南海トラフ巨大地震の被害想定に対するDMATによる急性期医療対応に関する研究

文献情報

文献番号
201305024A
報告書区分
総括
研究課題名
南海トラフ巨大地震の被害想定に対するDMATによる急性期医療対応に関する研究
課題番号
H25-特別-指定-023
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
定光 大海(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター(救命救急センター))
研究分担者(所属機関)
  • 平尾 智広(香川大学医学部公衆衛生学)
  • 小井土 雄一(国立病院機構災害医療センター)
  • 阿南 英明(藤沢市民病院救命救急センター)
  • 中川  隆(愛知医科大学高度救命救急センター)
  • 中山 伸一(兵庫県災害医療センター)
  • 本間 正人(鳥取大学医学部 器官制御外科学 救急災害医学分野)
  • 三村 誠二(徳島県立中央病院救命救急センター)
  • 高山 隼人(国立病院機構長崎医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
13,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 中央防災会議(防災対策推進検討会議)の南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ(内閣府)による南海トラフ巨大地震の被害想定等が平成24年8月から25年5月までにとりまとめられた。この報告書で明らかにされた被害想定により、超急性期に医療提供の対象となる人的被害および病院被害の実態を抽出し、医療支援の中心となる災害拠点病院の被災状況を俯瞰できるデータベースを作成し、それを地図上に可視化できるソフトを開発する。さらにデータベースに基づいてDMAT支援のチーム数を決める係数を設定し、発災後24時間に必要なDMAT数を算出する。また、被害が予測されている6つのブロックごとに都府県の被害想定を踏まえて重症傷病者や病院避難が必要な患者数を積算し、広域医療搬送に対応するDMATの必要数の算出を試みる。以上より、被災地外からのDMAT派遣による医療支援活動の初動に必要なDMAT数を試算することを目的とする。
研究方法
 南海トラフ巨大地震で想定される人的被害の実態と災害拠点病院の被災についてデータベース化し、さまざまな条件で医療機関を抽出し、これら医療機関の地震、津波のケースごとの被災の有無、被災医療機関の数、被災医療機関の病床数をすみやかに表示するデータシステムを開発し、地図状に可視化することで被災者数、死傷者数、さらに災害拠点病院の想定被災状況を俯瞰的に把握する。収集した災害拠点病院のデータには、1.病院名標記がデータベースによって異なる。2.病院が廃止、統合されている。3.住所表記が同一データベースでも統一されていない。4.データベース間で内容が異なっている。5.電話番号が欠落している場合や分院の電話番号が本院となっている。などの不具合があり、これを手作業で修正し、精度を担保した。そのうえで全災害拠点病院の津波と震度の影響をデータベース化し、被害想定を行った。さらに、日本DMAT活動要領に定められた地方ブロックのうち南海トラフ巨大地震で被災が想定される6ブロック(関東、中部、近畿、中国、四国、九州・沖縄ブロック)別に最大想定被害への対応に必要なDMAT数の算出を試みた。
結果と考察
 被災が予想される位置にある災害拠点病院は662病院中472病院であった。そのうち標高が予測最大津波高を下回る、すなわち浸水が想定されるのは70病院で、全災害拠点病院の11%であった。入院設備を持つ医療機関のうち最大津波あるいは地震で機能維持が困難になる可能性があるのは13,461医療機関中3,387医療機関(25%)で、病床数は1,244,023床中257,897床(21%)と概算された。被災地の最大震度および最大津波を想定した被害状況を俯瞰し、現実的な支援を考慮した災害拠点病院へのDMAT派遣必要数は、821チームとなり、これにSCUや参集拠点に対応するDMAT数571を加えるとDMATの派遣は初動に1,392チームが必要になると試算した。
 南海トラフ巨大地震で想定される被害は甚大であり、これに対応するには国家的規模の長期的な戦略を持った災害医療体制の整備が求められる。発災直後からのDMAT活動は災害医療の先鞭をつける大きな役割があり、地域特性を理解した被災地のDMATと、それを支える全国的支援体制が不可欠である。総力戦を想定した、行政機関、消防、警察、自衛隊等との連携も重要となる。関係機関に共通して機能するIncident Command System(ICS)の導入も極めて重要な喫緊の検討課題となる。
結論
 内閣府の南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループが報告した被害想定から人的被害、病院被害の実態を抽出し、さらに災害拠点病院の標高および位置情報と連結して地図上に可視化できる精度の高いデータベースを作成した。
データベース上で明らかになった災害拠点病院の被害状況に基づき、DMAT支援のチーム数を決める係数を設定し、発災後24時間に必要なDMAT数の試算を行った。その結果、広域災害時の医療拠点である災害拠点病院への支援に必要なDMAT数は821と試算された。これにSCUや参集拠点に対応するDMAT数571を加えると初動に1,392チームが必要になる。
現在のDMAT数では対応に限界があり、養成数の拡大を図ることを含め、今後も継続した隊員養成が求められる。また、現状の養成チーム数で対応するには、既存の広域医療搬送を核とした医療提供にとらわれない活動戦略も検討の余地がある。派遣先や活動内容についても優先性を考慮した戦略が必要となる。

