文献情報
文献番号
201313046A
報告書区分
総括
研究課題名
悪性中皮腫に対する単剤多機能抗がん治療の開発
課題番号
H24-3次がん-一般-005
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
石川 義弘(横浜市立大学 大学院医学研究科 循環制御医学)
研究分担者(所属機関)
- 竹村 泰司(横浜国立大学大学院 工学研究院 )
- 井上 誠一(横浜国立大学大学院 工学研究院)
- 青木 伊知男(独立行政法人放射線医学総合研究所 )
- 江口 晴樹 (横浜市立大学大学院医学研究科 )
- 浦野 勉(独立行政法人医薬品医療総合機構)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
16,154,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
悪性中皮腫は胸膜表面の中皮由来の腫瘍であり、石綿曝露との関連から今後10年間で患者数が倍増することが予測されている。患者は高齢者が多く、発見時にはすでに広範な部位に広がっていることが多く、外科手術の適応にならないことも多い。いわゆる放射線や化学治療にも抵抗性が強いため、治療成績は極めて低い。抗がん剤としてシスプラチンないしペメトレキセドとの併用療法が主体だが、投与量は副作用の発現によって制限される。また一部の大学病院や成人病施設では温熱療法の併用が施行されており、症状の緩和には有効とされる。本申請では根治困難とされる悪性中皮腫に対して、新規抗がん剤を用いた化学療法と磁場誘導の治療法を検討した。我々の開発する新規磁性抗がん剤化合物はシスプラチン類似薬であり、造船業における材料開発技術を医薬品化合物開発に応用して開発された独自開発薬である。とりわけ新規抗がん剤は強い磁性特性を持ち、体表面からの磁場誘導が可能と考えられる。これにより少量投与で胸膜病変部への抗がん剤の磁場集積を検討することが目的である。また交流磁場印加にて温熱作用を持つことが予想されるため、抗がん治療と温熱治療を同時に施行することができると考えられた。
研究方法
研究計画の次年度度事業として、動物実験により新規磁性体抗がん剤を胸腔内に注入し、体外からの磁場によって特定部位に集積する方法を改良した。初年度に開発した皮下磁石植え込み方法から、単に小球状の磁性ビーズを埋め込むのではなく、磁石の特性を物理的に検討したうえで、体表に装着させたより侵襲性の低い方法を検討した。培養中皮腫細胞において、磁性抗がん剤と温熱療法の併用によって、細胞殺傷効果が亢進する分子メカニズムについて検討するとともに、MRIにおける撮影条件の検討を行った。また動物モデルでの中皮腫細胞の変化を容易に観測できるように、蛍光ラベルした中皮腫細胞を確立した。
結果と考察
昨年の悪性中皮腫培養細胞を用いた実験では、抗がん作用と温熱作用を同時に加えることにより、抗がん作用の増強が得られること、この作用には酸化ストレスの増強が関与する事が分かった。またマウス胸腔内に本抗がん剤を注入し、胸腔内全域に分布させたのちに、マウスに磁性ビーズを縫い込んだベストを装着し、磁性ビーズの強度を強めることによって、埋め込み時とほぼ同様の集積を認めることができた。さらに装着期間を1週間程度に延長することによって、局所の集積がさらに増強した。この方法は高齢者にも苦痛の少ない局所誘導法として開発可能であると考えられる。さらに蛍光ラベルした悪性中皮腫細胞をマウスに移植し、抗がん剤による治療効果を生体レベルで観察することに成功した。この方法を用いることにより、従来のように腫瘍の進展や治療効果の判定のために、マウスを解剖して腫瘍組織を取り出す必要がなくなった。この方法を用いることにより、磁性抗がん剤の治療効果を継時的に生体レベルで検討することが可能になると思われる。さらにMRI撮影によって緩和時間の設定調節により、汎用機種である3テスラMRIでの観察が可能になると考えられた。今回の検討結果では、悪性中皮腫自体を胸膜に発生させたものをMRIによって画像撮影し、さらに磁場によって誘導させた磁性抗がん剤を造影剤として描出することができた。
結論
本研究成果によって、我々の開発した磁性抗がん剤が悪性中皮腫細胞に対しても磁場誘導により強い抗がん活性を示すことがわかった。さらに中皮腫細胞は、温熱療法との併用によって、細胞殺傷効果が亢進することが培養細胞実験から判明した。また動物モデルを用いた検討では、胸腔内に注入した磁性抗がん剤を、胸壁に植え込んだ永久磁石を用いて局所胸膜に集積できるだけでなく、さらに安全性の高い磁石装着ベストの着用により、より長期間にわたって侵襲性の少ない方法で局所誘導できることを証明した。磁石装着ベストの開発には今後衣料メーカーなどの参画が期待され、抗がん剤治療に新しい衣料性治療器として開発が可能になると考えられる。これまでの抗がん療法では治療困難とされていた悪性中皮腫に対して、とりわけ高齢者でも安心して適応できる副作用の少ない、安全でかつ安心できる抗がん治療を開発することが可能となる。さらに本研究成果を駆使して、医工連携により一般産業界の技術を医学応用し、産学連携により衣料メーカーとの共同開発を進め、多施設共同により画像診断技術を取り入れ、さらに円滑な臨床開発を進め、学際的な共同研究により、我が国から世界に向けて新規抗がん治療技術として悪性中皮腫の治療法を開発していくことが可能になると期待される。
公開日・更新日
公開日
2015-09-02
更新日
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