文献情報
文献番号
201313049A
報告書区分
総括
研究課題名
がんの実態把握とがん情報の発信に関する研究
課題番号
H24-3次がん-一般-008
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
祖父江 友孝(大阪大学大学院医学系研究科 社会環境医学講座環境医学)
研究分担者(所属機関)
- 柴田 亜希子(独立行政法人国立がん研究センター がん対策情報センター がん統計研究部)
- 服部 昌和(福井県立病院 外科)
- 伊藤 秀美(愛知県がんセンター研究所 疫学・予防部)
- 杉山 裕美((公財)放射線影響研究所 疫学部)
- 大木 いずみ(栃木県立がんセンター研究所 疫学研究室)
- 三上 春夫(千葉県がんセンター研究局 がん予防センター)
- 片山 佳代子(神奈川県立がんセンター臨床研究所 がん予防・情報学部)
- 井岡 亜希子(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立成人病センター がん予防情報センター 企画調査課)
- 西野 善一(宮城県立がんセンター研究所 がん疫学・予防研究部)
- 早田 みどり((公財)放射線影響研究所 疫学部)
- 安田 誠史(高知大学 教育研究部 医療学系 連携医学部門)
- 加茂 憲一(札幌医科大学 医療人育成センター)
- 松田 智大(独立行政法人国立がん研究センター がん対策情報センター がん統計研究部)
- 片野田 耕太(独立行政法人国立がん研究センター がん対策情報センター がん統計研究部)
- 雑賀 公美子(独立行政法人国立がん研究センター がん予防・検診研究センター 検診研究部)
- 西本 寛(独立行政法人国立がん研究センター がん対策情報センター がん統計研究部)
- 東 尚弘(独立行政法人国立がん研究センター がん対策情報センター がん政策科学研究部)
- 松田 彩子(独立行政法人国立がん研究センター がん対策情報センター がん統計研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
76,770,000円
研究者交替、所属機関変更
研究分担者交代
岡本直幸(平成25年4月1日~25年8月31日)→片山佳代子(平成25年9月1日以降)
研究報告書(概要版)
研究目的
第3次対がん総合戦略研究事業の10年間の最終年度として、地域がん登録を国策として強力に推進し、院内がん登録との連携を通じて双方の精度向上を図り、がん罹患・死亡を含むがん統計を総合的に整備し、がんの実態を正確に把握することにより、がん対策の正しい方向付けを支援する。
研究方法
地域がん登録標準DBSの普及と操作手順の標準化を促進する。2009年及び2010年がん罹患数・率の全国値を推計する全国がん罹患モニタリング集計(MCIJ)を実施する。がん患者数に関して利用可能な統計指標の特徴と限界を考察する。安全管理措置に関する活動を実施する。がん検診の精度管理への利用に関して問題点や課題の調査を行う。越境受診患者の受療行動の実態を把握する。また、MCIJ参加地域におけるデータ品質を分析する。事業委託先としての大学の役割を考察する。院内がん登録との連携において、ICD-O-3改訂に伴うICD-10変換テーブルの更新、医療機関のがん登録に関する意識調査を実施する。さらに、医療の均てん化推進のため、診療の質評価(QI)の測定を行う。タイムリーな数値の報告のため、2014年のがん罹患数、死亡数の推計を行う。
結果と考察
標準DBSの利用、保守、導入・運用事業を支援し、今年度新たに、宮城県、岐阜県、宮崎県の計3県が標準DBS運用を開始した。これにより標準DBS利用県は40県となった。38地域がん登録及び31地域がん登録から2009、2010年の罹患データを収集し、精度基準を満たした32登録、28登録に基づき2009、2010年の全国がん罹患数・率を推計した。全国がん罹患数推計値は男女計で77.6万人、80.5万人であった。患者調査に基づく総患者数と比較した場合、レセプト件数は総患者数を1~2.9倍上回り、重複計測の問題解決が必要であると考えられた。地域がん登録の標準化と精度向上の総合評価として、10年後調査を実施した。H24年に東京都、H25年に宮崎県が事業を開始し、10年後調査時には47都道府県1市で実施されていた。地域がん登録の安全管理措置に関する検討として、(1)ミニマムベースライン達成状況調査、(2)安全管理措置の外部監査(評価)に関する規定類の検討、(3)(2)の実効性を検証するための模擬監査の実施、(4)安全管理措置ハンドブックの改訂、(5)ミニマムベースラインおよび同評価ツールの改訂、を実施した。ミニマムベースラインの達成状況は、コンプライアンス遵守にかかわる8項目の追加により、昨年の82.6%から51.1%へ減少した。がん検診の精度管理に関して、福井県地域がん登録データを用いて、大腸がん集団検診データとの記録照合を行った結果、感度0.82、特異度0.95であった。また、大阪府地域がん登録データを用いた検討では、市町村がん検診ファイルに姓名漢字が不完全な受診者を1割程度認めた。照合の事業化など、地域がん登録資料を活用したがん検診の精度管理の効率化が求められる。越境受診患者の実態把握のため、千葉県がん登録データを用いて死亡症例を解析した。2000年から2011年の累計の県外死亡割合は、東京都が69.8%を占め、茨城県12.2%、埼玉県7.5%、神奈川県3.6%を合わせた4都県で93.1%を占めた。県境を越えた医療圏に対応した地域がん登録のクラスター化が必要である。神奈川県地域がん登録では、住基ネットを用いた住民票照会を行い、生年月日、漢字氏名、住所で照合し3回行うことで95%がヒットした。今後も継続することで益々の向上が期待できる。MCIJ2008の罹患データ解析の結果、年齢不詳割合はすべての地域で目標を達成した。青森県、和歌山県を訪問し、地域がん登録事業の委託先としての大学の役割について検討した。どちらの県でも、標準システムの導入、実務者の確保、大学病院と県との情報交換が認められ、さらに、電子媒体による届け出を増やす取り組みが行われていた。長崎県で医療機関に対して、がん登録に関する意識調査を行った結果、70施設から回答が得られ、届け出数の確保にあたり、入力用ソフトの提供が有用であると考えられた。QI実施率の平均値は全体で、2009年で37%、2011年で46%と上昇を認めた。がん罹患・死亡動向の分析と予測に関する検討において、2014年のがん罹患数は826,000例、がん死亡数は367,100人と推計された。
結論
本研究班が行った地域がん登録の標準的機能の強化、標準的要件に沿った登録室の運用、院内がん登録との連携による精度向上に向けた取り組みは、わが国における全国レベルのがん統計の実現に資するものであった。第3次対がん終了後も、本研究の成果を元に、引き続きがん登録の標準化と精度向上を進めることで、全国がん登録体制を念頭に置いたがん登録事業の基盤構築が可能となる。
公開日・更新日
公開日
2015-09-02
更新日
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