化学物質の子どもへの影響評価に関する研究‐発生・発達期の脳や免疫系が示す高感受性の責任標的の同定と、それに基づく試験スキームの最適化

文献情報

文献番号
201236010A
報告書区分
総括
研究課題名
化学物質の子どもへの影響評価に関する研究‐発生・発達期の脳や免疫系が示す高感受性の責任標的の同定と、それに基づく試験スキームの最適化
課題番号
H23-化学-一般-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
長尾 哲二(近畿大学 理工学部・生命科学科)
研究分担者(所属機関)
  • 菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
  • 渡邉 肇(大阪大学大学院 工学研究科)
  • 林 良夫(徳島大学大学院 ヘルスバイオサイエンス研究部)
  • 井口 泰泉(基礎生物学研究所 分子環境生物学研究部門)
  • 太田 亮(財団法人食品薬品安全センター 秦野研究所 毒性部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
21,250,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「厚生労働省内分泌かく乱化学物質試験スキーム」の網羅性の拡充と確定試験法の確立を目的とする。このために、①発生・発達期の脳及び免疫系に対する低用量曝露により成長後のこれらの臓器に誘発される「遅発影響」、及び、②その分子標的としてのDNA修飾機構及びmRNA修飾機構を検討する。①からは臓器~細胞レベルの遅発影響の同定とその影響発現メカニズムを明らかにして評価系を確立し、②からは発現メカニズムに共通する分子基盤を明らかにする。また、③「齧歯類一生涯試験法」の検証を並行し、OECD「延長一世代試験」の完成を促す。
研究方法
低用量曝露の標的臓器への影響
1. 細胞ラベル法を用いて神経細胞の細胞周期異常を検出する。またラベルされた神経細胞の大脳皮質成熟後の数や位置を解析して、低用量化学物質の胎児期曝露によるニューロン新生及び神経細胞移動の障害による皮質層構造における微小異常などを胎児期あるいは新生児期での検出のみならず成熟後の遅発影響を検出する系を確立する。
2. 神経軸索内微小管結合蛋白tauとβ-ガラクトシダーゼを融合させて、ERα発現神経細胞の樹状突起までを可視化したtau融合エストロジェン受容体レポーターマウスを作成する。
3. 周産期におけるダイオキシン受容体(AhR)を介した免疫反応を中心に検討し、標的臓器における組織異常の同定とそれに至る分子機構の解明により免疫系への低用量遅発影響の評価系の完成を目指す。

遅発影響の標的分子とその分子基盤
4. 女性生殖器に対する性ホルモン様物質の増殖作用についてWntシグナルとのクロストークをマウス表現型解析から明らかにする。
5. Non-coding RNAのMalat-1発現機構を調べるためプロモーター解析用ベクター構築を行う。またOECD関連会合に出席し、低用量作用、遅発影響あるいは評価試験法を含む内分泌かく乱問題の情報交換を行う。

齧歯類一生涯試験法の検証
6. 「齧歯類一生涯試験法」にビスフェノールA(BPA)及びジエチルスチルベストロール(DES)をマウス新生児に適用して低用量影響を検索する。
結果と考察
1. 低用量BPAは神経幹/前駆細胞の分化するタイミングを早めることで神経新生を促進すると同時に細胞周期が短くなり、その結果として増殖能が低下することを明らかにした。またBPAはマウス神経細胞移動に影響を及ぼし、皮質の層構築を乱すことを認めた。
2. 構築したプラスミドをマウス受精卵にインジェクションし児を得た。トランスジーンが生殖系列に導入され、ERα発現部位に可視化用マーカー遺伝子の共発現を確認した。
3. 妊娠期には胸腺細胞のAhRを介したT細胞分化制御機構が存在し、さらにアロマターゼのノックアウトマウスの胸腺細胞におけるAhR mRNA発現の亢進からアロマターゼ及び性ホルモンとAhRシグナルがリンクしていることが示唆された。また妊娠期の胸腺組織でのT細胞分化に関与する遺伝子発現変動がTCDD曝露により低下したことから、TCDDがT細胞分化に重要な遺伝子群の発現に影響していることが示唆された。
4. 雌性生殖管におけるホルモン応答システムの破綻の解析では、β-カテニン活性化マウスの膣上皮細胞に女性ホルモン作用非依存の細胞増殖が誘導され、さらに新生児期DES投与マウスの膣上皮基底細胞にもβ-カテニンの蓄積を認めたことから、未成熟期の、ホルモン作用を有する化学物質の曝露によるホルモン応答システムの破綻にWnt/β-カテニン経路が関与していることが示唆された。
5. 低濃度BPAにより発現増加がみられたnon-coding RNAのMalat-1を中心に解析し、マウス胎児脳において高発現を確認した。Malat-1遺伝子の機能解析のためのノックアウトマウスが作成できればBPAによるMalat-1発現増加の生物学的、毒性学的意義が明らかになり、この遺伝子が遅発影響の分子標的の1つであるか否かが結論できると考えられる。
6. 齧歯類一生涯試験では性成熟ならびに性周期に遅発影響はみられなかった。BPA投与群のみにT細胞分化への影響が示唆された。曝露マウスの成熟が進行し抗体産生能の低下などがみられれば、低用量域での内分泌かく乱作用の指標として、免疫学的検査が有効な手段となり得る。
結論
本研究による生命科学と新評価法開発の成果から、周産期低用量曝露が引き起こす高次生命維持系の組織構築かく乱による不可逆的遅発影響を、受容体原性毒性或いはシグナル毒性として、体系的、総合的、かつGLPガイドライン化が可能な評価系構築が見込まれる。

公開日・更新日

公開日
2013-05-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201236010Z