漢方薬によるメタボリック症候群の病態基盤「自然炎症」の制御

文献情報

文献番号
201307006A
報告書区分
総括
研究課題名
漢方薬によるメタボリック症候群の病態基盤「自然炎症」の制御
課題番号
H23-創薬総合-一般-006
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
丸山 征郎(国立大学法人 鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 隆史(国立大学法人  鹿児島大学  大学院医歯学総合研究科)
  • 川原 幸一(大阪工業大学 工学部生命工学科)
  • 橋口 照人(国立大学法人  鹿児島大学  大学院医歯学総合研究科)
  • 大山 陽子(国立大学法人  鹿児島大学  大学院医歯学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
5,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「過剰な炎症」はTNFα, IL-6, IL-1βなど炎症性サイトカインを制御する生物学的製剤の開発で治療可能となってきた。しかしメタボリック症候群の病態基盤をなす自然炎症(parainflammation)は緩徐に進行し、動脈硬化・血栓症、腎症などを引き起こすので、生物学的治療の標的とならず、新しいストラテジーによる新規治療法の開発が求められている。そこで生薬による自然炎症の制御の可能性について研究した。
研究方法
1.生薬、食品中の抗自然炎症活性の検証
1)精製1,5-anhydrofructose(1,5-AF,生薬:遠志中に含有)の抗炎症活性を培養細胞とマウスを  使った実験で行った。
  ①in vitro 試験:培養ラット腹腔マクロファージを各種濃度の 1,5-AF 存在下で、エンドトキシ  ン(LPS)とATP, あるいはその他のDAMPs/PAMPs で刺激し、上清中のIL-1β, TNFα, HMGB1
を ELISA で測定した。
 ② in vivo 実験:LPS±1,5-AFをマウス腹腔内投与し、生存率を調べた。
2)1,5-AF の抗炎症活性の作用メカニズムの解析:1,5-AF に抗炎症活性を認めたので、その分子
細胞機序を検討した。

2.食品中の自然炎症惹起分子の同定とその炎症惹起の分子細胞機構
1)各種イチゴの素分画、HPLCによる高度に分画成分について、その血小板活性化抑制作用、
HO-1発現誘導活性を調べた。
2)メタボリック症候群の発症機構を明らかにする目的で、パルミチン酸の炎症と凝固活性とその
作用機序について解析した。

3.アデニ誘発慢性腎不全ラットを作製し、五苓散の効果とその機構について解析した。

結果と考察
結果
1.1,5-AFの抗炎症活性
 1,5-AFは細胞内炎症カスケード抑制を介する抗炎症活性があることを証明した。また1,5-AF はLPS による敗血症モデルマウスの多臓器不全を軽減し、救命率を上げた。
2.イチゴ中に抗血小板活性、HO-1 誘導活性制御の存在を発見した。誘導されたHO-I は各種ラディ カル、酸化ストレス活性と炎症をコントロールするもの考えられる。
3.食品中のメタボリック症候群惹起分子の同定とその作用の解析
 パルミチン酸は直接マクロファージ系細胞に TLR-2を介して作用し、ヒストンやHMGB-1, 組織因子 の発現を引き起こすことを照明した。
4.五苓散の抗炎症活性
 アデニン投与腎不全ラットに五苓散を投与し、五苓散には腎炎の軽減化(組織像, HMGB1蓄積、尿 量、尿中ラディカル排泄など)を観察した。また、腎組織中のHMGB1を解析したところ、活性の弱 い部分酸化型が増加していた。

考察
メタボリック症候群の病態の基盤をなす自然炎症は内皮や上皮細胞を炎症の場とし、バリアーの障害や、HMGB1 やヒストンなどDAMPsの産生・放出を主体とすることから新規の治療法が待たれているので、漢方薬で対処する可能性を模索した。結果、遠志中の1,5-AFが抗血栓活性を有することを見出した。
またイチゴのなかにもHO-1 の誘導活性とラディカル制御活性分画を見出した。さらにパルミチン酸が炎症と血栓を引き起こすとことを明らかにした。自然炎症をコントロールしうる薬剤として漢方薬中の五苓散に着目して検討したところ、本漢方薬がアデニン誘発実験腎炎において、炎症を軽減すること、それは腎組織中のラディカル消去、HMGB1の蓄積軽減など、HMGB1の量的、質的作用(分子修飾、すなわち部分酸化型)のよることを明らかにしたが、これは今後の生薬中の抗炎症活性を評価する際の大きな視点になるものと考えられる。
結論
緩徐進行性の自然炎症の治療方策の一つとして食品や生薬は十分に評価に耐える可能性があることが示された。
特に遠志中の 1,5-AF の抗炎症活性の発見とその標的の解明は、今後に大きな期待を抱かせるものといえる。また食品中のパルミチン酸が DAMPs として作用する可能性を指摘したが、これはメタボリック症候群を防ぐ、あるいは回避するという食生活という視点からも、重要な発見であった。一方、メタボリック症候群で発生するラディカルを食品や漢方薬で制御しうる可能性とその展望が見えてきた。

