「障がい者総合福祉法(仮称)」下における重症心身障害児者通園事業のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
201317001A
報告書区分
総括
研究課題名
「障がい者総合福祉法(仮称)」下における重症心身障害児者通園事業のあり方に関する研究
課題番号
H23-身体-知的-一般-002
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
末光 茂(川崎医療福祉大学 医療福祉学部)
研究分担者(所属機関)
  • 高嶋 幸男(国際医療福祉大学 大学院)
  • 西間 三馨(福岡女学院看護大学)
  • 松葉佐 正(熊本大学医学部附属病院)
  • 小西 徹(長岡療育園)
  • 宮崎 信義(久山療育園重症児者医療療育センター)
  • 水戸 敬(にこにこハウス医療福祉センター)
  • 三田 勝己(星城大学大学院 健康支援学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
3,392,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
最も障害が重く医療福祉ニードの高い重症心身障害児・者も、地域での暮らしを可能とするために「障がい者総合福祉法(仮称)」の整備作業が進められてきた。そこでの「重症児通園」の望ましいあり方への提言を目的とする。
研究方法
(1)全国の重症心身障害日中活動支援事業所を対象とした「つなぎ法」から「障害者総合支援法」への移行結果と課題に関する実態調査
(2)重症心身障害児者通園モデル事業5施設のひとつ「久山療育園重症児者医療療育センター」での医療的ケアや療育内容ならびに短期入所や訪問看護・介護の利用状況に関する分析
(3)看護師を中心に日中活動事業所でのタイムスタディ調査
(4)国立病院機構での実態調査と課題の分析
(5)アメリカ、オランダとの比較調査と、国際知的・発達障害学会IASSIDDのPIMD特別研究グループとの情報交換
結果と考察
(1)平成25年4月から「障害者総合支援法」に移行した。それを受け、各事業所では運営の安定に向けた努力を行った結果、3年前の調査結果と比較して黒字化している事業所が増えていた。特に定員15~24人規模の事業所では高い利用率を維持し、給付費5,800万円を獲得し、職員数は11人(内、看護職3人)がひとつのモデルとなることが考えられた。定員数が25人以上の生活介護事業所では黒字の所が多かったのに対し、定員5~10人の小規模事業所の運営に関してはさらなる検討が必要と判明した(一定数以上の利用者の確保が困難な過疎地域での問題点が集約されていると推測される)。
(2)久山療育園重症児者医療療育センターでの25年度の通所事業の登録者68名について、医療的ケアや療育内容等について分析を行った結果は、以下のとおりであった。療育内容としては理学療法(100%)・作業療法(35%)・感覚入力(65%)・遊戯療法(35%)。スコア別では医療度が高い超重症児者・準重症児者では、理学療法と感覚入力が主で、医療度が軽くなるに従って作業療法と遊戯療法の利用頻度が増加していた。短期入所は全ての群で75%以上の利用が見られた。ただし超重症児者・準超重症児者では、短期入所の利用希望があっても人工呼吸管理などで受け入れに限度がうかがえた。訪問看護では医療度が高いほどニーズが多く、訪問介護では各群間に差は見られなかった。
(3)重症児の日中活動支援事業所における職員の業務に関するタイムスタディ調査をもとに、人件費を算出した。その結果、一日15名に換算すると、年間の人件費は4,160万円となる。通所施設での平均人件費率80%を当てはめると、運営費は5,200万円がひとつの目安とされた。
(4)法定化1年が経過した時点での通園事業の問題点を検討するためアンケート調査を行った。収支の不安定化、事務量の増加、スタッフ確保の難しさ、利用者への対応の多様化などの新しい問題点に加えて、事業者の数と広さの不足、送迎問題、医療体制などの問題点があらためて浮き彫りになった。さらにNICU長期入院児キャリアオーバーの問題も今後の課題としてあげられた。喫緊の課題としては利用者の増加、利用者や家族の高齢化や医療の高度化の問題、送迎体制の強化が挙げられた。
(5) 国立病院機構では、この3年間、通所事業実施施設数に変化はなく、利用登録者数は671~749名、29歳以下が80%を占め、約30%が準・超重症児者であった。ここでも、送迎ニーズへの対応や医療的ケアが必要な利用者の受入れが課題に挙げられた。
(6)アメリカ・オランダの重度・重複障害施設(入所と通所)を視察・調査し、あわせて国際知的発達障害学会(IASSIDD)のPIMD特別研究グループの第6回円卓会議に出席し、世界各国のこの分野の現状を情報収集した。
結論
制度改革に伴い、1日定員15-24名以上の、それも生活介護事業所では運営の安定化に向かっている所が増えているが、5-10名の小規模事業所それも児童発達と過疎地域のそれは、運営の困難を増している実態が明らかとなった。
一方、タイムスタディ調査に基づき、定員15名での職員配置と運営費のモデルを提示できた。
看護師ならびにPT・OT・ST等の専門支援の必要性ならびに配置基準についても大枠を提示した。国際的視点に立ったわが国の重症心身障害支援への評価とともに課題を示すことができた。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-

