細胞培養インフルエンザワクチンの実用化および流行予測とワクチン株選定に関する研究

文献情報

文献番号
201318054A
報告書区分
総括
研究課題名
細胞培養インフルエンザワクチンの実用化および流行予測とワクチン株選定に関する研究
課題番号
H23-新興-指定-021
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
田代 眞人(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 小田切 孝人(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター )
  • 岸田 典子(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター )
  • 藤崎 誠一郎(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター )
  • 原田 勇一(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター )
  • 高橋 仁(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター )
  • 信澤 枝里(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター )
  • 浅沼 秀樹(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター )
  • 山本 典生(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター )
  • 中村 一哉(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター )
  • 浜本 いつき(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
102,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1)国内外の流行株の収集と性状解析
2)血清学的調査によるワクチンの有効性の評価
3)新規機能的遺伝子解析法の構築
4)H7N9ウイルスに対するリスク評価
6)細胞培養ワクチン製造施設におけるバイオセーフティー対策についての検討と提言
7)細胞培養法によるウイルス分離効率の解析、分離ウイルスの遺伝的安定性、抗原的安定性、増殖能、免疫原性の解析と品質管理試験への影響分析
8)シードウイルス製造用セルバンクの評価と開発、迷入ウイルス検出系の構築
9)ウイルスの増殖性に関与する因子の解析と、新規MDCK細胞の開発に関する研究
研究方法
1)WHO世界インフルエンザ監視対応システム(GISRS)で世界中から収集した流行株について、抗原性解析、遺伝子解析、薬剤耐性株の検出などを行った。ワクチンの効果については、季節性インフルエンザワクチン接種前後のペア血清を用いて評価を行ない、またHAおよびNA遺伝子解析、NA阻害薬感受性試験を行った。
2)緊急対応として、A(H7N9)ウイルスのリスク評価のための研究を行った。日本人のH7N9ウイルスに対するHI抗体保有状況については赤血球凝集抑制(HI)試験により調査した。
3) 細胞培養インフルエンザワクチンの実用化が新型インフルエンザから季節性インフルエンザにも範囲を広げつつあるという状況を踏まえて、(1)プロトタイプ申請に必要となる、異なる亜型のウイルスを用いた動物攻撃試験の実施 (2)細胞培養ワクチン用シードウイルス (3)SRD試験法およびSRD代替法 (4)プレパンデミックワクチンの細胞培養法での製造 (5)季節性インフルエンザワクチンの細胞培養法での製造 等についてのディスカッションを行った。

結果と考察
1) 流行するウイルスの抗原性の把握と流行予測自体は適切に実施されているが、インフルエンザワクチンは卵で製造されるため、特に最近のA(H3N2)およびB型ワクチン株は製造過程で抗原性が原株から大きく変化する。このような変異株で製造されるワクチンで誘導されるヒト血清抗体は、流行株との交叉反応性が低下しており、ワクチン効果が大きく減弱している可能性が明らかとなった。この問題は、卵でワクチンを製造する限り毎年起こり、A(H3N2)およびB型ワクチン製造を卵で行うことは、もはや限界にきていることを明確に示している。製造法を細胞培養ワクチンへ切り換えることで、この問題は解決できると期待される。
・現時点では、効率的なヒト−ヒト感染は確認されていないが、H7N9インフルエンザウイルスがヒトへの感染能を高めた場合、このウイルスに対して、日本人はHI抗体を持たないことから、全ての年齢層で高い感染リスクがあると考えられる。また、ヒトがH7N9ウイルスに感染する際の感染源がニワトリである可能性が低いことも示唆された。
2)・細胞培養ワクチン実用化において各班員に共通する一般的問題点を抽出、整理し「細胞培養インフルエンザワクチンの安全性に関するPoints to Consider(案)2011」としてまとめた。
・細胞培養ワクチン製造施設におけるバイオセーフティー対策についての検討を行い、結果を「細胞培養法による新型インフルエンザワクチン製造におけるバイオセーフティ対策」としてまとめた。
・実施した全ての安全性試験・特性試験において特に問題となる点を認めなかったこと、および実用レベルで使用可能なウイルス分離効率を持つことから、MDCK-NIIDは臨床検体からのシードウイルスの分離、リバースジェネティクスによるシードウイルス作製、及び海外からのリファレンス株の増殖などに使用することが出来ると考えられた。
結論
・A(H1N1)pdm09、A(H3N2) およびB型いずれにおいても、ワクチン効果の減弱が懸念された。
・A(H7N9)ウイルスは、ヒトへの感染および増殖に関与するアミノ酸置換を持つことが明らかになった。一方、ニワトリにおいてはウイルス排泄量は多くなく、病原性も低かった。日本人はこのウイルスに対するHI抗体を持たないことから、高いリスクがあると言え、今後もウイルスの動向を監視していく必要がある。
・平成25年度末までに細胞培養ワクチンの承認を得るという、本研究プロジェクトの大きな目標が達成できる見込みとなった。
・ウイルス株・ウイルス亜型によってヒトに対する免疫原性が異なることが示された。従って、プロトタイプワクチンの考え方については、当初の目的通りのモックアップ対応が必ずしも適当でないことが懸念される。
・GMPグレードのMDCK細胞 (MDCK-NIID)等の評価と細胞培養ワクチン製造用種ウイルスの母体ウイルスベクターの検討を行い、国立感染症研究所におけるシードウイルス製造体制の構築を進めることができた。

