WHO世界戦略を踏まえたアルコールの有害使用対策に関する総合的研究

文献情報

文献番号
201315050A
報告書区分
総括
研究課題名
WHO世界戦略を踏まえたアルコールの有害使用対策に関する総合的研究
課題番号
H25-循環器等(生習)-一般-011
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
樋口 進(国立病院機構久里浜医療センター 臨床研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 尾崎 米厚(鳥取大学医学部環境予防医学分野, 疫学・公衆衛生学)
  • 松本 博志(大阪大学大学院医学系研究科, 法医学教室)
  • 杠 岳文(独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センター)
  • 堀江 義則(国際医療福祉大学臨床医学研究センター山王病院, 消化器内科学)
  • 木村 充(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター)
  • 神田 秀幸(横浜市立大学医学部, 社会予防医学教室, 疫学・公衆衛生学)
  • 吉本 尚(三重大学医学部, 家庭医療学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、わが国におけるアルコールの有害な使用を低減するために、施策に必要となる実態把握や必要な基礎データを提供することにある。これは、そのままWHOによる世界戦略やNCDの予防と対策および厚労省の第二次健康日本21の推進に寄与する。
研究方法
2013年7月に成人の飲酒行動に関する全国調査を実施した。全国から対象者を無作為に抽出する層化2段無作為抽出を行い、4,153人(回答率58.9%)から回答を得られた。協力の得られた対象者に訪問面接調査を行った。
アルコール性肝障害の実態調査は、肝硬変発症における飲酒の影響の変遷を検討した。全国の日本消化器病学会認定・関連施設1390施設に対し、平成24年4月~25年3月に入院した肝硬変患者の成因についてのアンケートを実施し、平成10年と19~20年度の結果と比較した。
アルコール関連障害に関係するバイオマーカー及びスクリーニングテストの文献レビューを行い、臨床的な使用ガイドラインを作成する。
コンピューター上で出来る飲酒量低減指導プログラムを開発、保健指導の場面などで活用し、その有効性を検証する。
プライマリケアの場での適切な質問票およびその質問票が効果的な対象を明らかにし、推奨されるスクリーニング方法を明確にする。
救急受診者の飲酒との関連について、WHOの共同研究でのプロトコールに従って実態を解析する。現在国内3か所の救命救急センターで臨床研究を実施中である。死亡者と外傷との関係も法医解剖例から解析を行う。全国6施設における多施設共同研究を実施中である。
班全体で「改訂版アルコール保健指導マニュアル」を作成中である。
結果と考察
成人の飲酒行動に関する全国調査では、AUDIT16点以上者は男性4.6%、女性0.7%、アルコール依存症該当者(ICD-10)は、男性1.0%、女性0.2%であった。現在アルコール依存症者は推計58万人であった。家族の飲酒が原因で困った経験の割合は、父親が7.2%、次いで配偶者が2.8%であった。家族からの飲酒が原因で困った経験が回答者の生き方や考え方への影響について、かなり影響を与えた21.4%、重大な影響を与えた4.5%であった。アルコールハラスメントなどアルコールによる間接被害の実態は、家族以外からの飲酒が原因で困った経験の割合は、職場が9.2%、次いで友人・知人5.7%であった。家族以外からの飲酒が原因で困った経験が回答者の生き方や考え方への影響は、かなり影響を与えた7.4%、重大な影響を与えた1.2%であった。
アルコール性肝障害の実態調査は、9326例の肝硬変患者の回答があり、アルコール単独によるものは2293例(24.6%)であった。平成10年度の調査では、全肝硬変患者のうちアルコール単独によるものは12%、平成19~20年度では14%に対し、今回では24.6%とその割合が上昇し、特に男性でその傾向が顕著であった。
アルコール関連障害に関係するバイオマーカー及びスクリーニングテストの文献レビューを行っている。Pubmed検索では、alcohol+ biomarkers又はbiological markersの検索で14,760文献が存在した。
コンピューターを用いた簡易介入ツールの開発と有効性検証については、現在調査研究中である。
プライマリケアにおけるアルコール使用障害のスクリーニング・介入に関する研究は、海外で利用されているアルコール依存症に関する質問票(DSM-Ⅳ-TRスクリーニング、T-ACE、Single Question、TWEAK、SMAST-G)に関してを日本語訳した。
救急受診者の飲酒との関連については、現在国内3か所の救命救急センターで臨床研究を実施中である。また死亡者と外傷との関係も法医解剖例から解析を行う。全国6施設における多施設共同研究を実施中である。



結論
成人の飲酒行動に関する全国調査については、過去の調査と比較してより軽度の問題飲酒者の割合は男性を中心に減少している可能性があるが、重症者の状況は改善していなかった。若年者では飲酒行動の男女差が減少していた。現状は飲酒が個人の嗜好のみに任せている状態だが、今後は地域保健と産業保健が連携して総合的にアルコール対策に取り組むことが効率的・効果的なアルコール対策の展開であると考えられた。
アルコール性肝障害の実態調査については、全肝硬変患者のうちアルコール単独によるアルコール性肝硬変の割合が著明に増加しており、今後は基本法に基づいて国が策定する基本計画に沿って、問題飲酒者数そのものの低減を目指す必要がある。
わが国における飲酒と暴力における救急医療との関連については、札幌医大のケースでは法医解剖例において、死亡例における外傷と飲酒の関係は有意に飲酒者において外傷受傷が増加した。

公開日・更新日

公開日
2014-08-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201315050Z