新規バイオマーカー開発による胃がんのハイリスクグループ同定のための研究

文献情報

文献番号
201313043A
報告書区分
総括
研究課題名
新規バイオマーカー開発による胃がんのハイリスクグループ同定のための研究
課題番号
H24-3次がん-一般-002
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
津金 昌一郎(独立行政法人 国立がん研究センター がん予防・検診研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 笹月 静(独立行政法人 国立がん研究センター がん予防・検診研究センター )
  • 伊藤 秀美(愛知県がんセンター研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
16,539,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
多角的なバイオマーカーを用いて胃がんのハイリスクグループを同定することを目的に 胃がんのコホート内症例・対照研究、コホート研究、病院ベースの症例・対照研究、横断研究において血漿あるいは遺伝子多型に基づく解析、全ゲノム関連解析研究を行った。
研究方法
対象は1990年開始のJPHC Studyの血液提供者約6万人のうち、追跡期間中に胃がんに罹患しバイオマーカー測定のための十分なサンプル量を有する477例および性・年齢・地域・採血条件などをマッチさせた対照477例。マルチプレックスサスペンションアレイシステムにより、複数の糖尿病関連マーカー(C-peptide, Insulin)を同時測定した。さらに、同デザインでDNA検体を保有する約950検体について遺伝子多型の測定および解析を行った。飲酒および飲酒関連の遺伝子多型についての検討は愛知県がんセンターの症例・対照研究に基づいても行われた。予測モデル構築については多目的コホート研究対象者のうち、コホート1の21,579人を本研究の解析対象とした。ステップワイズ法及び過去の知見より共変量として年齢、喫煙、胃がんの家族歴、H.pylori感染及び萎縮性胃炎を候補とし、Coxの比例ハザードモデルを用いて胃がん発生の相対危険度を算出する。非がん者における全ゲノム関連解析研究については、対象者は2001~2005年に愛知県がんセンター病院を受診し大規模病院疫学研究 (HERPACC)に、遺伝子測定用のDNA検体を提供の上参加した患者より選択された。患者は同期間に受診1年以内に担がんの診断を受けなかった者からランダムに選択をされ、全ゲノム解析を受け且つHP感染に関して検討された917名である。HP感染、ペプシノーゲン(PG)は血漿を用いてHP感染、ペプシノーゲン(PG)は血漿測定した。HP感染の有無はEプレート栄研H.ピロリ抗体(栄研)にて吸光度10U/mL以上とした。萎縮性胃炎の有無は、CLIEA法によるPG-Iが70以下且つPG-I/PG-IIが3未満にて萎縮有りと判定した。


結果と考察
胃がんのコホート内症例・対照研究においてはC-peptide, insulinと胃がんとの間に正の関連が見いだされ、高インスリン状態が胃がんの発生に関わっていることが示唆された。遺伝子多型の解析においては飲酒量150g/週未満までのALDH2 GG遺伝子多型を基準として飲酒量150g/週以上のALDH2 A遺伝子保有者では2.08倍の胃がんリスク上昇を認め、両者の間に交互作用があることが示唆された。また喫煙とCYP1A1遺伝子との交互作用は認めないが、非喫煙・CYP1A1 GG遺伝子保有者を基準として累積喫煙量30以上・CYP1A1 A遺伝子保有者では2.19倍の胃がんリスク上昇を認めた。コホート20000検体を用いた予測モデル構築においてはH.pylori, PG両検査ともに陰性、H.pyloriのみ陽性、PGのみ陽性、両検査ともに陽性のときの胃がんの粗罹患率(/100,000)はそれぞれ16.46, 128.66, 296.15, 251.58 であり、すでに両検査のみでリスク層化が明らかであるが、今後喫煙、家族歴など他因子を付加して精度を高める。愛知県がんセンターで行われた症例・対照研究においてはコホートで得られた結果と同様に飲酒と関連の遺伝子多型との間に交互作用が示唆された。全ゲノム関連解析研究においては、HP感染は、男性、高齢者、累積喫煙量の高い者で多く、また、萎縮性胃炎は、高齢者、累積喫煙量の高い者で多かった。HP感染、萎縮性胃炎のいずれに対しても、全ゲノムレベルでの有意差を示した遺伝子座は認められなかった。




