笑い等のポジティブな心理介入が生活習慣病発症・重症化予防に及ぼす影響についての疫学研究

文献情報

文献番号
201315047A
報告書区分
総括
研究課題名
笑い等のポジティブな心理介入が生活習慣病発症・重症化予防に及ぼす影響についての疫学研究
課題番号
H25-循環器等(生習)-一般-008
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
大平 哲也(福島県立医科大学 医学部疫学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 磯 博康(大阪大学大学院 医学系研究科)
  • 下村 伊一郎(大阪大学大学院 医学系研究科)
  • 松村 雅史(大阪電気通信大学 医療福祉工学研究科)
  • 成木 弘子(国立保健医療科学院 保健指導研究分野)
  • 佐藤 哲子(京都医療センター 臨床研究センター)
  • 江口 依里(愛媛大学大学院 医学系研究科)
  • 白井 こころ(琉球大学 法文学部)
  • 野田 愛(池田 愛)(順天堂大学 医学部公衆衛生学講座)
  • 谷川 武(順天堂大学 医学部公衆衛生学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
心理社会的ストレスはうつなどの精神的疾患だけでなく、循環器疾患等の生活習慣病の発症・死亡にも深く関わることが欧米を中心に報告されてきた。しかしながら、うつ症状やストレス等のネガティブな心理的因子に対する介入については未だ確立された方法はない。こうした背景の中、笑い、生きがいなどのポジティブな感情に対する心理的介入が注目されつつある。これまで、生活を楽しむポジティブ志向が脳卒中、虚血性心疾患死亡リスクを軽減させること、笑いが糖尿病の指標である血糖値を低下させることが報告されており、笑いや社会的支援を増やす介入は、参加意欲を高め介入効果が大きい可能性がある。
そこで本研究は、笑い等のポジティブな心理的因介入の生活習慣病の発症・重症化予防への影響を検討することを目的とした。具体的には横断・前向き研究によって、笑い、楽観性等のポジティブな心理的因子と糖尿病を始めとする循環器疾患危険因子との関連を検討する。また、笑い、生きがい、社会的支援を増やす長期的な介入を普段メンタルヘルスケアが受けにくい被扶養者や退職者を含む地域住民並びに外来患者に行い、自律神経系機能に加えて、体重・腹囲、糖・脂質代謝指標、血圧値等をアウトカムとして効果を検証する。
研究方法
1. 妥当性研究
5地域、計253人を対象に、約1年間に笑いの質問紙を計5回実施し、笑いの頻度について比較した。また、20代男女10人を対象として、笑いの測定装置についての検討を行った。
2. 横断・前向き研究
①秋田県I町及び大阪府Y市M地区住民4,780人。②京都市住民で肥満外来通院中の183人。③沖縄県K村住民515人。④東京都住民230人。を対象として、日常生活における笑いの頻度を評価するとともに、うつ症状、楽観性等の他の心理因子の測定、血糖値の測定による糖尿病の評価を行い、笑いの頻度とうつ症状、糖尿病との関連、楽観性と健診受診率との関連を検討した。
3. 介入研究
 糖尿病外来を受診している地域住民男女48人を対象として、週1回の笑いを生かした健康教室を受講する介入プログラムを8週間実施し、体重及びHbA1cの変化を通常治療群と比較した。また、20~70歳の男女57人を対象として、週3回のアロマセラピーの無作為クロスオーバー法による介入を4週間実施し、血圧、自律神経系機能、心理的ストレスの変化を検討した。
結果と考察
1.妥当性研究
 笑いの頻度は1年中ほぼ変わらず、短期間の反復可能性が確認された。また、笑いの頻度に地域差は認められなかった。音声認識法による笑いの識別では、従来の方法に比べ骨伝導マイクにより爆笑の識別率が83%まで向上した。
2. 横断・前向き研究
 毎日声を出して笑っている人に比べて、週に1~5日程度笑っている人は1.26倍(95%信頼区間:0.97-1.65)、月に1~3日もしくはほとんど笑っていない人は1.51 倍(同:1.08-2.11)糖尿病の有病率が高かった。さらに、3年間の追跡調査を行った結果、女性において笑いの頻度と糖尿病発症との有意な関連がみられ、毎日声を出して笑っている人に比べて、週に1~5日の人は糖尿病発症のリスクが高かった。また、楽観性志向の高い者で、より健診受診行動の示す割合が高い傾向が示された。
3.介入研究
 笑いの介入前後で、体重が平均 0.75 kg 減少し、笑う時間が平均 3.4時間増加した。また、HbA1c 値が介入群では平均 6.63%から 6.46%に低下し、介入群は対照群に比べて有意に HbA1c 値が低下 していた。アロマセラピーの介入プログラムの結果、収縮期/拡張期血圧の低下、自律神経活動向上の傾向、ストレスの低下、状態不安の減少、ポジティブな感情を含む精神的なQOLの向上傾向が認められた。
笑いと生活習慣病との関連についてのメカニズムとしては、笑いの運動効果が挙げられる。笑っている間の消費カロリーは安静時から10~20%増加し、1日10~15分間の笑いは、1日の消費エネルギーを10~40 kcal増加させる。また、笑いのコルチゾール等のストレスホルモンを低下作用も報告されており、リラクゼーション効果によるインスリン機能改善を介してHbA1c値の改善に繋がった可能性も考えられる。
結論
本研究では、笑い等のポジティブな心理的因介入の生活習慣病の発症・重症化予防への影響を検討することを目的とし、横断・前向き・介入研究を実施した結果、笑いの頻度が多いことが糖尿病を予防する可能性があり、笑いを増やすことで、糖尿病のコントロールもよくなる可能性が示唆された。笑いは特別な手法を用いなくとも気軽に日常生活に取り入れやすく、特別な費用もかからない。今後さらなる研究の進展により、笑いが従来からの食事・運動 療法を補完する治療の一つとなることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-09-07
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2015-09-07
更新日
-

収支報告書

文献番号
201315047Z