不育症における抗リン脂質抗体標準化に関する研究

文献情報

文献番号
201312018A
報告書区分
総括
研究課題名
不育症における抗リン脂質抗体標準化に関する研究
課題番号
H23-次世代-若手-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
北折 珠央(公立大学法人名古屋市立大学 大学院医学研究科産科婦人科学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 杉浦 真弓(公立大学法人名古屋市立大学 大学院医学研究科産科婦人科学分野)
  • 渥美 達也(北海道大学大学院医学研究科免疫代謝内科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
4,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
抗リン脂質抗体は不育症の原因の10%を占め、唯一治療可能な原因であるが、抗リン脂質抗体は多様な抗体の集まりであるため測定法は多数あり、標準化されていない。村島分担研究者による「抗リン脂質抗体測定法に関するアンケート調査」でも明らかなように、医療者側も正しい知識が不足していることが多いため、不適切な検査、過剰な抗凝固療法をなされていることが少なくないことが本邦の不育症診療の問題点である。本研究では一般臨床医が測定可能な11種類の委託検査法の産科的有用性を明らかにすることを目的とする。。
研究方法
子宮奇形と夫婦染色体異常を除く同意を得た560名の不育症患者を対象とした前向き研究を行った。非妊娠時に採血し、従来法β2GPI依存性抗カルジオリピン(aCL)抗体、ループスアンチコアグラント(LA)-希釈ラッセル蛇毒法RVVT、LA-aPTT法の有用性が証明された3種の検査法と、11種類の外注検査可能なLA-リン脂質(PL)中和法、フォスファチジルセリンプロトロンビン(aPS/PT) IgG・M、古典的aCL IgG・M、aCL IgG・M・A(Phadia)、β2GPI IgG・M・A(Phadia)を測定した。検証する11種の測定は治療バイアスを除外するため、凍結保存して、帰結後に測定して解析を行った。その後の出産率と胎児染色体異常を除外した出産率を陽性・治療群、陽性・無治療群、陰性無治療群の3群間で多変量解析を行った。陽性の時に治療によって出産率が上昇する場合、無治療群で陽性の場合に出産率が低下する場合を「産科的有用性あり」とした。検査法についてはそれぞれの相関、特異度を検討した。
結果と考察
PL中和法とaPS/PT IgGは産科的に有用であった。国際学会の基準は健常人の99パーセンタイルを推奨しているが、産科的には基準は98パーセンタイルでも有用であると思われた。
LA-aPTTとPL中和法は原理が同じだが、試薬が異なることで別の患者を特定するため、aPTT試薬に関する研究が必要と思われた。aCL IgG/Mは村島研究分担者の「抗リン脂質抗体測定法に関するアンケート調査」でも多くの施設が測定しており、国際学会の基準に用いられているが、古典的CL IgG/Mとは測定法、陽性率、陽性となる患者、陽性治療例で出産率が改善するかどうかという産科的有用性の点で全く異なっており、産科的有用性に疑義が示された。aPS/PT IgGに関しては北大研究室で測定したため、委託検査会社で再度測定し、再現性の確認を行う予定である。
結論
PL中和法の産科的有用性が明らかになった。国際学会の基準にも含まれており、欧米では普及しているが、まだ発売されて日が浅く医療者の認識不足のため国内では13%の施設でしか使用されていないことがアンケート調査で明らかになっている。PL中和法の有用性とCLIgG/Mの産科的有用性がないことを、医師に対しては日本産科婦人科学会の産科診療ガイドライン2014年版、総説、講演を通じて、患者に対しては名古屋市立大学産婦人科ホームページ(http://www.med.nagoya-cu.ac.jp/obgyne.dir/group_huiku.html)、講演を通じて、普及啓発を行う予定である。

