家庭用品から放散される揮発性有機化合物の気道刺激性及び感作性を指標とするリスク評価

文献情報

文献番号
201236007A
報告書区分
総括
研究課題名
家庭用品から放散される揮発性有機化合物の気道刺激性及び感作性を指標とするリスク評価
課題番号
H22-化学-一般-007
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
香川 聡子(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
研究分担者(所属機関)
  • 五十嵐 良明(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
  • 熊谷 嘉人(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
  • 神野 透人(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
14,040,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、シックハウス症候群やアレルギー性鼻炎、気管支喘息の発症・増悪要因と考えられる室内環境化学物質として、特に家庭用品から放散される様々な揮発性有機化合物の気道刺激性及び気道感作性を明らかにするとともに、家庭用品からの放散速度を基に算出した推計暴露量を考慮に入れて生活環境中での健康リスクの蓋然性を判定することにより、指針値策定等のリスク管理が必要と考えられる室内空気中の揮発性有機化合物を特定することを目的とする。
研究方法
気道刺激性のin vitro評価法として、化学物質刺激等の侵害受容に関与するTransient Receptor Potential (TRP) イオンチャネルの活性化を指標として、家庭用品から放散して室内を汚染する可能性のある化合物として、可塑剤・フタル酸ジエステル類18化合物及びその加水分解物であるフタル酸モノエステル類9化合物とその構造類似化合物2化合物、また、殺菌・防腐剤イソチアゾリン誘導体5化合物、計34化合物を評価した。皮膚感作性に関する研究では、アジピン酸エステル類7化合物の皮膚感作性をLLNA:DA及びh-CLAT法で評価した。分子毒性学的な研究では、大気汚染物質である1,4-ナフトキノン (1,4-NQ) に対する抗体を作製し、細胞内標的タンパク質を探索し毒性防御の細胞応答システムについて検討した。化学物質の放散に関する研究では、家庭用品からの室内環境中へガス態及び付着態として放散される準揮発性有機化合物 (SVOC) の定量的評価手法としてMicro-Chamber/Thermal Extractor (micro-CTE) による放散試験法を確立して大形家庭用品からの放散化学物質について検討した。
結果と考察
気道刺激性のin vitro評価結果として、可塑剤として汎用されるBis(2-ethylhexyl) phthalateの加水分解生成物で実際にハウスダスト中からも検出されるMonoethylhexyl phthalateがTRPA1の強力な活性化物質であることが明らかになった。イソチアゾリン誘導体については今回評価した5化合物すべてがTRPA1活性化能を有すること、また、「布団冷却パッド」の使用に伴うアレルギー性皮膚炎発症の原因物質である可能性が指摘された2-n-Octyl-4-isothiazolin-3-oneはTRPV1に対しても活性化を引き起こすことを明らかにした。また、皮膚感作性に関する研究では、フタル酸エステル類の代替可塑剤として使用されるアジピン酸エステル類については感作性強度が弱いことが示唆された。分子毒性学的な研究では、1,4-NQの細胞内標的タンパク質として、HSP90およびHSP70を含む複数のタンパク質を同定することに成功し、毒性防御の細胞応答システムとして、HSP90-HSF1系が重要な役割を果たしていることを明らかにした。カーペット12製品について放散化学物質を評価した結果、TXIBとTributyl phosphateが主にガス態として、Tris(2-chloroisopropyl) phosphateとBis(2-ethylhexyl) phthalateについては大部分が付着態として製品から放散されることが明らかになった。本研究で確立したSVOCの放散試験法によって、ガス態として室内環境中に放散されてそのままの状態で、あるいは浮遊粒子状物質に吸着した状態で経気道暴露される可能性の高いFactorと、製品表面や近傍へ移行した後にHand-to-Mouth行動やハウスダストの摂食による経口暴露、並びに直接的な摂食による経皮暴露の可能性が高いFactorを分別推計し、それぞれの経路別暴露シナリオを精緻化することが可能となる。また、カーペットから放散することが明らかになったTXIB、Tributyl phosphate、Tris(2-chloroisopropyl) phosphateは、本研究初年度にTRPイオンチャネルの活性化を引き起こすことが判明しており、家庭用品から放散するこれら化合物が、TRPイオンチャネルの活性化を介して気道の刺激を引き起こす可能性が考えられる。
結論
家庭用品から放散され、実際に室内環境中で検出される様々な化合物が、TRPV1及びTRPA1の活性化を介して気道の刺激を引き起こす可能性が示された。これら多種多様な化合物が同時に同一室内を汚染している状況は容易に想定できる。その場合には、TRPV1又はTRPA1をターゲットとして複数の化合物が同時に影響を及ぼし、気道刺激を相加的及び相乗的に引き起こす可能性も考えられる。

