文献情報
文献番号
201313011A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒトパピローマウイルスを標的とする発がん予防の研究
課題番号
H22-3次がん-一般-015
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
温川 恭至(独立行政法人 国立がん研究センター 研究所 ウイルス発がん研究分野)
研究分担者(所属機関)
- 川名 敬(東京大学大学院 医学部 医学系研究科)
- 酒井 博幸(京都大学ウイルス研究所 がんウイルス部門 がん遺伝子研究分野)
- 森 清一郎(国立感染症研究所 病原体ゲノム解析研究センター)
- 中川 俊介(帝京大学 医学部 産婦人科)
- 大和 建嗣(筑波大学 医学医療系 消化器内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
34,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
HPVはほぼ全ての子宮頸がんの原因であり、全がんの5%、 女性のがんの11%の原因となっている。HPV16、18のL1蛋白を抗原とする現行HPV感染予防ワクチンは16、18型以外に対する感染予防効果がないか低い。また、既感染者に対する治療効果は全くない。そこで、発がん性HPV群の感染予防、HPV潜伏感染の阻止、前がん病変の排除等による子宮頸がんの予防法を開発し子宮頸がんの罹患率・死亡率を減少させることが研究の目的である。
研究方法
新たな抗原として、B型肝炎ウイルスワクチンであるHBs抗原とL2-56/75との融合蛋白(HBs-56/75)を化血研との共同研究により作製した。HBs-56/75による中和抗体価誘導能を調べた。HPV16 E7を抗原としCTL誘導とCIN3病変の治療を目指した経口治療ワクチン(GLB101c)の探索的第I/IIa相臨床試験を終了し、CIN3からCIN2への退縮例の追跡調査ならびにE7特異的細胞性免疫を調べた。プロテアソーム阻害剤であるMG132封埋ミセルを東大片岡研の協力により開発、調製した。MG132単独投与とミセル化MG132の腫瘍集積性や抗腫瘍効果を比較した。E6 siRNAをポリエチレングリコール(PEG)で内包した高分子ミセルを東大片岡研の協力により開発、調製し、静脈投与により子宮頸癌担癌マウスに対する抗腫瘍効果を調べた。siRNAの副作用である非特異的細胞増殖抑制効果や細胞毒性がDNA-RNAキメラ化により軽減できるかを調べ、副作用の発現機構を解析した。HPVゲノムを複製維持する細胞株を樹立し、ゲノム内のL1/L2領域にレポーター遺伝子を異なる位置や方向に分泌型ルシフェラーゼ遺伝子発現カセットを搭載しレポーターの発現とゲノムコピー数との関連を調べた。
結果と考察
HBs-56/75抗原は、抗HBs抗体に加え交差性HPV中和抗体を効率よく誘導した。幅広い型のHPVとHBVに有効な多価ワクチンとして有望である。HBs抗原ワクチンは安全性・製造法が確立しておりコストも安く、発展途上国への普及も期待できる。経口HPV治療ワクチンは子宮頸部におけるE7特異的IFN gamma、granzyme B産生細胞誘導能と病理組織像の改善との間には相関が見られた。このようなHPV経口治療ワクチンの成果は世界に類をみない。一方、長期間の追跡期間中もCIN3への再増悪がないだけでなく、CIN1への消退例や正常化例も見られた。E6E7高発現は免疫監視機構を阻害することからE7高発現細胞が除去されることにより自然消退が促進される可能性も示唆された。ナノミセル化MG132は裸剤に比べHPV陽性子宮頸がん細胞移植マウスにおいて腫瘍集積性と抗腫瘍効果に優れており、ナノミセル化によるEPR効果によるものと推測された。ナノミセル化E6 siRNAを子宮頸癌担癌マウスに尾静脈接種すると明らかな抗腫瘍効果が見られた。新たなDNA置換体(idRNA)によってsiRNAの副作用である非特異的細胞増殖抑制効果を抑制できるため、E6E7を標的としたRNAi医薬への応用に有用であると考えられた。これらの成果を融合し、今後はidRNAの高分子ミセル化の効果を確かめる必要がある。HPVゲノム内のL1/L2領域に搭載したレポーター遺伝子の発現量は位置や方向により大きく異なったが、どの位置、方向でもゲノムの複製は維持された。また、ゲノムコピー数とレポーター遺伝子発現との間には相関が認められ、レポーター遺伝子発現によりゲノムコピー数をモニターすることが可能となった。複製阻害剤のハイスループット スクリーニング系として有望である。HPV複製を阻害する薬剤としてCDK9阻害剤を同定した。
結論
HBs抗原にHPV16 L2-56/75領域を挿入したキメラ抗原は、幅広い型のHPVとHBVの双方に有効な多価ワクチンとして有望である。一方、HPV16 E7を抗原とした経口治療ワクチン(GLB101c)は細胞性免疫誘導によるCIN3病変の消退を誘導し、CIN3の新たな内科的治療法として有望である。bortezomib等のプロテアソーム阻害剤はHPV陽性子宮頸がんの新たな治療薬として有望である。MG132のナノミセル内包化剤は高い腫瘍集積性や治療効果が期待され、臨床応用も有望である。レポータ-遺伝子搭載HPVゲノムを複製維持する細胞は複製阻害剤のスクリーニングに有効である。PEG高分子ミセル化したE6 siRNAの全身投与はHPV陽性腫瘍細胞に対して抗腫瘍効果を示し、核酸医薬の応用が期待される。siRNAのシード領域をDNA修飾したdsRDCや、その一部をRNAに戻したidRNAはオフターゲット効果や細胞毒性がsiRNAより低く核酸治療薬への応用に有用であると考えられた。
公開日・更新日
公開日
2015-06-02
更新日
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