結論
自己申告の糖尿病ではなく、バイオマーカーに基づいて糖尿病が胃がんの発生に関連することが支持されたことから、胃がんのハイリスクグループ同定に加えて胃がん発生のメカニズム解明にも貢献することが期待される。遺伝子多型の結果からは、飲酒単独ではなく、個人の飲酒行動やアルコール代謝に関わる多型も合わせて考慮することにより、胃がん予防のよりきめ細かい提言が実現できる可能性が示された。すでに胃がんのリスク要因として確立している喫煙について、さらに代謝に関わる酵素の遺伝子多型を考慮することにより、ハイリスクグループの同定が可能であることも示された。コホートにともづく予測モデル構築については、20,000検体という研究集団の規模の大きさと精度の高い生活習慣情報から、信頼度の高いモデルの構築により胃がんのハイリスクグループ同定に大きく近づく可能性がある。全ゲノム関連解析研究においては、規模より十分な統計学的検出力が得られていないため、更なる大規模な検討が必要であると考える。

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

文献情報

文献番号
201313043B
報告書区分
総合
研究課題名
新規バイオマーカー開発による胃がんのハイリスクグループ同定のための研究
課題番号
H24-3次がん-一般-002
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
津金 昌一郎(独立行政法人 国立がん研究センター がん予防・検診研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 笹月 静(独立行政法人 国立がん研究センター がん予防・検診研究センター )
  • 伊藤 秀美(愛知県がんセンター研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
多角的なバイオマーカーを用いて胃がんのハイリスクグループを同定することを目的に、コホート内症例・対照研究、コホート研究、症例・対照研究、横断研究に基づき血漿・DNA検体を用いた解析および全ゲノム関連解析研究を行った。
研究方法
コホート内症例・対照研究の対象は1990年開始のJPHC Studyの血液提供者約6万人のうち、追跡期間中に胃がんに罹患し十分なサンプル量を有する477例および性・年齢・地域・採血条件などをマッチさせた対照477例。マルチプレックスサスペンションアレイシステムにより、複数の糖尿病関連マーカー(C-peptide, insulin)を同時測定、Glucoseについては血液提供時の健診データを用いた。条件付ロジステックモデルに基づき多変量調整オッズ比を算出した。同セットのうちDNA検体を保有する約950サンプルについて遺伝子多型解析を行った。予測モデル構築についてはH.pおよびPG測定を行い、ステップワイズ法及び過去の知見より共変量を定め、Coxの比例ハザードモデルを用いて胃がん発生の相対危険度を算出する。本研究の研究デザインは横断研究である。全ゲノム関連解析の対象者は2001~2005年に愛知県がんセンター病院を受診し大規模病院疫学研究(HERPACC)に、DNA検体を提供の上参加した患者より選択された。患者は同期間に受診1年以内に担がんの診断を受けなかった者からランダムに選択をされた917名である。HP感染、ペプシノーゲン(PG)は血漿を用いてHP感染、ペプシノーゲン(PG)は血漿測定した。HP感染の有無はEプレート栄研H.ピロリ抗体(栄研)にて吸光度10U/mL以上とした。萎縮性胃炎の有無は、CLIEA法によるPG-Iが70以下且つPG-I/PG-IIが3未満にて萎縮有りと判定した。