公開日・更新日

公開日
2015-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201318054B
報告書区分
総合
研究課題名
細胞培養インフルエンザワクチンの実用化および流行予測とワクチン株選定に関する研究
課題番号
H23-新興-指定-021
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
田代 眞人(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 小田切 孝人(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター)
  • 岸田 典子(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター)
  • 藤崎 誠一郎(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター)
  • 原田 勇一(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター)
  • 高橋 仁(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター)
  • 信澤 枝里(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター)
  • 浅沼 秀樹(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター)
  • 山本 典生(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター)
  • 中村 一哉(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター)
  • 浜本 いつき(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1)国内外の流行株の収集と性状解析
2)血清学的調査によるワクチンの有効性の評価
3)新規機能的遺伝子解析法の構築
4)H7N9ウイルスに対するリスク評価
5)細胞培養ワクチン製造施設におけるバイオセーフティー対策についての検討と提言
6)細胞培養法によるウイルス分離効率の解析、分離ウイルスの遺伝的安定性、抗原的安定性、増殖能、免疫原性の解析と品質管理試験への影響分析
7)シードウイルス製造用セルバンクの評価と開発、迷入ウイルス検出系の構築
8)ウイルスの増殖性に関与する因子の解析と、新規MDCK細胞の開発に関する研究
研究方法
1)WHO世界インフルエンザ監視対応システム(GISRS)で世界中から収集した流行株について、抗原性解析、遺伝子解析、薬剤耐性株の検出などを行った。ワクチンの効果については、季節性インフルエンザワクチン接種前後のペア血清を用いて評価を行ない、またHAおよびNA遺伝子解析、NA阻害薬感受性試験を行った。
2)緊急対応として、A(H7N9)ウイルスのリスク評価のための研究を行った。日本人のH7N9ウイルスに対するHI抗体保有状況については赤血球凝集抑制(HI)試験により調査した。
3)ワクチンメーカーに質問表を送付し、承認申請への進捗状況について情報提供を頂き、評価委員によるヒアリングと研究班員・ワクチンメーカーによるWG会議を厚労省結核感染症課の担当者の同席の下に行った。細胞培養H5N1インフルエンザワクチンの承認申請に必要となるH5N1野生株を用いた攻撃試験、および異なる亜型のウイルスによる攻撃試験を行った。H9N2およびH7N9ウイルスを用いた攻撃試験の基礎検討を行った。またGMP基準に適合したMDCK-NIIDについて、がん原性試験、迷入ウイルス否定試験、特性試験等を含む36の試験を行った。
MDCK-NIID、ノバルティス社浮遊系培養細胞MDCK_N、クルーセル社Per.C6、従来の付着系MDCK細胞であるMDCK_Cについて、ウイルス分離試験と分離ウイルスの性状解析を行った。
結果と考察
1)・2010~2013年シーズンの間にA(H1N1)pdm09とA(H3N2) には大きな抗原性の変化は認められなかった。B型については、2010/11シーズンはVictoria系統が流行の主流であったが、2011/12と2012/13シーズンの流行の主流はYamagata系統であった。各系統の中では大きな抗原性の変化は認められなかった。
・どのワクチンにおいても有効性の低下という問題が見られるが、特に深刻なのはH3N2とB型であり、その原因として鶏卵馴化による抗原性の変化が考えられる。この問題を解決するには細胞培養ワクチンの早期導入が必要と思われる。
・NA阻害薬感受性試験により薬剤耐性を示すB型インフルエンザウイルス分離株から、特徴的なアミノ酸置換E105K, Q138R, P139S, G140Rを検出した。
・NA阻害薬感受性試験から、アミノ酸置換が薬剤に対する感受性を低下させることを確認した。
2)・細胞培養ワクチン実用化において各班員に共通する一般的問題点を抽出、整理し「細胞培養インフルエンザワクチンの安全性に関するPoints to Consider(案)2011」としてまとめた。
・細胞培養ワクチン製造施設におけるバイオセーフティー対策についての検討を行い、結果を「細胞培養法による新型インフルエンザワクチン製造におけるバイオセーフティ対策」としてまとめた。
・実施した全ての安全性試験・特性試験において特に問題となる点を認めなかったこと、および実用レベルで使用可能なウイルス分離効率を持つことから、MDCK-NIIDは臨床検体からのシードウイルスの分離、リバースジェネティクスによるシードウイルス作製、及び海外からのリファレンス株の増殖などに使用することが出来ると考えられた。
結論
1)引き続きサーベイランス体制の維持と定期的なワクチン効果の検証が必須である。
2)A(H7N9)ウイルスは、ヒトへの感染および増殖に関与するアミノ酸置換を持つことが明らかになった。一方、ニワトリにおいては病原性も低かった。日本人はこのウイルスに対するHI抗体を持たないことから、高いリスクがあると言え、今後もウイルスの動向を監視していく必要がある。
3)ワクチンメーカーによる細胞培養ワクチン実用化を強力に支援し、平成25年度末までに細胞培養ワクチンの承認を得るという、本研究プロジェクトの大きな目標が達成できる見込みとなった。
4)ウイルス株・ウイルス亜型によってヒトに対する免疫原性が異なることが示された。従って、プロトタイプワクチンの考え方については、当初の目的通りのモックアップ対応が必ずしも適当でないことが懸念される。