公開日・更新日

公開日
2014-08-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201312018B
報告書区分
総合
研究課題名
不育症における抗リン脂質抗体標準化に関する研究
課題番号
H23-次世代-若手-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
北折 珠央(公立大学法人名古屋市立大学 大学院医学研究科産科婦人科学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 杉浦 真弓(公立大学法人名古屋市立大学 大学院医学研究科産科婦人科学分野 )
  • 渥美 達也(北海道大学大学院医学研究科免疫代謝内科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
不育症は4.2%の頻度であり、不育症の原因の約10%を占める抗リン脂質抗体は唯一治療可能な原因である。しかし、抗リン脂質抗体には多数の測定法があり、委託検査可能な測定法の中で産科的有用性が確認されているものはほとんどない。本研究では、11種類の委託検査について産科的有用性を調べることで、産科的抗リン脂質抗体測定法の標準化を試みた。さらに、不育症の原因分布と原因不明不育症の意味を明確にすることを目的とした。
研究方法
子宮奇形と夫婦染色体異常を除く同意を得た560名の不育症患者を対象とした前向き研究を行った。非妊娠時に採血し、従来法β2GPI依存性抗カルジオリピン(aCL)抗体、ループスアンチコアグラント(LA)-希釈ラッセル蛇毒法(RVVT)、LA-aPTT法の有用性が証明された3種の検査法と、11種類の外注検査可能な検査法としてLA-リン脂質中和法、フォスファチジルセリンプロトロンビン(aPS/PT) IgG・M、古典的aCL IgG・M、aCL IgG・M・A、β2GPI IgG・M・A(Phadia)を測定した。
その後の出産率と胎児染色体異常を除外した出産率を陽性・治療群、陽性・無治療群、陰性無治療群の3群間で多変量解析を行った。陽性の時に治療によって出産率が上昇する場合、無治療群で陽性の場合に出産率が低下する場合を「産科的有用性あり」と定義した。検査法についてはそれぞれの相関、特異度を検討した。
結果と考察
ループスアンチコアグラントLA(リン脂質中和法)とフォスファチジルセリンプロトロンビン(aPS/PT) IgGが有用であることが明らかになった。抗カルジオリピン抗体IgG、IgMは産科的有用性が認められないことも判明した。全国の妊婦健診取扱施設緒帳を対象としたアンケート調査では97%の施設が抗カルジオリピン抗体もしくはβ2glycoprotein I依存性抗カルジオリピン抗体を測定している一方、リン脂質中和法は13%の施設しか測定していないことが判った。またaPTT試薬と蛇毒法の両方を実施している施設は4.1%のみだった。XII因子低下は流産の危険因子とされ治療されていたが、LA存在下ではXII因子活性は低下することが明らかになった。不育症の危険因子と報告されたAnnexin A5遺伝子多型について追試したところ、SNP5が危険因子であることが確認できたが、そのオッズ比は1.6と小さく、変異の有無による次回出産率の差はなく、臨床的影響は小さいと思われた。
結論
ループスアンチコアグラント(LA)(リン脂質中和法)とaPS/PT IgGは産科的有用性が明らかになった国際抗リン脂質抗体学会は複数の試薬によるループスアンチコアグラント測定を推奨しており、aPTT法と蛇毒法の両方のループスアンチコアグラントを行うことが重要である。これらの陽性率はさほど高くなく、これらを含む複数の検査を組み合わせて行うことで過不足の少ない不育症治療ができる。しかしながら両者とも認知度が低く、普及させることが必要である。
LA陰性のXII因子活性低下例では流産率は上昇せず、XII活性の測定やそれに対する治療は不要である。原因不明不育症は不育症易罹患性遺伝子と加齢、喫煙などの後天的な要因とによって起こる多因子遺伝性疾患であることが判ってきた。原因不明不育症において薬剤投与が必要ないことを丁寧に説明することが重要である。