結果と考察
糖尿病関連血漿マーカーと胃がんとの関連においては、C-peptide, insulinと胃がんとの間に正の関連が見いだされ、高インスリン状態が胃がんの発生に関わっていることが示唆された。遺伝子多型の検討については、飲酒量150g/週未満までのALDH2 GG遺伝子多型を基準として飲酒量150g/週以上のALDH2 A遺伝子保有者では2.08倍の胃がんリスク上昇を認め、両者の間に交互作用があることが示唆された。また喫煙とCYP1A1遺伝子との交互作用は認めないが、非喫煙・CYP1A1 GG遺伝子保有者を基準として累積喫煙量30以上・CYP1A1 A遺伝子保有者では2.19倍の胃がんリスク上昇を認めた。胃がんの予測モデル構築については両検査ともに陰性、ピロリ抗体のみ陽性、ペプシノーゲンのみ陽性、両検査ともに陽性のときの胃がんの粗罹患率(/100,000)はそれぞれ16.46, 128.66, 296.15, 251.58 であり、すでに両検査のみでリスク層化が明らかであるが、今後喫煙、家族歴など他因子を付加して精度を高める。全ゲノム関連解析研究においてはHP感染は、男性、高齢者、累積喫煙量の高い者で多く、また、萎縮性胃炎は、高齢者、累積喫煙量の高い者で多かった。HP感染、萎縮性胃炎のいずれに対しても、全ゲノムレベルでの有意差を示した遺伝子座は認められなかった。
結論
自己申告の糖尿病ではなく、バイオマーカーに基づいて糖尿病が胃がんの発生に関連することが支持されたことから、胃がんのハイリスクグループ同定に加えて胃がん発生のメカニズム解明にも貢献することが期待される。遺伝子多型の結果については愛知がん研究センターでの結果を支持するものであり、飲酒単独ではなく、個人の飲酒行動やアルコール代謝に関わる多型も合わせて考慮することにより、胃がん予防のよりきめ細かい提言実現のための有力な候補と言える。すでに胃がんのリスク要因として確立している喫煙について、さらに代謝に関わる酵素の遺伝子多型を考慮することにより、ハイリスクグループの同定が可能であることが示された。予測モデル構築については20,000検体という研究集団の規模の大きさと精度の高い生活習慣情報から、信頼度の高いモデルの構築により胃がんのハイリスクグループ同定に大きく近づく可能性がある。非がん者における全ゲノム解析においては規模より十分な統計学的検出力が得られていないため、更なる大規模な検討が必要であると考える。