公開日・更新日

公開日
2015-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201318054C

成果

専門的・学術的観点からの成果
・細胞培養ワクチン実用化に向けた支援を行い、2014年3月に承認を得ることができた。
・H7N9ウイルスのリスクについて検討した。
・サーベイランス体制の維持と定期的なワクチン効果の検証の重要性を提示。
臨床的観点からの成果
・季節性のウイルスについて性状分析を行った
・NA阻害薬感受性試験により薬剤耐性を示すB型インフルエンザウイルス分離株から、特徴的なアミノ酸置換E105K, Q138R, P139S, G140Rを検出した。
・NA阻害薬感受性試験から、アミノ酸置換が薬剤に対する感受性を低下させることを確認した。
・細胞培養法によるワクチン開発の実用化
ガイドライン等の開発
細胞培養インフルエンザワクチンの安全性に関するPoints to Consider(案)2011
細胞培養法による新型インフルエンザワクチン製造におけるバイオセーフティ対策
その他行政的観点からの成果
・細胞培養法によるワクチン開発の実用化
その他のインパクト
なし

発表件数

原著論文(和文)
7件
原著論文(英文等)
60件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
90件
学会発表(国際学会等)
15件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Fujisaki, S., Takashita, E., Yokoyama, M., Taniwaki, T et al.
A single E105K mutation far from the active site of influenza B virus neuraminidase contributes to the reduced susceptibility to multiple neuraminidase inhibitor drugs.
Biochem. Biophys. , 429 , 51-56  (2012)
原著論文2
Kishida, N., Imai, M., Xu, H., Taya, K. et al.
Seroprevalence of a novel influenza A(H3N2) variant virus in the Japanese population.
Jpn. J. Infect. Dis. , 66 , 549-  (2013)
原著論文3
Watanabe, T., Kiso, M., Fukuyama, S., Nakajima, N. et al.
Characterization of H7N9 influenza A viruses isolated from humans
Nature , 501 , 551-555  (2013)
原著論文4
Kageyama, T., Fujisaki, S., Takashita, E., Xu, H. et al.
Genetic analysis of novel avian A(H7N9) influenza viruses isolated from patients in China, February to April 2013.
EuroSurveill. , 18 (15) , 11-  (2013)
原著論文5
Uchida, Y., Suzuki, Y., Shirakura, M., Kawaguchi, A. et al.
Genetics and infectivity of H5N1 highly pathogenic avian influenza viruses isolated from chickens and wild birds in Japan during 2010-2011
Virus Res. , 170 , 109-117  (2012)
原著論文6
Ainai, A., Tamura, S-I., Suzuki, T., vanRiet, E. et al.
Intranasal vaccination with an inactivated whole influenza virus vaccine induces strong antibody responses in serum and nasal mucus of healthy adults.
Human Vaccines & Immunotherapeutics , 9 (9) , 1-8  (2013)

公開日・更新日

公開日
2014-06-10
更新日
2015-05-25

収支報告書

文献番号
201318054Z