生活習慣病予防のための運動を阻害する要因としてのロコモティブシンドロームの評価と対策に関する研究 

文献情報

文献番号
201315022A
報告書区分
総括
研究課題名
生活習慣病予防のための運動を阻害する要因としてのロコモティブシンドロームの評価と対策に関する研究 
課題番号
H24-循環器等(生習)-一般-002
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
中村 耕三(国立障害者リハビリテーションセンター )
研究分担者(所属機関)
  • 宮地 元彦(独立行政法人国立健康・栄養研究所)
  • 樋口 満(早稲田大学  スポーツ科学学術院)
  • 出浦 喜丈(佐久総合病院人間ドック部)
  • 村永 信吾(亀田総合病院)
  • 竹下 克志(東京大学医学部附属病院整形外科)
  • 松平 浩(労働者健康福祉機構 関東労災病院)
  • 緒方 徹(国立障害者リハビリテーションセンター研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生活習慣病予防のための身体活動・運動を阻害する要因として、社会的要因と身体的要因があげられる。身体的要因としては運動器の痛みや機能低下が関係すると言われている。運動器の問題は、近年では運動器症候群:ロコモティブシンドローム(ロコモ)と定義され、社会生活機能、自立度、生活の質の低下の要因であることが疫学研究で示されている。一方で、体重が重く足腰に負担がかかる肥満者において好発し、肥満者の減量や糖尿病患者の血糖コントロールのための身体活動・運動習慣を阻害する要因としても注目される。
 平成20年度から始まった特定健診・保健指導において、メタボリックシンドロームに焦点を当てた生活習慣病の重症化予防対策が進められているが、保健指導の参加や継続に、膝や腰の痛み、筋力や関節機能低下などのロコモがどの程度関係するかについては十分に明らかになっていない。また、ロコモに該当する者あるいは保健指導の途中で運動器の問題が起こった者に対し、どのような対策を取り、運動支援を提供するべきかに関するエビデンスは十分と言えない。また、ロコモの一次予防のための身体活動のあり方についてもほとんどエビデンスがない。
 そこで、本研究では特定保健指導のフィールドならびに既存の疫学コホートを活用し、生活習慣病予防のための身体活動・運動の実施と運動器の痛みの発現や緩和に関するデータを収集すると同時に、生活習慣病予防を阻害する要因としてのロコモに対する、具体的な対策の確立を目的とする。
研究方法
研究計画は主に
①コホートデータの収集と解析によるロコモとメタボの関連解析、
②ロコモのスクリーニング法の提案と周知
③メタボ対策中の運動器症状に対するマニュアルの改変
の3点を重点的に進めた。
結果と考察
①コホートデータの収集と解析:長野県佐久市にて4000名のコホートを、また東京において1000名の介入コホート構築し、データの収集を行っている。このフィールド調査からH25年度は新たに以下の知見が得られた。
・片足イス立ち上がりが両足ともできない者は両足できる者と比較して、標準法であるDEXA法によりサルコペニアと判定されるオッズ比が2.03倍であることが示された。
・下腿最大周囲長により、サルコペニアの判定が感度・特異度良く推定可能であることが示された。
②ロコモの評価法:初年度に検討した運動機能評価の質問票と体力測定をセットとしたロコモ評価ツールをロコモ度チェックとして関連学術団体に周知することで啓発活動を行った。
このスクリーニング法の特徴は青壮年期から高齢者に至るまで、天井効果や床効果を示すことなく、感度よく運動器機能の変化を捉えることができる点である。
 この指標の導入により、ロコモは高齢者の要介護対策の場で重要になる「ハイリスク・アプローチ」における考え方という側面に加え、広い年代に対し運動器の健康の意識向上に働きかける「ポピュレーション・アプローチ」に用いられる考えかたへと展開したと言える。
こうしたロコモが取り扱う年齢層の拡大を受けて、ロコモの概念を整理し、ロコモが運動器を中心とした病理像に始まり、様々な身体機能低下を介して、「移動機能の低下」につながること、と捉える視点を提唱した。
③メタボ対策の運動中に生じる腰・膝の痛みに対し、初年度に対応マニュアルに対し、現場の意見を踏まえ、改訂版を作成した。
結論
 本年度の成果として、青壮年期から高齢者に至るまで一貫した評価系でロコモを捉え、高齢者に対しては要介護予防を念頭においた「ハイリスク・アプローチ」による対策を、若齢層に対しては、年代ごとの標準値を指標として運動器の健康をとらえ、その維持をうながす「ポピュレーション・アプローチ」の2つの軸が鮮明となった。このことは将来的に、ロコモとメタボの対策が国民の健康維持政策の主要な要素として論じるための土台になるものである。
コホートの調査からもメタボとロコモの密接な関係性が徐々に明らかになっており、双方に対する包括的な対応策が求められていることが浮き彫りになる形となった。メタボとロコモを連動させた介入が将来的な到達目標となるが、当面はメタボとロコモそれぞれに対する介入方法を確立することと、その効果についてのエビデンスを構築することが課題になると思われる。

公開日・更新日

公開日
2015-09-07
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201315022Z