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201313043C

成果

専門的・学術的観点からの成果
血漿(糖尿病関連マーカー)、遺伝子多型(飲酒関連、喫煙関連)など、多角的観点から胃がんとの関連を解析し、胃がんのハイリスクグループ同定に一定の成果を残した。また、2万人のデータからピロリ菌感染、ペプシノーゲンによる萎縮性胃炎、生活習慣を組み合わせることにより胃がんを発生するリスクを予測するモデルの構築し、胃がんのリスク層別が可能であることを示した。
臨床的観点からの成果
ピロリ菌感染陽性者の中でも胃がんを発生するハイリスクグループの同定に寄与した。すなわち、高インスリン血漿、飲酒とアルコール代謝関連遺伝子多型との組み合わせ、喫煙および遺伝子多型との組み合わせにより、それぞれ胃がんのリスクが高いグループがあることが示された。また、予測モデル構築によりリスク層別化胃がん検診のモデルとなりうる。
ガイドライン等の開発
ピロリ菌感染、ペプシノーゲンによる萎縮性胃炎、生活習慣の組み合わせによる胃がんの予測モデルが構築されれば、リスク層別化胃がん検診の開発へ寄与することが可能である。関連会議などで情報共有を今後諮っていく。
その他行政的観点からの成果
ピロリ菌感染、ペプシノーゲンによる萎縮性胃炎、生活習慣の組み合わせによる胃がんの予測モデルが構築されれば、リスク層別化胃がん検診の開発へ寄与することが可能である。
本研究成果は、平成26年度からは、がん対策推進総合研究「わが国におけるがんの予防と検診の新たなあり方に関する研究」へと引き継がれ、政策的展開への側面からの更なる研究が実施された。
その他のインパクト
胃がんを含むがんと糖尿病との関連において論文化するとともに、日本癌学会学術総会における日本癌学会・糖尿病学会合同シンポジウムにて発表した。その内容は産経新聞に掲載された。胃がんのリスク予測モデルについて読売新聞に掲載された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
13件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
9件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Inoue M, Tsugane S
Insulin resistance and cancer: epidemiological evidence.
Endocr Relat Cancer , 19 (5) , F1-F8  (2012)
原著論文2
Sasazuki S, Tamakoshi A, Matsuo K et al.
Green tea consumption and gastric cancer risk: an evaluation based on a systematic review of epidemiologic evidence among the Japanese population
Jpn J Clin Oncol , 42 , 335-346  (2012)
原著論文3
Hara A, Sasazuki S, Inoue M,et al
Isoflavone intake and risk of gastric cancer: a population-based prospective cohort study in Japan.
Am J Clin Nutr , 95 , 147-154  (2012)
原著論文4
Sasazuki S, Charvat H, Hara A,et al
Diabetes mellitus and cancer risk: Pooled analysis of eight cohort studies in Japan.
Cancer Sci , 104 , 1499-1507  (2013)
原著論文5
Ma E, Sasazuki S, Sasaki S et al
Vitamin C supplementation in relation to inflammation in individuals with atrophic gastritis: a randomised controlled trial in Japan
Br J Nut , 109 , 1089-1095  (2013)
原著論文6
Kasuga M, Ueki K, Tajima N et al
Report of the Japan Diabetes Society/Japanese Cancer Association Joint Committee on Diabetes and Cancer.
Cancer Sci , 104 , 965-976  (2013)
原著論文7
Charvat H, Sasazuki S, Inoue M et al
Impact of five modifiable lifestyle habits on the probability of cancer occurrence in a Japanese population-based cohort: results from the JPHC study
Prev Med , 57 , 685-689  (2013)
原著論文8
Hara A, Sasazuki S, Inoue M et al
Plasma isoflavone concentrations are not associated with gastric cancer risk among Japanese men and women
J Nutr , 143 , 1293-1298  (2013)
原著論文9
Matsuo K, Oze I, Hosono S et al
The aldehyde dehydrogenase 2 (ALDH2) Glu504Lys polymorphism interacts with alcohol drinking in the risk of stomach cancer.
Carcinogenesis , 34 , 1510-1515  (2013)
原著論文10
Hidaka A, Sasazuki S, Goto A, et al.
Plasma insulin, C-peptide and blood glucose and the risk of gastric cancer: the Japan Public Health Center-based prospective study
Int J Cancer , 136 (6) , 1402-1410  (2015)
原著論文11
Hidaka A, Sasazuki S, Matsuo K et al.
Genetic polymorphisms of ADH1B, ADH1C and ALDH2, alcohol consumption, and the risk of gastric cancer: the Japan Public Health Center-based prospective study.
Carcinogenesis , 36 (2) , 223-231  (2015)
原著論文12
Hidaka A, Sasazuki S, Matsuo K et al.
CYP1A1, GSTM1, and GSTT1 genetic polymorphisms and gastric cancer risk among Japanese: A nested case-control study within a large-scale population-based prospective study.
Int J Cancer  (2016)
10.1002/ijc.30130
原著論文13
Charvat H, Sasazuki S, Inoue M et al.
Prediction of the 10-year probability of gastric cancer occurrence in the Japanese population: the JPHC study cohort II.
Int J Cancer , 138 (2) , 320-331  (2016)
10.1002/ijc.29705

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
2018-05-22

収支報告書

文献番号
201313043Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
21,500,000円
(2)補助金確定額
21,496,000円
差引額 [(1)-(2)]
4,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 6,934,740円
人件費・謝金 3,955,848円
旅費 171,880円
その他 5,473,275円
間接経費 4,961,000円
合計 21,496,743円

備考

備考
自己資金 743円

公開日・更新日

公開日
2015-10-14
更新日
-