公開日・更新日

公開日
2015-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201305024C

成果

専門的・学術的観点からの成果
南海トラフ巨大地震発災時の災害拠点病院の被害想定を可視化するデータベースを開発した。発災時の地震および津波情報を入力することで災害拠点病院の被害状況を直ちに推定できるため、リアルタイムで病院支援活動に必要な情報を提供できる。本研究成果は広域災害発災時の医療支援活動に先鞭をつけるDMAT活動の策定に有用なツールになる。また、実被害に対する活動検証を可能にするデータベースにもなる。
臨床的観点からの成果
南海トラフ巨大地震発災超急性期に被災都府県で医療提供の中心となる災害拠点病院の被災状況を把握し、被災地外からのDMAT派遣による災害拠点病院支援、さらに重症傷病者の域外への広域医療搬送等に必要なDMAT数を算出した。研究成果は南海トラフ巨大地震で被害が想定されている関東、中部、近畿、中国、四国、九州・沖縄の6ブロックでの初期災害医療体制構築や域外からのDMAT派遣戦略を策定するためのデータとなるので、その社会的意義は大きい。
ガイドライン等の開発
今回作成したデータベースに基づいて可視化される被災情報は、リアルタイムで災害支援を指示する側にも派遣されるDMAT側にも提供できるので、行動の目標や指針とすることができる。
その他行政的観点からの成果
地震発災後短時間で得られる精度の高い情報には、各地の震度分布と予測される津波高がある。この2つの情報とあらかじめ位置及び標高情報が得られている災害拠点病院のデータを組み合わせればDMATによる災害支援活動策定の根拠として蓋然性が高いものになる。本成果物は、災害時DMAT派遣を決定する行政機関に被害の想定に対応するDMAT派遣数の算定と派遣を決定するための根拠を提供できる。
本研究結果は平成26年度日本DMAT検討委員会で議論された隊員養成の方向性の検討資料となった。
その他のインパクト
南海トラフ巨大地震を想定した各ブロックでのDMAT研修、災害研修に利用できる。新たに開発したデータベースは災害拠点病院の位置情報と診療機能を地図上で可視化でき、都道府県の枠を超えた広域の情報を得ることができる。データベースを応用すれば想定される火災や爆発等の把握もできる。災害拠点病院自らも広域の被害状況を把握でき、病院避難や医療支援計画を策定する根拠を得ることができる。
本研究結果の一部は2015年2月23日の朝日新聞一面に掲載された。

発表件数

原著論文(和文)
2件
岡垣篤彦、定光大海:医療情報学2015:35;3- 17.医療情報学2017:37;55-67.
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
1件
定光大海、小井土雄一:IRYO 2018:72;13-15.
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
11件
第110回近畿救急医学研究会,第42,44回,45会日本救急医学会総会,第20,21,22回集団災害医学会(4),第20回医療情報学会,第70回国病学会
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件
FileMaker カンファレンスin大阪,第146回阪大病院フォーラム,第68回 国立大学病院看護部長会議,四国防災・危機管理特別プログラム2017

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
岡垣篤彦、定光大海
GIS連携アプリケーションの作成による南海トラフ巨大地震の医療機関の被害想定作成およびDMATによる急性期医療対応計画策定
医療情報学 , 35 (1) , 3-17  (2015)
原著論文2
岡垣篤彦、定光大海
首都直下地震におけるDMAT 派遣支援アプリケーションの作成および医療機関の被災予測
医療情報学 , 37 (5) , 55-67  (2017)

公開日・更新日

公開日
2015-04-30
更新日
2018-05-25

収支報告書

文献番号
201305024Z