リガンド固定化マイクロデバイスによる循環がん細胞診断デバイスの開発 

文献情報

文献番号
201313059A
報告書区分
総括
研究課題名
リガンド固定化マイクロデバイスによる循環がん細胞診断デバイスの開発 
課題番号
H23-3次がん-若手-003
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
馬原 淳(独立行政法人国立循環器病研究センター 生体医工学部)
研究分担者(所属機関)
  • 山岡 哲二(独立行政法人国立循環器病研究センター 生体医工学部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
3,154,000円
研究者交替、所属機関変更
該当なし

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、がんの転移に係わる循環がん細胞(Circulating Tumor Cells: CTCs)をマイクロチップデバイスで検出するための細胞診断デバイスを開発している。 昨年度までに、リガンド固定化剤の開発や、マイクロチップの流路構造について検討してきた。最終年度である25年度では、開発した2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine (MPC)を基礎骨格としたポリマーをリガンド固定化剤として採用し、交差型十字路をもつガラス基板のマイクロチップと動画解析ソフトウェアを用いて流路内での細胞ローリング挙動の解析、ならびに細胞ローリング画像の解析アルゴリズムを作製することで、診断デバイスのプロトタイプを構築した。
研究方法
交差型マイクロ流路に対して、Fluigent社製のマイクロポンプをPEEK製のチューブで接続して、デジタルカメラを接続した顕微鏡下にマイクロチップを設置し、循環がん細胞診断デバイスのプロトタイプとした。この装置を用いて、マイクロ流路内の内圧をコンピュータで制御したときのローリング挙動の変化をモニターした。解析には、差分法によりローリングしている細胞のみを抽出するアルゴリズムを構築した。また、培養細胞系での細胞ローリング速度の分布を解析するために、ラットの脂肪組織由来間葉系幹細胞を用いて、速度分布を定量化した。
結果と考察
マイクロチップを金型で固定して、PEEK製のチューブにより接続することで、マイクロポンプの圧力を流路内(幅300μm、深さ150μm)へ均一に加圧することができた。さらに細胞懸濁液を送液して細胞の流れる様子を観察した結果、圧力のコントロールにより細胞が流れる方向や速度を制御できることが確認できた。定量的に解析するために、10~20μmの粒形をもつラテックス粒子を用いて、マイクロ流路内にかける圧力に対する速度分布をプロットした結果、圧力の増加に応じて、直線的にローリング速度を制御できることが示された。また、粒子半径の違いによるローリング速度の違いは認められなかったことから、10~20μmのサイズの範囲内においては、粒形の影響をほぼ受けずにマイクロチップ内でローリングを誘導できることが示された。次いで、培養細胞系を用いて細胞ローリングの速度分布をマイクロチップシステムで計測した。その結果、3つの速度分布をもつヒストグラムを描写することができた。この速度分布から、フローティング細胞や、ローリング細胞、さらにはローリング速度が極めて遅い細胞フラクションを識別する事ができた。細胞のサイズによるローリング速度の変化は殆ど見られないことから、これらの速度分布は、細胞表面マーカーとリガンドとの相互作用の程度に依存するものと考えられ、ローリング速度によってマーカー密度を識別できる可能性を示唆していると考えている。
結論
マイクロポンプを接続したマイクロチップシステムを構築し、MPC系ポリマーによるリガンド固定化剤を用いることで、マイクロチップ内で細胞ローリングを誘起することができた。これらの検討から、本プロジェクトで目的としたリガンド固定化マイクロチプによる細胞診断デバイスのプロトタイプを構築することができた。本プロジェクトで得られた基礎的データを基に、検体の診断精度の評価を進めることで、循環がん細胞診断デバイスとしての有効性を実証していきたい。