文献情報

文献番号
201317001B
報告書区分
総合
研究課題名
「障がい者総合福祉法(仮称)」下における重症心身障害児者通園事業のあり方に関する研究
課題番号
H23-身体-知的-一般-002
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
末光 茂(川崎医療福祉大学 医療福祉学部)
研究分担者(所属機関)
  • 高嶋 幸男(国際医療福祉大学 大学院)
  • 西間 三馨(福岡女学院看護大学)
  • 松葉佐 正(熊本大学医学部附属病院)
  • 小西 徹(長岡療育園)
  • 宮崎 信義(久山療育園重症児者医療療育センター)
  • 水戸 敬(にこにこハウス医療福祉センター)
  • 三田 勝己(星城大学大学院 健康支援学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
最も障害が重く医療福祉ニードの高い重症心身障害児・者も、地域での暮らしを可能とするために「障がい者総合福祉法(仮称)」の整備作業が進められている。そこでの「重症児通園」の望ましいあり方への提言を目的とする。
研究方法
(1)重症児通園モデル事業5施設での23年間の縦断的研究
(2)全国重症心身障害日中活動支援事業所約300ヶ所での利用実態(欠席率を含む)と運営費等に関するアンケート調査
(3)国立ならびに公法人立の重症児施設併設の日中活動事業所での看護・療育ニードに関する調査(タイムスタディを含む)
(4)在宅重症児の全数把握がほぼできている岡山県での看護・介護・療育ニードの調査と重症児日中活動の全国での必要箇所数の推計
(5)スペイン、ポルトガル、カナダ、アメリカならびにオランダでの重症心身障害児者ならびに近接の重度・重複障害者の支援実態に関する比較調査
(6)国際知的・発達障害学会IASSIDDの国際学会ならびにアジア・太平洋地区会議そしてPIMD円卓会議での情報交換
(7)上記の調査に基づく、望ましい重症心身障害児者の地域生活を可能とする条件に関する提言のとりまとめ
結果と考察
(1)平成24年4月1日からのいわゆる「つなぎ法」の施行により、重症心身障害児者通園事業は法定施設に位置づけられるとともに、「障害者自立支援法」の枠組での選択を各施設では余儀なくされた。全国重症心身障害日中活動支援協議会加入施設へのアンケート調査結果によると、定員が柔軟に設定できることから、定員増により運営面での改善をみた所(28.2%)がある一方で、利用者の確保に困難をきたし、むしろ悪化をきたしている所(39.5%)とに分かれていることが明らかとなった。
そして平成25年4月には「障害者総合支援法」へと移行した。これにより一定数以上の利用者を確保できる事業所は経営的に改善されたが、小規模事業所に課題を残していることが判明した。
(2)全国の縮図といわれる兵庫県における重症心身障害児者の日中活動の場の配置状況をみると、明石市・加古川市や淡路市などの瀬戸内海沿いの一部の都市と県北の過疎地に空白地域があること、さらに最も医療ニードの高い超重症児・準超重症児が医療機能を持たない近くの通園で受け入れができないため、医療機能を有する通所に遠距離通園を余儀なくされている実態が明らかとなった。
(3)平成元年の重症児通園モデル事業時代からの5施設での23年の取り組みを振り返った結果、いわゆる日中活動の場としてのみならず、療育活動や医療支援の面で独自の役割を果たしており、専門性の維持、充実が不可欠であることを明らかにした。
 国立病院機構の重症児通園でも同じことが指摘された。
(4)重症児通園にかかわる職員のタイムスタディ調査結果から、看護師は施設入所に比較して共通業務よりも個別業務がより多いことに加えて、リハビリテーションスタッフの関与も不可欠であることが明らかとなった。超重症児にかかわる看護師の業務は、一般の重症児のそれの約10倍であった。
 これを基準に重症児日中活動支援事業所(15名利用)で人件費は年間4,160万円、運営費は5,200万円がひとつの目安とされた。   
