文献情報
文献番号
201313053A
報告書区分
総括
研究課題名
ゲノミクス解析に基づく造血器悪性腫瘍の分子診断法開発
課題番号
H25-3次がん-一般-002
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
間野 博行(東京大学 大学院医学系研究科細胞情報学分野)
研究分担者(所属機関)
- 宮崎 泰司(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
- 永井 正(自治医科大学 医学部内科学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
18,770,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
我々はこれまでの第3次対がん総合戦略研究事業において、(1)広く我が国の白血病症例からCD133陽性白血病芽球分画のみを純化保存するバンク事業を行い既に1000例に及ぶ芽球ストックを整備したと共に、(2)微量の臨床検体からでもマイクロRNA(miRNA)を大量にクローニングする手法を開発し、上記白血病芽球におけるmiRNA配列の大規模取得技術を確立した。さらに我々は、一般の方法とは異なり、エラー率の極めて低い次世代シークエンサー解析技術を新たに開発した。そこで本研究計画では、次世代シークエンサーを用いて上記検体バンクを大規模にリシークエンスし、配列異常の面から造血器腫瘍の新たな分子診断マーカーおよび発症原因異常の探索を目指すとともに、白血病に存在する遺伝子異常がどのようなメカニズムで造腫瘍性を獲得するかを検討する。
研究方法
各検体試料よりゲノムDNAを抽出して断片化した後、SureSelectシステム(Agilent社)を用いてエクソン領域のみを高効率に純化した。これを次世代シークエンサーによる配列解析を行い、各試料毎に30~40Gbpの大量の塩基配列を得た。それを独自のコンピューターパイプラインによって非同義変異のリストを得た。
結果と考察
急性骨髄性白血病(AML)症例が兄弟よりの末梢血幹細胞移植後に再発したものがあった。未治療期、再発期に加えて移植ドナー骨髄血が入手できたので、それぞれから全エクソン配列を得た。全エクソン中のSNPを比較したところ、再発は元々のAMLクローンではなくてドナー由来であり、ドナー由来白血病(donor cell leukemia, DCL)であることがわかった。非同義変異プロファイルも両白血病クローン間で全く異なりやはりDCLである事が確認された。興味深いことにDCLで変異が確認された遺伝子のうちIDH2(R140Q)変異とDNMT3A(V150Gfs)変異は低い頻度(それぞれ7.1%、8.7%)で健常ドナー骨髄にも存在した。そこでこれら遺伝子とNRAS(G13D)変異について、超高重積度で次世代シークエンサー解析を行った。またその際に、移植後まだDCLを発症していない時期の骨髄も同時に解析をした。その結果、IDH2変異とDNMT3A変異ともに確実にドナー骨髄中に存在することが明らかになった(それぞれ1.6%と2.1%)。移植後まだDCLに至っていない時期に既にドミナントなクローンになり(それぞれ13.4%と25.1%)、DCLが発症すると主要なクローンになった(それぞれ35.5%と73.5%)。またNRASのがん化変異はドナー骨髄中にはなく、移植後新たに加わった体細胞変異と考えられた。したがって本DCLは、健常ドナー中に存在したIDH2/DNMT3A変異クローン上に、移植後新たにNRAS変異が生じて発症したものと考えられた。
結論
DCLの解析結果が明瞭にものがたっているのは、一見健常な我々の体内に一部pre-malignantな細胞クローンが存在する事である。我々の知見は、健常な高齢者の末梢血に一部TET2変異クローンやDNMT3A変異クローンが一部存在することがあるというBusqueらの最近のデータと良く符合する。多症例の解析により、ドナー由来白血病が高頻度にTET2/DNMT3A/IDH2の変異を有する事が確認されれば、今後の骨髄移植、造血幹細胞移植の際に「適切」なドナーをどのようにして選ぶかと言うことに重要な示唆を与える知見だと言える。単にHLAが合っているだけで良いのか、または低頻度に存在するTET2/DNMT3A/IDH2変異細胞を検出する必要があるのかを前向き解析で検討したい。
公開日・更新日
公開日
2015-09-02
更新日
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