精神疾患患者に対する早期介入とその普及啓発に関する研究

文献情報

文献番号
201317048A
報告書区分
総括
研究課題名
精神疾患患者に対する早期介入とその普及啓発に関する研究
課題番号
H23-精神-一般-009
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
水野 雅文(東邦大学 医学部 精神神経医学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 道雄(富山大学大学院 医学薬学研究部 神経精神医学講座)
  • 下寺 信次 (高知大学 医学部 神経精神科学教室)
  • 松岡 洋夫(東北大学大学院 医学系研究科 医科学専攻神経・感覚器病態学講座精神神経学分野)
  • 小澤 寛樹(長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 精神神経科学)
  • 長谷川 友紀(東邦大学 医学部 社会医学講座医療政策・経営科学分野)
  • 岸本 年史 (奈良県立医科大学 医学部 精神医学講座)
  • 岩田 仲生(藤田保健衛生大学 医学部 精神神経科学講座)
  • 川崎 康弘(金沢医科大学 医学部 精神神経科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
6,200,000円
研究者交替、所属機関変更
なし

研究報告書(概要版)

研究目的
精神病未治療期間(Duration of Untreated Psychosis: DUP)は,統合失調症を始めとする精神病の発症すなわち精神病水準の臨床的顕在化から精神科的治療の開始までの期間を表す指標である。先行研究では,DUP は医療先進国においては1~2年前後であり,この未治療期間が短いほど転帰が良いことが報告されている。
1本研究班では、DUPと予後に関する我が国における実証的データを得るべく、前期の研究で得たこのコホートを追跡しDUPと予後に関する追跡研究を行っている。
2更に、統合失調症発症前のいわゆるARMSと呼ばれる時期についても、その症例を集積し症候学的な分析をするとともに、精神病への顕在発症を予防するような治療法(CBT)の確立をめざし、東北大学グループが中心となりプロトコールを完成させ、本年度より各班において治療介入を行っている。
3こうした予防的な取組の一方で、未治療期間中にも多数の自殺未遂者が発生していることが確認されている。しかしその詳細は不明であるため、今年度は東邦大学医学部精神神経医学講座が中心となり登録された症例について詳細なカルテ調査を依頼した。
研究方法
1本研究は東北大学、東邦大学、富山大学、奈良県立医科大学、高知大学、長崎大学の6大学の医学部精神医学講座が中心となり多施設共同で行った研究である。解析は分担研究者である長谷川班で行った。
本調査に参加登録をした初発統合失調症患者(FES)168名を分析対象とした。各指標は、治療開始時(0ヶ月)、6ヶ月後、12ヶ月後、18ヶ月後、24ヶ月後に評価を行った。
2ARMSに対するCBTのプロトコールに基づき介入する。15例を目標に実施可能性を検証する。
3自殺行動については、対象は平成20年から22年度までの3ヶ年において研究に登録された298例のFESのうち、初診時点において何らかの自殺未遂の既往が確認された29例を対象とし、各研究機関に対して自殺関連の追加調査を実施した。
結果と考察
