ヒト多能性幹細胞試験バッテリーによる化学物質の発達期影響予測法に関する研究

文献情報

文献番号
201236017A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト多能性幹細胞試験バッテリーによる化学物質の発達期影響予測法に関する研究
課題番号
H24-化学-一般-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
大迫 誠一郎(東京大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 曽根秀子(国立環境研究所 環境リスク研究センター)
  • 藤渕航(京都大学 iPS細胞研究所 細胞情報科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
10,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒト多能性幹細胞(ES/iPS細胞など)を利用した応用研究は、我が国が重点的に推進すべき科学技術分野となった。臨床応用にはまだ多くの技術上の課題があるが、創薬や毒性試験への応用は早期に実現できるものとして期待されている。
本研究では、複数の標的組織細胞の分化影響を簡便にモニタリングし、上記の評価手法に応用できる細胞開発の目的のために、神経系細胞の分化培養に加えて、肝細胞分化培養系を新たに導入し、同一環境、同一曝露系による比較解析を行う。使用する全てのヒトES細胞ならびにiPS細胞を遺伝子改変でハイスループットイメージング用に加工し、複数のドナー株ならびに系統株を同一線上に配置した曝露試験を行う。
研究方法
サブテーマ1)薬物代謝酵素遺伝子レポーターを導入したヒトES細胞株の樹立
ダイオキシン類のヒトの各組織細胞への曝露影響を可視化できるよう、標的遺伝子の一つであるCyp1a1遺伝子の活性化をリアルタイムモニタリングできるES細胞株の樹立を試みた。マウスCyp1a1遺伝子プロモーターでEGFPをドライブさせたコンストラクトをヒトES細胞(KhES1)へリポフェクションにより遺伝子導入し耐性細胞を得た。
サブテーマ2)ハイスループットアッセイに最適化したヒト多能性細胞由来神経分化細胞の構築
ハイスループットアッセイに最適化したヒト多能性細胞由来神経分化細胞の構築するために、MAP2プロモーターで2種のレポータージーンをドライブしたプラスミド(MAP2- MLNCG)を構築し、そのプラスミドの有効性を検討した。ヒトH9株ES細胞由来の神経前駆細胞(hPNC)にMAP2-MLNCGを導入し、神経細胞分化後に発光活性および蛍光イメージングシグナルを測定した。
サブテーマ3)ヒト多能性幹細胞バッテリー毒性試験における遺伝子発現情報の抽出に関する研究
複数の株種からなるES細胞並びにiPS細胞に同一環境、同一曝露系を用いた一連の化合物毒性試験技術が確立されたことを想定した場合の遺伝子発現情報マイニング技術について研究を行った。
結果と考察
サブテーマ1)
樹立され他ヒトES細胞はTCDDの用量依存的にEGFPの蛍光強度が増加することが示され、胚様体の状態でのTCDD感受性が高いことがわかり、野生型で観察した結果と類似していた。
サブテーマ2)
作成したコンストラクトによる遺伝子導入で分化に伴う若干の蛍光イメージングシグナル指標の上昇が認められた。この結果より、MAP2-MLNCG-hPNC神経細胞株構築の道筋ができた。
サブテーマ3)
1.新しい遺伝子発現順位に基づくロバストな主成分空間学習法を開発し、従来よりもクラスタリング精度を向上させた。2.新型の遺伝子ネットワーク予測法である構造方程式モデルを用いた毒性ネットワーク推定を行った。さらに、毒性試験のハイスループット能力を上げるため、多数の株種を一度に効率的に遺伝子発現解析できる技術としてDNAバーコードを用いたマルチプレックスシングルセルRNA-seq法の検討を行い、例としてiPS細胞研究所で入手可能な5種の幹細胞(201B7, 454C2, 253G1, KhES1, KhES3)を15個ずつ用いた遺伝子発現解析をわずか1回のシーケンサーランで測定可能にした。
結論
サブテーマ1) 
今回作出されたCyp1a1でドライブされるヒトES細胞の樹立は世界的にも初めてである。今後、内胚葉系あるいは外胚葉系に分化培養した際の挙動を詳細に検討する。
サブテーマ2)
作成したコンストラクトMAP2-MLNCG-hPNC神経細胞株構築の道筋ができた。
サブテーマ3) 
前年度までのES細胞毒性試験システムによる研究成果を踏まえて、さらにハイスループットで毒性を予測するシステムを構築することが本プロジェクトの課題である。今回の高度な情報解析技術及び次世代シーケンシング技術はこの難題を超える可能性を示唆したものであり、今後の研究の発展が期待できる。

公開日・更新日

公開日
2013-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201236017Z