文献情報
文献番号
201306017A
報告書区分
総括
研究課題名
種々のバリエーションを有したヒトiPS細胞由来分化誘導肝細胞の作製と毒性評価系への応用
課題番号
H25-再生-指定-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
水口 裕之(独立行政法人医薬基盤研究所 創薬基盤研究部 肝細胞分化誘導プロジェクト)
研究分担者(所属機関)
- 梅澤 明弘(独立行政法人国立成育医療研究センター 生殖・細胞医療研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
27,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
薬物誘発性肝障害(肝毒性)は、医薬品の開発中止や市販後の警告、販売中止に至る主要な有害事象である。ヒト組織の利用により毒性評価の向上が見込まれるものの、我が国においては入手が困難であり、安定供給、継続性の観点から実現は困難である。さらに、薬物代謝酵素の活性に個人差(10倍~1000倍以上)が大きいことが正確に肝毒性を評価することが困難な原因となっている。そこで本研究では、iPS 細胞技術を駆使することで個人差を反映した薬剤の肝毒性評価系の開発を行う。具体的には、①ヒト iPS 細胞から成熟肝細胞を創出する技術開発の改良を進めるとともに、②平均的な薬物代謝酵素活性を有したヒトiPS細胞由来分化誘導肝細胞の他に、薬物代謝酵素の活性が個人差の下限レベルである肝細胞や、上限レベルである肝細胞を作製する。さらに、③薬物が主病因となって発症した劇症患者由来iPS細胞を用いて肝細胞を分化誘導し、極めて稀な薬物代謝酵素の遺伝子多型を有する評価細胞を作製する。最終的には、④これらの毒性評価細胞パネルを用いた毒性評価や、酵素誘導の評価系の確立を行う。
研究方法
本研究は、研究代表者水口、研究分担者(梅澤)の計2名が遂行した。当該年度においては、ヒト iPS 細胞由来肝細胞の作製と毒性評価系の開発、および劇症患者由来iPS細胞の作製、に分けて遂行した。
結果と考察
まず、ヒトiPS細胞から成熟した分化誘導肝細胞を作製する技術改良を行った。これまでに我々はFOXA2、HNF1α遺伝子を導入することにより、ヒトiPS細胞から肝細胞への分化を促進できることを報告してきた(J. Hepatol. 57, 628-636, 2012)。その際に、これらの遺伝子を別々のAdベクターに搭載して遺伝子導入していたが、遺伝子導入による分化促進効果をさらに強めるために、FOXA2、HNF1αを共搭載したAdベクターを作製し、ヒトiPS細胞由来の分化途中の細胞に作用させた。その結果、FOXA2、HNF1αを共搭載したAdベクターは、FOXA2、HNF1αを個別に搭載したAdベクターよりも肝分化促進効果が強いことが分かった。今後は分化誘導肝細胞のさらなる成熟化を目指すために、三次元培養や共培養を実施する予定である。
次に、薬物代謝酵素活性の個人差を反映したヒトiPS細胞由来肝細胞を作製するために、ヒト初代培養肝細胞を購入し、ヒトiPS細胞の作製を試みた。その結果、山中4因子を搭載したセンダイウイルスベクターを用いて、ヒト初代培養肝細胞からヒトiPS細胞を作製することに成功した。若い継代数のヒトiPS細胞は、元の細胞の性質を引き継ぐことが知られているため、様々な継代数(継代数7から40)のヒト肝細胞由来iPS細胞の肝分化能を調べた。その結果、いずれの継代数においてもアルブミン産生能をもつ肝細胞に分化できることが確認できた。また、若い継代数のヒト肝細胞由来iPS細胞は高い肝分化能を有することを明らかにした。次年度以降は、平均的な薬物代謝酵素活性を有した肝細胞の他に、薬物代謝酵素の活性が個人差の下限レベルである肝細胞や、上限レベルである肝細胞から作製したヒトiPS細胞を肝細胞へ分化誘導し、元の初代培養肝細胞の薬物代謝活性を反映するかどうか調べる予定である。
さらに、劇症肝炎を含む小児先天性代謝異常症からiPS細胞を樹立するための倫理申請を完了し、受入準備を整えることができた。患者の臨床検体を用いる研究においては、倫理的手続きが重要である。希少疾患である小児肝疾患の患者数は少ないものの、従来までの受入実績を鑑み、当該iPS細胞の樹立を行うことは十分可能であると考えられた。
次に、薬物代謝酵素活性の個人差を反映したヒトiPS細胞由来肝細胞を作製するために、ヒト初代培養肝細胞を購入し、ヒトiPS細胞の作製を試みた。その結果、山中4因子を搭載したセンダイウイルスベクターを用いて、ヒト初代培養肝細胞からヒトiPS細胞を作製することに成功した。若い継代数のヒトiPS細胞は、元の細胞の性質を引き継ぐことが知られているため、様々な継代数(継代数7から40)のヒト肝細胞由来iPS細胞の肝分化能を調べた。その結果、いずれの継代数においてもアルブミン産生能をもつ肝細胞に分化できることが確認できた。また、若い継代数のヒト肝細胞由来iPS細胞は高い肝分化能を有することを明らかにした。次年度以降は、平均的な薬物代謝酵素活性を有した肝細胞の他に、薬物代謝酵素の活性が個人差の下限レベルである肝細胞や、上限レベルである肝細胞から作製したヒトiPS細胞を肝細胞へ分化誘導し、元の初代培養肝細胞の薬物代謝活性を反映するかどうか調べる予定である。
さらに、劇症肝炎を含む小児先天性代謝異常症からiPS細胞を樹立するための倫理申請を完了し、受入準備を整えることができた。患者の臨床検体を用いる研究においては、倫理的手続きが重要である。希少疾患である小児肝疾患の患者数は少ないものの、従来までの受入実績を鑑み、当該iPS細胞の樹立を行うことは十分可能であると考えられた。
結論
本年度は、ヒト iPS 細胞から成熟肝細胞を創出する技術開発の改良を進めた。また、ヒト初代培養肝細胞からヒトiPS細を樹立し、肝細胞への分化誘導を進めるとともに、その肝細胞機能の解析に着手した。さらに、劇症肝炎を含む小児先天性代謝異常症からiPS細胞を樹立するための倫理申請を完了した。
公開日・更新日
公開日
2015-03-03
更新日
-