公開日・更新日

公開日
2015-03-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
-

文献情報

文献番号
201307006B
報告書区分
総合
研究課題名
漢方薬によるメタボリック症候群の病態基盤「自然炎症」の制御
課題番号
H23-創薬総合-一般-006
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
丸山 征郎(国立大学法人 鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 隆史(国立大学法人 鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科)
  • 川原 幸一(大阪工業大学 工学部生命工学科)
  • 橋口 照人(国立大学法人 鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科)
  • 大山 陽子(国立大学法人 鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
メタボリック症候群の病態の基盤である“自然炎症”の治療に漢方薬が有効な一手段となることを検証する。
1)漢方薬のなかで、炎症性疾患に使われている薬方を選び、それが実験的炎症に有効であるか、否かを調べた。炎症モデルとしては、アデニン経口摂取による実験的腎炎をラットに作製して、五苓散とその構成生薬を投与して、生化学的、病理学的に効果を判定した(大山、丸山ら)。
2)研究の過程で、遠志(オンジ、加味帰脾湯、帰脾湯、人参養栄湯などに含有)のなかの
1,5-an hydrofructose( 以下1,5-AF)が抗炎症活性を持つことを突き止め、その機序について検討した(丸山ら、伊藤ら、川原ら).
3)自然炎症のメディエーター: HMGB1の 発現、細胞外遊離に対する生薬やその成分の効果を検討した(大山、伊藤、丸山ら)。
4)炎症、特に自然炎症と血管新生の面から研究した(橋口ら)。
研究方法
1.生薬、食品中の抗自然炎症活性の検証
 1)1,5-AF の抗炎症活性を培養細胞とマウスを使った実験で行った。
  ①in vitro 試験:培養ラット腹腔マクロファージを各種濃度の 1,5-AF 存在下で、エンドトキシン(LPS)とATP, あるいはその他のDAMPs/PAMPs で刺激し、上清中のIL-1β, TNFα, HMGB1 をELISA で測定した。
  ② in vivo 実験:LPS±1,5-AF を腹腔内投与してその効果を調べた。
 2)1,5-AF の抗炎症活性のメカニズムの解析:1,5-AF に抗炎症活性の分子機序を解析した。

2.食品中の自然炎症惹起分子の同定とその炎症惹起の分子細胞機構
 1)各種イチゴの素分画、HPLC分画成分について、その血小板活性化抑制作用を調べた。
 2)パルミチン酸の催炎症活性とその分子細胞機構について解析した。

3.実験的腎炎
 アデニン誘発腎炎ラットに五苓散を経口投与して効果をその効果を解析した。
結果と考察
結果
1)アデニン投与慢性腎炎に対する五苓散効果  
 五苓散には実験的腎炎を抑制活性、すなわち、活性が観察された。すなわち組織学血中のHMGB1 濃度、酸素ラジカル濃度の低下などである。また組織学的にも腎臓におけるHMGB1の発現、沈着を抑制する傾向が観察された。
2)1,5-AFはHMGB1, TNFα, IL-1β, IL-18の産生放出を抑制した。

考察
メタボリック症候群の病態の基盤:自然炎症を標的とした治療法の開発が望まれているので漢方薬について研究した。
結果、五苓散が実験的腎炎モデルラットに一定の効果を示すこと、その分子細胞基盤に、HMGB1の細胞外放出の抑制や酸素ラディカルの発生抑制があることをつきとめた。
さらに1,5-AF がIL-1β, IL-18, TNFα, HMGB1 の産生抑制などの産生と細胞外分泌の抑制を介し抗炎症活性を発揮することとその標的分子も明らかにしえた。
結論
メタボリック症候群の病理基盤である“自然炎症”に対しては、現在のところ有力な治療法は無いが、今回の研究で、漢方薬やその構成成分の生薬のある種のものが、有効であることを基礎的研究ないし、動物実験により明らかにした。今後「医師主導型」治験などで検証してゆくことを次の課題としている。