1FES追跡調査の主な結果は以下の4点である。まず受診時の付き添いのある人は付き添いのない人よりもDUPが短かった。2点目に、突発成発症、急性発症、潜行性発症の順番にDUPが短かった。3点目に、潜行性発症群は、ほぼ全てのフォローアップ時点においてDUPとQOL、社会機能、認知機能との間に中程度から強い相関関係を示した。最後に、潜行性発症群において、DUPは24ヶ月後の認知機能の予測因子となることが示唆された。これらの結果より、特に潜行性発症の初回エピソードの統合失調症患者においては、早期発見・早期介入により24ヶ月後の認知機能が改善する可能性が考えられる。
2各施設において実施中である。
3自殺行動研究の回答率は79.3%(23例)であり、このうち自殺行動が精神科受診の一因となっていると考えられた症例は13例(男性5例、発症年齢27.0±9.6歳、初診受診時年齢28.2±9.3 歳、平均DUP16.9月(中央値4.9月)、GAF平均29.4±15.3)であった。自殺手段は縊首、高所よりの飛び降り、腹部刺傷など致死的なものからリストカット、過量服薬など軽微なものまで多岐に渡っており、致死的な自殺行動と考えられた症例は4例であった。多くの症例で本人からの援助希求行動は不十分であり、近親者も自殺の可能性について認識していなかった。
結論
本調査の結果、潜行性発症群におけるほぼ全てのフォローアップ時点において、DUPはQOL、社会機能、認知機能に影響を及ぼす可能性が示唆された。また、治療開始時点においてDUPが短く陰性症状が弱い場合、24ヶ月後の認知機能が良好である可能性が考えられる。また未治療統合失調症者に対する対策は自殺予防を実施する上で非常に重要な課題であり、自殺予防の観点からも、まずは統合失調症そのものの早期発見、早期介入が重要であると考えられた。ARMS症例については、東北大学を中心にプロトコールが完成し、それに基づく各地での実施が開始された。15症例程度に実施した上で、本格実施の可能性を検討し、次の段階としてのRCTの実施へ進めたいと考えている。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201317048B
報告書区分
総合
研究課題名
精神疾患患者に対する早期介入とその普及啓発に関する研究
課題番号
H23-精神-一般-009
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
水野 雅文(東邦大学 医学部 精神神経医学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 道雄(富山大学大学院 医学薬学研究部 神経精神医学講座)
  • 下寺 信次(高知大学 医学部 神経精神科学教室)
  • 松岡 洋夫(東北大学大学院医学系研究科 医科学専攻神経・感覚器病態学講座 精神神経学分野)
  • 小澤 寛樹(長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 精神神経科学)
  • 岸本 年史(奈良県立医科大学 医学部 精神医学講座)
  • 岩田 仲生(藤田保健衛生大学 医学部 精神神経科学講座)
  • 川崎 康弘(金沢医科大学 医学部 精神神経科学)
  • 長谷川友紀(東邦大学 医学部 社会医学講座医療政策・経営科学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
なし

