東日本大震災における精神疾患の実態についての疫学的調査と効果的な介入方法の開発についての研究

文献情報

文献番号
201317093A
報告書区分
総括
研究課題名
東日本大震災における精神疾患の実態についての疫学的調査と効果的な介入方法の開発についての研究
課題番号
H24-精神-一般(復興)-002
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
松岡 洋夫(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 金 吉晴(独立行政法人 国立精神•神経医療研究センター 精神保健研究所)
  • 富田 博秋(東北大学 災害科学国際研究所)
  • 酒井 明夫(岩手医科大学 医学部)
  • 丹羽 真一(福島県立医科大学 会津 医療センター準備室 )
  • 大野 裕(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター)
  • 松本 和紀(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 柿崎 真沙子(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 加藤 寛(ひょうご震災記念21世紀研究機構 兵庫県こころのケアセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
東日本大震災の主な被災3県で精神保健医療領域での支援を行ってきた研究者が中心となり、1)被災地での精神疾患の発生と支援の実態に関する疫学調査を行い、2)災害後の精神保健医療対応の問題点を検討して災害時に役立つ精神保健医療支援システムを構築し、3)災害と関連した精神疾患の発症メカニズムの解明と予防的介入方法の開発を目指す。
研究方法
災害後の精神疾患の発症状況を明らかにする目的で、被災地住民のみならず行政や医療機関などの職域における支援者の精神的健康調査のために、適切な倫理的配慮のもとで行政機関等の協力を得て疫学調査を行なう。岩手と宮城では震災後の精神疾患の予防と早期介入の視点で、急性期対応の問題点と中長期的なこころのケアの地域体制作りの方法論を検討し、時系列的に必要な事業、人材、ネットワーク等を明示する。福島では放射能汚染への不安やストレスと精神疾患発症との関連、受診動向等を調べる。また、被災急性期の様々な被災実態に関する報告会を開催し報告書を作成する。さらに、亜症候性の抑うつ症状への自己学習冊子を作成し、簡易型認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy, CBT)を用いた支援について、人材の育成も含めて研究会・研修会などを開催し普及させ、CBTに基づく心理支援を実施し効果を検討する。
結果と考察
1)実態調査:震災直後の1年間、精神科外来では、震災・原発事故と関連する急性ストレス障害、外傷後ストレス障害PTSDの患者が増加したが、うつ病は増加しなかった。入院では、錯乱状態、躁状態、せん妄などの患者が多かった。震災2年目には、こうした影響が徐々に減少しうつ病が増加した。発災時に周産期を体験した母親に、被災状況、現在の精神状態、母子関係などについて調査を行い、周産期の被災が母親の生活や健康に多様な影響をもたらすことが明らかになった。被災地の行政などの職員は、被災者でありながら支援に携わるため健康問題が危惧されたため調査を行ったところ、被災地一般住民と同等以上の精神的苦痛、さらにうつ病相当の抑うつ症状を呈する職員も相当数認められ、継続して健康調査と対策を実施していくことが重要と考えられた。
2)被災後の精神保健医療システムと健康調査方法:震災後急性期・中長期での被災地支援のためのこころのケアモデルとして、専門家や行政主体の急性期から、徐々に地域主体の住民力向上へと繋げていくような包括的な精神保健医療対策が重要であった。特に、自殺対策と連動させ、様々なレベルの支援者育成を行い、急性期にはメンタルヘルスファーストエイド、中長期には低強度CBTなどを普及させることが有益と思われた。我が国の災害時における疫学調査を概観したところ、抑うつ・不安に関してはGHQ、K6/K10、PTSD症状に関してはIES-R、SQDなどが用いられていた。これらの尺度を用いて、スクリーニングする際、既定のカットオフ値を採用すると対応不可能な要フォロー者が多数抽出されるため、基準を上げるか、他の指標と組み合わせることが有用だった。今後、妥当性を検討する研究が求められる。
3)災害関連精神疾患の発症メカニズムと予防的介入方法の開発:文献レビューなどから、被災患者の治療において、うつ病とPTSDの併存への注意が重要で、相互に疾患の回復を妨げ、社会的予後を悪化させ、時には自殺リスクを高める調整要因となりうることを考慮する必要性が示された。被災住民に対して、CBTに基づく研修プログラムと災害復興期の心理的支援方法であるサイコロジカル・リカバリー・スキルを実施するためのプログラムを開始したが、その実行可能性が示された。災害後のうつ病予防のための簡易型CBTの内容を踏まえた教育プログラムを作成し、被災自治体の地域支援者を対象に実施した。さらに、ボランティア等の教育プログラムも作成し、研修教育資材を作成した。以上、CBTプログラムを提供することで、被災地域における中長期的視点に立ったこころのケア対策が展開できる可能性がある。
結論
被災地での疫学調査によって、PTSDやうつ病が経時的に異なる増加パターンを示した。被災住民のみならず、行政などの支援者、妊婦など特異な状況に置かれている被災者にも注目する必要がある。災害後には急性期から中長期へと視点を変えながら、支援に関わる人材育成を行ないつつ、地域特性を考慮した包括的な精神保健医療支援システムを構築することが重要である。災害後のうつ病等を予防するために、CBTやその他の教育プログラムを開発し実施体制を整備し、一般住民に広く普及していくことが可能である。なお、本研究の最終成果に基づき、災害時のメンタルヘルスに関するテキストとしてまとめ、多くの精神保健医療関係者に成果を還元したい。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-

収支報告書

文献番号
201317093Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
39,000,000円
(2)補助金確定額
39,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 7,088,504円
人件費・謝金 12,342,124円
旅費 4,277,967円
その他 6,292,083円
間接経費 9,000,000円
合計 39,000,678円

備考

備考
物品費で購入予定のものが、年度内に新製品に変更となり若干金額のずれが生じたためで、678円は自己負担額として処理した。

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-