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

文献情報

文献番号
201313059B
報告書区分
総合
研究課題名
リガンド固定化マイクロデバイスによる循環がん細胞診断デバイスの開発 
課題番号
H23-3次がん-若手-003
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
馬原 淳(独立行政法人国立循環器病研究センター 生体医工学部)
研究分担者(所属機関)
  • 山岡 哲二(独立行政法人国立循環器病研究センター 生体医工学部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
該当なし

研究報告書(概要版)

研究目的
本プロジェクトでは、がんの転移に係わるわる循環がん細胞(Circulating Tumor Cells: CTCs)を細胞ローリング機構で識別する循環がん細胞診断デバイスの開発を目的とした。一般的に、血中における循環がん細胞の存在率は極めて低いことが知られている。このことから、開発する装置は、リガンドを固定化したマイクロチップ界面上で個々の細胞ローリング速度を定量化し、検体中に含まれる全細胞のローリング速度分布を解析できる設計を基本的なコンセプトとした。研究期間において、細胞の非特異吸着を抑制するマイクロ流路界面の作製、マイクロ流路形状の設計、微量の液量を制御するマイクロポンプシステムの構築、画像解析アルゴリズム、等の要素技術を組み合わせることで、診断デバイスの基礎原理の確立と、検出装置のプロトタイプの作製に至った。
研究方法
細胞の非特異吸着を抑制するリガンド固定化界面として、ベタイン系ポリマーを合成し、細胞ローリング挙動ならびに非特異吸着抑制効果について、ガラスキャピラリー、マイクロ流路により検討した。幅300μm,深さ150μmの流路を交差させたマイクロチップを作製し、微量の細胞懸濁液を検出流路へとインジェクトできる流路を設計した。装置系として、Fluigent社製のマイクロポンプをPEEK製のチューブで接続して、デジタルカメラを接続した顕微鏡下にマイクロチップを設置し、プロトタイプの装置とした。差分法によるローリング細胞の抽出アルゴリズムを作製し、ローリング細胞の速度分布のプロットを試みた。
結果と考察
ベタイン系ポリマーとして、スルホプロピルベタイン、2-Methacyloyloxyethyl phosphorylcholine (MPC)ポリマーを合成し、界面に対する重合やコーティング条件を検討して細胞の非特異吸着抑制効果を評価した。その結果、いずれのポリマーでもガラス界面へコートすることで、液流のずり応力存在下において細胞の非特異吸着を完全に抑制した。マイクロ流路内部への均一なコーティングという観点から、最終的にMPC, nブチルメタクリレート、N-ビニルホルムアミドのランダム共重合体をマイクロチップコーティング剤として用いた。交差型マイクロ流路にポリマーをコーティングして、マイクロポンプによる圧力印加により流路内部での液流をコントロールした結果、流路が交差している箇所から、検出器流路へと微量の細胞懸濁液を一定にインジェクトすることができた。10,20μmのラテックス粒子でポンプ圧に対する速度分布を計測した結果、粒子サイズによらず圧力の増加に応じて直線的にローリング速度が増加することが示された。さらに、作製したシステムにおいて、間葉系幹細胞のローリング速度のヒストグラムをプロットした結果、速度分布のプロファイルを描出することができ、ローリング速度の違う細胞集団を識別することができた。これらの検討から、本プロジェクトでは、構築したリガンド固定化マイクロチップによる診断デバイスによって、ローリング速度の違いによって表面マーカーを識別し、細胞を診断できる可能性を見出した。
結論
3年のプロジェクトによって、目的としていた細胞ローリングのマイクロチップデバイスを構築することができた。さらに、構築したプロトタイプによってローリング速度分布を計測できることから、本装置は非標識で細胞のマーカー発現とその密度を診断できる。検体を使った診断精度などの評価には至らなかったものの、基礎原理の確立や装置のプロトタイプを作製できたことから、今後臨床検体などの評価を進めることで、循環がん細胞の診断デバイスとしての有効性を実証していきたいと考えている。

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201313059C

収支報告書

文献番号
201313059Z