研究報告書(概要版)

研究目的
統合失調症の経過は一様ではなく,その転帰は治療以外のいくつかの要因によっても左右される。発症年齢や性別,居住環境などがそうした転帰予測因子として知られるが,その多くはすでに定まったものであり,介入によって変えることは難しい。一方で、精神病未治療期間(Duration of Untreated Psychosis;以下DUP)は,介入可能な転帰予測因子の1 つと考えられている。
DUPは,統合失調症を始めとする精神病の発症すなわち精神病水準の臨床的顕在化から精神科的治療の開始までの期間を表す指標である。概ね諸外国においても未治療期間は長く、1~2年前後であることが報告され、DUPが短いほど転帰が良いことが報告されている。
日本において初回エピソード患者におけるDUPと転帰の関連を長期間にわたり前方視的に追跡した研究はほとんど無い。本研究では、DUPと各評価指標との関係性を時期別に検討することで、早期発見・早期介入をすることによりどのような症状の改善につながるのかを検討することとした。また、DUPの長短に影響を及ぼす要因を検討することで、早期発見・早期介入に重要となる要因の検討を行った。
未発症ながら精神病発症危険状態(At-risk mental state (以下ARMS))にあり援助希求行動を呈して受診した者に対する診断、治療は十分に検討さえされておらず、エビデンスに基づく合理的な早期介入方法の確立には至っていない。これらの把握と治療方法の検討が必要である。
研究方法
1本調査に参加登録をした初発統合失調症患者168名を分析対象とした。各指標は、治療開始時(0ヶ月)、6ヶ月後、12ヶ月後、18ヶ月後、24ヶ月後に評価を行った。24ヶ月時の認知機能を予測する要因を検討するために、24ヶ月時のSCoRSを従属変数とした重回帰分析も行った。24ヶ月時点における突発性発症者が少なかったため、突発性と急性発症群を1つの群としてまとめた。
2全国的なレベルでARMS症例を蓄積し、ナラティブな記述も含めた臨床像の抽出、受診経路、介入・支援指針、転帰予測、海外研究成果の紹介などを検討してきた。さらに東北大学を中心にこれらARMSに対するCBTの介入プロトコールを作成し、実施可能性を検討するべく試験実施する。
結果と考察
1まず受診時の付き添いのある人は付き添いのない人よりもDUPが短かかった。2点目に、突発成発症、急性発症、潜行性発症の順番にDUPが短かった。3点目に、潜行性発症群は、ほぼ全てのフォローアップ時点においてDUPとQOL、社会機能、認知機能との間に中程度から強い相関関係を示した。最後に、潜行性発症群において、DUPは18ヶ月後および24ヶ月後の認知機能の予測因子となることが示唆された。これらの結果より、特に潜行性発症の初回エピソードの統合失調症患者においては、早期発見・早期介入をすることにより18ヶ月後および24ヶ月後の認知機能が改善する可能性が考えられる。
2集められた61症例を記述し、下位分類で整理し、わが国におけるARMS症例の特徴を把握しやすいように整理した「ARMS症例集」としてまとめ、別に成果物として刊行した。同時に東北大学を中心に、ARMSに対するCBT介入のプロトコールを作成し、これをもとに各大学の倫理委員会に諮り、実施可能性の検証を行うべく15症例を目標に試験的実施を開始した。
結論
本調査の結果、潜行性発症群におけるほぼ全てのフォローアップ時点において、DUPはQOL、社会機能、認知機能に影響を及ぼす可能性が示唆された。また、治療開始時点においてDUPが短く陰性症状が弱い場合、18ヶ月後および24ヶ月後の認知機能が良好である可能性が考えられる。
また未治療統合失調症者に対する対策は自殺予防を実施する上で非常に重要な課題であり、まずは統合失調症そのものの早期発見、早期介入が重要であると考えられた。ARMS症例については、東北大学を中心にプロトコールが完成し、それに基づく各地での実施が開始された。15症例程度に実施した上で、本格実施の可能性を検討し、次の段階としてのRCTの実施へ進めたいと考えている。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201317048C

成果

専門的・学術的観点からの成果
精神病発症前のアットリスク状態において、それを早期に異発見し、薬物療法以外の介入を行い発症の頓挫を図るという新たな治療への道を開いた研究である。
臨床的観点からの成果
精神疾患における早期発見、早期治療は、概念そのものは新しいものではないが、わが国の臨床実践においてはこれまで着目されることの無かった領域である。受診までに長時間がかかる現状の中で、新たな発症例やみ発症例を多数登録することに加え、臨床的転帰をアウトカムとする研究デザインであるめ、成果が限定的となっている。今後ARMSへの取り組みを身長にすすめながらも対象数を統計的判定が可能となるまで増やす必要がある。
ガイドライン等の開発
「ARMS症例集」が研究者向けとの限定つきながら成果として刊行された。
その他行政的観点からの成果
わが国における早期精神病に対する治療実態が明らかとなり、また早期治療の重要性を示す具体的なデータが示された。各地域における精神保健の医療計画を検討する上で、参考となる。
その他のインパクト
早期介入を実践する代表的施設の一例として、東邦大学医療センター大森病院のイルボスコが、NHKテレビ番組あさイチ(平成25年12月4日放映)で取り上げられ、研究代表者水野雅文が出演して早期介入の重要性について解説した。

発表件数

原著論文(和文)
7件
原著論文(英文等)
62件
その他論文(和文)
81件
著書29を含む
その他論文(英文等)
1件
著書1件を含む
学会発表(国内学会)
76件
学会発表(国際学会等)
38件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
上記テレビ番組出演と解説

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-

収支報告書

文献番号
201317048Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,200,000円
(2)補助金確定額
6,200,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,106,752円
人件費・謝金 1,160,310円
旅費 1,196,237円
その他 736,701円
間接経費 0円
合計 6,200,000円

備考

備考
なし

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-