 明秀(横浜市立大学 医学部微生物学 )
  • 櫻木 淳一(大阪大学微生物病研究所 感染機構研究部門 )
  • 間 陽子(理化学研究所 分子ウイルス学特別研究ユニット)
  • 野間口 雅子(徳島大学大学院 ヘルスバイオサイエンス研究部 )
  • 蝦名 博貴(京都大学 ウイルス研究所)
  • 村上 努(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
  • 玉村 啓和(東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
18,447,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 世界のHIV感染者数の推計は約3,500万人に達する。感染者からウイルスを完全に排除する方法はまだ無い。HIV感染の拡大を防ぎ、適切な治療を行う必要性は非常に高い。本研究では、まだ予防・治療標的として確立していないHIV Gag蛋白質を研究対象とし、この分子の構造・機能・可変能に関する基礎ウイルス学情報を収集し、Gag蛋白質を標的とする新たなウイルス制御法開発の土台をつくることを目的とする。
研究方法
 近年、生体分子の振る舞いをコンピュータにより近似する技術が急速に進歩している。2013年度ノーベル化学賞はこの技術の先駆者が受賞した。我々は約10年前にこの技術を蛋白質の構造解析に取り入れ、ウイルスの複製、薬剤耐性、免疫逃避、宿主指向性などの分子基盤の理解に極めて有用であることを立証してきた。そこで本研究では、計算科学のアプローチによる構造解析を軸とし、実験と情報科学の手法を取り入れてGagとその制御因子の構造・機能・可変能に関する基礎ウイルス学情報を収集する。得られた知見を基にGag蛋白質の重要な機能部位を特定し、機能発現を遮断するリード化合物を探索・合成し、抗HIV活性を評価する。
結果と考察
 Gagの機能の大半は細胞内で発現する。重要な機能の発現を遮断すればウイルスの増殖は阻止できる。しかし、細胞内Gagの構造や機能を解析する系はまだ無く、どのような構造や機能を標的とすれば効果的にウイルス複製を遮断できるのかは不明である。そこでH25年度(初年度)は、まず細胞内Gagの検出系の構築を試みた。並行して、既知のGagに関する情報を基に、計算科学、情報科学等の手法により、創薬標的の予備的探索を行った。さらに、種々のアプローチで、Gagの機能に関する基礎ウイルス学情報を収集した。(1)感染初期の細胞内Gag複合体を検出し、その構造動態を調べるin situ uncoating assay、およびminiSOG標識Gagを用いて翻訳後のGagの検出し、複合体形成や細胞内動態を解析するGagライブイメージング系の構築を進めた。今後、これらの実験系の改良を進め、ウイルスの感染初期過程、および後期過程におけるGagの構造動態、機能、制御因子を明らかにし、新たな作用点をもつHIV複製阻害剤につなげたい。(2)MOEのSBDD用ツールとShannon情報エントロピーを用いてHIV-1コア表面の構造特性と多様性を解析し、カプシド蛋白質の多量体界面(C末端領域間の接触部位)に保存性ポケットが存在することを見出した。このポケットを形成するアミノ酸残基は、株間で比較的保存されている。今後、このポケットに結合する分子を設計・合成し、その抗HIV活性を評価したい。(3)配列比較と変異導入解析により、カプシド蛋白質のβ-hairpin、helix3、helix 4、helix 7のそれぞれに、ウイルスの増殖能の維持に必要なアミノ酸残基(Q13,Q50Y,K70,R82,I135)を見出した。これらの部位は、まだ知られていない重要な役割を担う部位である可能性がある。(4)HIV-1インテグラーゼの二量体間インターフェースにおけるNTD-CCDドメイン間相互作用に必須のアミノ酸残基を同定し、当該相互作用が感染性ウイルス粒子コアの形成/維持に関わる可能性を示唆した。(5)細胞のキナーゼaPKCがHIV-1 Gag の487番目のセリンをリン酸化することを見出し、このリン酸化はVprのウイルス粒子内への取り込みを促進させることで、マクロファージにおけるウイルスの感染性の増強に寄与することを示した。(6)Gag依存的なゲノムパッケージングを解析し、ゲノム二量体化開始点に未報告の機能構造が存在することを示唆した。(7)VprとGag p6の相互作用を標的とする阻害剤候補を探索するELISA binding法を構築し、構造多様性を考慮した9600個の化合物を入手した(8)カプシド、およびマトリクス蛋白質全域をカバーする細胞浸潤性ペプチドライブラリーとCyp A binding loop環状ペプチド誘導体を化学合成した。(9)HIV-1 Gag マトリクス部分ペプチドは抗HIV作用をもつこと、作用点はウイルスのCD4結合後膜融合に至る過程であることを示唆した。
結論
細胞内でのウイルス感染初期のGag複合体、および感染後期のGagを検出し、その動態、機能、制御因子を解析する実験系を構築した。計算科学と情報科学のアプローチを取り入れて、創薬標的の予備的探索を行い、標的候補部位を同定した。Gag蛋白質を標的とするリード化合物創成に必要な基礎ウイルス学知見を蓄積した。

公開日・更新日

公開日
2015-07-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-07-03
更新日
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収支報告書

文献番号
201319022Z