文献情報
文献番号
201307030A
報告書区分
総括
研究課題名
人工水耕栽培システムにより生産した甘草等漢方薬原料生薬の実用化に向けた実証的研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H24-創薬総合-一般-007
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
吉松 嘉代(独立行政法人 医薬基盤研究所 薬用植物資源研究センター 筑波研究部 育種生理研究室)
研究分担者(所属機関)
- 川原 信夫(独立行政法人 医薬基盤研究所 薬用植物資源研究センター)
- 河野 徳昭(独立行政法人 医薬基盤研究所 薬用植物資源研究センター 筑波研究部 )
- 穐山 浩(国立医薬品食品衛生研究所 食品添加物部)
- 工藤 善(鹿島建設株式会社 技術研究所)
- 小松 かつ子(富山大学 和漢医薬学総合研究所 資源開発研究部門・生薬資源科学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
社会の超高齢化に伴い需要が急増している日本独自の医薬品「漢方薬」の安定供給及びその基原植物資源の戦略的確保のため、産学官連携の研究成果である「甘草の人工水耕栽培システム」の着実な実用化を推進する。また、生薬の国内生産基盤構築と推進モデル実証のため、地域企業との連携によりブランド生薬を開発する。
研究方法
人工水耕栽培は圃場栽培に比べてコスト高であり、また、生薬原料の植物資源の多くは国外の野生種で良品の入手が困難なため、本研究では、経済性、汎用性を考慮した、1)「甘草」等の種苗生産システムの構築、2)ハイテク「甘草」等生産システムの構築を行う。また、人工水耕栽培で生産した生薬の製品化事例はなく、そのような生薬に対しての潜在的不安が存在するため、3)生薬「甘草」等の評価(安全性・有効性)を行い、水耕生薬の有効性・安全性を担保し、優位性を確認する。4)ブランド生薬の開発は、国内栽培の推進が強く望まれている芍薬(シャクヤク)、大黄(ダイオウ)、刺五加(エゾウコギ)について実施する。
結果と考察
「甘草」等の種苗生産システムの構築:ウラルカンゾウについて、昨年度に確立した大量増殖法で増殖した優良株を種々条件で栽培し、北海道野外圃場で434日間栽培した植物の根も日本薬局方(日局)規格値を満たすことを確認し、また、グリチルリチン酸(GL)生合成酵素遺伝子の配列多型を利用した優良系統等の遺伝子識別法の開発及び挿し木苗の根を材料としたGL生合成酵素遺伝子群の発現解析を行った。他の重要生薬の生産システム構築のため、シナマオウについて光独立栄養培養による効率的な挿し木増殖法を検討し発根率68%を達成した。ハイテク「甘草」等生産システムの構築:ウラルカンゾウについて、水耕液循環量試験を継続し、根の生育量及びGL含量が最大となる最適循環量を決定した。暗期中のUV-B照射試験を実施した結果、生育障害が生じない低い強度でもGL含量の上昇を認めた。セリバオウレンについて水耕栽培液の最適な肥料濃度を検討し、汎用濃度の1/8濃度で根茎の収量が最大となり、得られた生薬は日局規格値を満たすことを確認した。生薬「甘草」等の評価(安全性・有効性):水耕甘草及び市場流通品(日本、中国)エキスの液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS/MS)による多変量解析の結果、ウラルカンゾウ由来のものは水耕栽培品も市場流通品も同じグループに分離され化学的同等性が高いことを確認した。水耕甘草、ハイブリッド栽培甘草(増殖~育苗:水耕、生産:圃場)、水耕黄連の日本薬局方(日局)試験及び有害元素測定の結果、いずれも日局規格を満たす生薬が生産可能なこと、有害元素含量は特に水耕栽培品において低いことを確認した。遅延型アレルギーマウスモデルによる有効性評価を実施し、水耕甘草熱水抽出エキスは市場流通品と同様に抗アレルギー作用を示すことを確認した。ブランド生薬の開発:シャクヤクについて、園芸と薬用の双方で安定した生産を実現するための採花方法を検討し、1株に8本の茎を残す採花が有効である結果を得た。また、イメージングMSによる4成分の組織内分布、根の加工・乾燥法の違いによる成分含量の変化などを検討し、皮去りによりAlbiflorinとCatechinの含量が減少することが示された。また、根の低温貯蔵はPaeoniflorin含量を増加させる傾向が見られた。ダイオウについて、国内栽培に適した系統の選定を継続し、Rheum palmatum由来で遺伝子型がRPII型Rp5タイプの系統29及びRPI型Rp4タイプの系統38は長野県菅平及び北海道北部の環境に適した系統であることが示された。また、栽培5年生の根(根茎)17検体について日局試験を行った結果、11検体が日局に適合することを確認した。日局適の検体はRPII型Rp5タイプの系統17、18で多く、系統29では1検体のみであった。エゾウコギについて、後熟処理及び休眠打破処理を行った種子を閉鎖環境下で水耕栽培し、発根・発芽から育苗、屋内馴化までを行った結果、種子611粒中100個体の育苗に成功した(16.4%)。さらに、86個体を屋外に馴化させ、H26年度の圃場への定植を可能にした。屋内馴化時に収穫した葉、さらに屋外馴化した植物の葉の成分分析を行い、これらの生薬未利用部位が機能性素材原料として有望であることを確認した。
結論
甘草に関し、種苗生産システム、ハイテク生産システムの構築がほぼ完了し、さらに経済性・汎用性を高めるためのハイブリッド栽培に着手するとともに、黄連への展開を開始した。品質・有効性・安全性評価の結果、水耕甘草の有用性が示された。ブランド生薬開発のための基盤となる成果(植物系統・品種、収穫時期、遺伝子型、加工調製法、栽培地、水耕栽培条件など)を得た。
公開日・更新日
公開日
2015-03-11
更新日
-