(5)重症児通園利用者の欠席状況の前方視的調査を行った結果、対照施設のそれに比して欠席率が高く、それも予定された欠席(短期入所の利用や病気の回復に長い日数が必要など)の頻度が高いことが示された。
(6)岡山県(人口約200万人)での在宅重症児の家族へのアンケート調査(228名)を平成23年度に実施したところ、重症児通園利用者は65%を占め、そこで希望する活動としては、リハビリが28%と最も高く、療育訓練、レクリエーション、創作活動などが続いていた。訪問看護の利用は22%、居宅介護(ヘルパー)は28%にとどまったのに対し、短期入所は59%を占めた。
岡山県の実態をもとに、身近なところでの重症児通園の全国への普及を目指すと、全国700ヶ所程度が必要と推計された。さらに10年後の在宅・地域生活の増加を考えると1,000ヶ所程度が必要と考えられる。
(7)国際比較調査により、わが国の重症児施策は世界的に見て高い水準にあることが明らかとなったが、「国連・障害者権利条約」に則ると、本人の自己選択や身体抑制等にかかわる面に課題があるとの指摘があった。
結論
重症児通園モデル事業時代からの成果が評価され、制度改革に伴い、重症心身障害日中活動支援事業は法定施設として位置づけられた。約25年間の成果と現時点での実態ならびに課題を明らかにするとともに、全国どこに住んでも身近な所で利用可能で、かつ「超・準超重症児」に代表される医療ニードの高い利用者に安心・安全で専門性を確保した支援を提供する為の条件を提示した。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201317001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
重症心身障害に特化した日中活動支援事業所での専門的な医療・看護・リハビリテーションの成果とその質を確保するための諸条件について、縦断的かつ横断的(アンケート調査)を実施し、その成果と課題を明らかにするとともに、国内外での学会で発表し、評価を得た。またその概要はそれぞれの専門学術誌に審査を経た上で掲載されている。
臨床的観点からの成果
重症心身障害通園施設(現在の重症心身障害日中活動支援事業所)を利用する重症児の病態像に応じた専門的な支援の内容(タイムスタディ等)から、必要な人的諸条件を明らかにすることができた。とくに超重症児・準超重症児については、他の重症児に対して約10倍の看護支援が必要であり、リハビリテーション面では医療ニードの高いものには理学療法ならびに感覚入力を、そして医療ニードが軽くなるにしたがい作業療法と遊戯療法のニードが高まることが示された。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
第5回障害児支援の在り方に関する検討会」(平成26年5月9日開催)で重症心身障害日中活動の歴史と現状ならびに課題について報告するそのバックデータとして、本研究成果の概要を述べた。
その他のインパクト
なし

発表件数

原著論文(和文)
9件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
6件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
末光茂
制度改革と重症心身障害支援の今後―公法人立重症児施設の立場から―
医療 , 66 (9) , 503-505  (2012)
原著論文2
水戸敬、高嶋幸男、末光茂
重症心身障害児(者)通園事業施行施設への運営体制・状況に関するアンケート調査結果
日本重症心身障害学会誌 , 38 (3) , 413-419  (2013)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
2019-06-07

収支報告書

文献番号
201317001Z