公開日・更新日

公開日
2015-03-03
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201307006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
生薬の遠志のなかに単糖1,5-snhydrofructose(1,5-AF)が含まれていること、そしてこれがAMPKを活性化することを発見した。結果として、遠志が、免疫・炎症、代謝系に広いスペクトラムの生理活性を発揮することが検証された。また生薬中の1,5—AFの特筆すべき生理活性を“alellopathy”という大きな概念のなかで把握することが出来た。結果として遠志含有漢方薬の臨床効果の多くが、この1,5—AF⇒AMPK活性化作用に還元しうるものと考えられた。
臨床的観点からの成果
遠志中の生理活性成分が、1,5-AFによるAMPK活性化作用に因るものであることが判明したので、自然炎症のコントロール、糖・脂質代謝改善などの他に、フレイル、加齢、肥満、認知症など、幅広い病態(いわゆる未病)に対しても応用展開が期待される。さらに悪性腫瘍細胞の解糖系シフト、いわゆるWarburg効果の是正を介した抗ガン作用などにも応用展開が拓けてくるものと期待される。
ガイドライン等の開発
特に無
その他行政的観点からの成果
科学技術振興機構:研究成果展開事業:地域産学バリュープログラム平成29-30年度事業に「生体内希少糖:1,5-AFの安定・安全供給とその応用展開体制の確立」の研究課題で採択された。
その他のインパクト
植物と動物の代謝間の相関に関して、”allelopathy”なる概念があり、その一環として今回の成果が在ることを、平成29年度 富山大学和漢医薬学研究所:和漢薬研究の科学基盤形成事業において、「グリチルリチンによるDAMP:HMGB1アイソフォームの分別制御と抗炎症活性のスペクトラムに関する研究」の研究課題で発表した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
6件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
2件
1,5-AFの抗炎症性に関して、国内出願済み・国際出願予定
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
インフラマソーム経路阻害薬
詳細情報
分類:
特許番号: 特願 2013-156633
発明者名: 丸山征郎、野間聖
権利者名: 国立大学法人 鹿児島大学
出願年月日: 20130729
国内外の別: 国内(国際出願予定)
特許の名称
1,5-D-アンヒドロフルクトースを含むインフラマソーム経路阻害薬
詳細情報
分類:
特許番号: 特願 2015-529565
発明者名: 丸山征郎、野間聖
権利者名: 国立大学法人 鹿児島大学
出願年月日: 20140728
国内外の別: 国内(国際出願予定)
特許の名称
細胞老化抑制剤
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2016-010965
発明者名: 丸山征郎、川原幸一
権利者名: 国立大学法人 鹿児島大学、学校法人常翔学園
出願年月日: 20160122
国内外の別: 国内・国際

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Shrestha C, Ito T,Kawahara K, et al.
Saturated fatty acid palmitate induces extracellular release of histone H3: A possible mechanistic basis for high-fat diet-induced inflammation and thrombosis.
Biochem Biophys Res Commun , 437 (4) , 573-578  (2013)
10.1016/j.bbrc.2013.06.117. Epub 2013 Jul 10.
原著論文2
Sarikaphuti A,Nararatwanchai T, Hashiguchi T, et al.
Preventive effects of Morus alba L. anthocyanins on diabetes in Zucker diabetic fatty rats.
Experimental and Therapeutic Medicine , 6 (3) , 689-695  (2013)
10.3892/etm.2013.1203
原著論文3
Takenouchi K, Shrestha B, Yamakuchi M, et al.
Upregulation of non-β Cell-derived Vascular Endothelial Growth Factor A Increases Small Clusters of Insulin producing Cells in the Pancreas.
Exp Clin Endocrinol Diabetes , 122 (5) , 308-315  (2014)
10.1055/s-0034-1371811.
原著論文4
Tancharoen S, Gando S, Binita S, et al.
HMGB1 Promotes Intraoral Palatal Wound Healing through RAGE-Dependent Mechanisms.
International Journal of Molecular Sciences , 17 (11) , E1961.-  (2016)
10.3390/ijms17111961
原著論文5
Kikuchi K, Setoyama K, Kawahara KI, et al.
Edaravone, a Synthetic Free Radical Scavenger, Enhances Alteplase-Mediated Thrombolysis.
Oxid Med Cell Longev , 2017 , 6873281-  (2017)
10.1155/2017/6873281.

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
2018-05-29

収支報告書

文献番号
201307006Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
72,800,000円
(2)補助金確定額
72,800,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 5,439,100円
人件費・謝金 0円
旅費 156,580円
その他 4,320円
間接経費 1,680,000円
合計 7,280,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-05-23
更新日
-