公開日・更新日

公開日
2014-08-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201312018C

成果

専門的・学術的観点からの成果
産科的な抗リン脂質抗体測定の標準化は望まれていたが実現できておらず、今回は560例と他にもみない症例数での検討ができたことは大きな成果である。臨床的に有用な検査がどれでるか、また具体的な測定法の選択などを提示することができ、すぐに臨床応用できる成果が得られた。
臨床的観点からの成果
不要な検査・治療が蔓延していることが本邦の不育症医療の問題点であったが、本研究で有用な検査を明らかにでき、不要・過剰な検査・治療を省くことができるため、患者の経済的・肉体的負担や医療費の浪費を軽減できる。
ガイドライン等の開発
日本産科婦人科学会発行の産科診療ガイドライン2014年版に掲載された
その他行政的観点からの成果
日本産科婦人科学会発行の産科診療ガイドライン2014年版コンセンサスミーティング
その他のインパクト
第58回日本生殖医学会シンポジウム「不育症診療における新しい展開」
第26回日本生殖免疫学会シンポジウム「不育症における抗リン脂質抗体標準化に関する検討」
第6回日本血栓止血学会学術標準化委員会シンポジウム「不育症の疫学」
第63回日本産科婦人科学会学術集会シンポジウム「流産の原因と対策」
日本血栓止血学会ランチョンセミナー「抗リン脂質抗体症候群と不育症」
第135回東北連合産科婦人科学会招請講演、第51会徳島・不妊・内分泌研究会特別講演、滋賀県産科婦人科医会特別講演「不育症の診断と治療」

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
11件
その他論文(和文)
16件
その他論文(英文等)
34件
学会発表(国内学会)
9件
学会発表(国際学会等)
10件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
13件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kitaori T, Sugiura-Ogasawara M, Oku K,et al.
Determination of clinically significant tests for antiphospholipid antibodies and cutoff levels for obstetric APS
submitted  (2014)
原著論文2
Sugiura-Ogasawara M, Suzuki S, Kitaori T, et al.
Frequency of recurrent spontaneous abortion and its influence on further marital relationship and illness: The Okazaki Cohort Study in Japan.
J Obstet Gynaecol Res , 39 , 126-131  (2013)
原著論文3
Hayashi Y, Sasaki H,Kitaori T, et al.
Genotyping analyses for polymorphisms of ANXA5 gene in patients with recurrent pregnancy loss.
Fertil Steril , 100 (4) , 1018-1024  (2013)
原著論文4
Katano K, Suzuki S,Kitaori T, et al.
Peripheral natural killer cell activity as a predictor of recurrent pregnancy loss: a large cohort study.
Fertil Steril , 100 (6) , 1629-1634  (2013)
原著論文5
Sugiura-Ogasawara M, Ozaki Y, Suzumori N.
Management of recurrent miscarriage. invited review
J Obstet Gynecol Res , inpress-  (2014)
原著論文6
Sugiura-Ogasawara M, Ozaki Y,,Kitaori T, et al.
Abnormal embryonic karyotype is the most frequent cause of recurrent miscarriage.
Hum Reprod , 27 , 2297-2303  (2012)
原著論文7
Mizutani E, Suzumori N, Ozaki Y, et al.
SYCP3 mutation may not be associated with recurrent miscarriage caused by aneuploidy.
Hum Reprod , 26 , 1259-1266  (2011)
原著論文8
Souri M, Sugiura-Ogasawara M, Saito S, et al
Increase in the plasma levels of protein Z-dependent protease inhibitor in normal pregnancies but not in non-pregnant patients with unexplained recurrent miscarriage. 
Thromb Haemost , 107 , 507-512  (2012)
原著論文9
Oku K, Amengual O, Zigon P, Horita T, et al
Essential role of the p38 mitogen-activated protein kinase pathway in the tissue factor gene expression by the phosphatidylserine-dependent antiprothrombin antibody.
Rheumatol , 52 , 1775-1784  (2013)
原著論文10
Kato M, Atsumi T, Oku K, Amengual O, et al
The involvement of CD36 in the monocyte activation by antiphospholipid antibodies.
Lupus , 22 , 761-771  (2013)
原著論文11
The involvement of CD36 in the monocyte activation by antiphospholipid antibodies. et al
Comparative analysis of different enzyme immunoassays for assessment of phosphatidylserine-dependent antiprothrombin antibodies.
Rheumatol , in press-  (2014)

公開日・更新日

公開日
2021-06-03
更新日
-

収支報告書

文献番号
201312018Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,287,000円
(2)補助金確定額
5,287,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,941,206円
人件費・謝金 504,587円
旅費 294,380円
その他 659,827円
間接経費 887,000円
合計 5,287,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2014-06-11
更新日
-