公開日・更新日

公開日
2013-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201236007B
報告書区分
総合
研究課題名
家庭用品から放散される揮発性有機化合物の気道刺激性及び感作性を指標とするリスク評価
課題番号
H22-化学-一般-007
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
香川 聡子(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
研究分担者(所属機関)
  • 五十嵐 良明(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部 )
  • 神野 透人(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部 )
  • 熊谷 嘉人(筑波大学人間総合科学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、シックハウス症候群やアレルギー性鼻炎、気管支喘息の発症・増悪要因と考えられる室内環境化学物質として、特に家庭用品から放散される様々な揮発性有機化合物の気道刺激性及び気道感作性を明らかにするとともに、家庭用品からの放散速度を基に算出した推計暴露量を考慮に入れて生活環境中での健康リスクの蓋然性を判定することにより、指針値策定等のリスク管理が必要と考えられる室内空気中の揮発性有機化合物を特定することを目的とする。
研究方法
気道刺激性のin vitro評価法として、化学物質刺激等の侵害受容に関与するTransient Receptor Potential (TRP) イオンチャネルの活性化を指標として、家庭用品から放散される可能性のある化学物質及び室内空気中に存在することが報告されている化学物質を含む225化合物を評価した。皮膚感作性に関する研究では、LLNA:DA法及びh-CLAT法を用いて評価した。分子毒性学的な研究では、1,2-ナフトキノン (1,2-NQ) 、1,4-ナフトキノン (1,4-NQ) に対する抗体を作製し、それぞれの細胞内標的分子を探索して毒性防御のメカニズムを解析した。化学物質の放散に関する研究では、一般家庭室内における使用頻度や容積から、室内環境への負荷の大きい家庭用品としてカーテンやカーペットを対象として超小形チャンバーを用いて評価した。
結果と考察
気道刺激性のin vitro評価では、3年間で評価した225化合物のうち、50化合物がTRPV1を、72化合物がTRPA1を活性化することを明らかにした。なかでも家庭用品から放散することが確認されたButyl acrylate、溶剤として広く使用されシックハウス症候群との因果関係も指摘されている2-Ethyl-1-hexanolやTexanolをはじめ、可塑剤フタル酸エステル類の加水分解物でハウスダスト中にも存在するMonoethylhexyl phthalateが低い濃度でTRPA1を活性化することが明らかになった。実際に室内環境中に存在する消毒副生成物や微生物由来揮発性有機化合物もTRPイオンチャネルを活性化することが判明し、これらが、相加・相乗的に感覚神経あるいは気道の刺激を引き起こす可能性がある。皮膚感作性に関する研究結果より、皮膚感作性の観点からリスク管理の必要性の高い順に、フマル酸エステルとマレイン酸エステル>アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル>>アジピン酸エステルであることが示唆された。分子毒性学的な研究では、1,2-NQについてはNrf2-Keap1系が、1,4-NQについてはHSP90-HSF1系が毒性防御のメカニズムに重要な役割を果たしていることを明らかにした。化学物質の放散に関する研究では、CyclohexanoneやToluene、2-Ethylhexyl acrylate、2-Ethyl-hexanol、TXIBなど、我々が実施した室内空気の全国調査において検出される様々な化学物質がカーテンやカーペット等の家庭用品から放散されることが明らかになった。評価した製品のなかには、その使用によって室内空気質総揮発性有機化合物の暫定目標値を超える室内汚染が引き起こされる可能性や、シックハウス症候群との因果関係が指摘されている2-Ethyl-1-hexanolが評価したカーペットから高頻度に放散されることが判明した。さらに、今後、ハウスダスト等を介した暴露が問題となるSVOCについても、Tris(2-chloroisopropyl) phosphateやBis(2-ethylhexyl) phthalateの放散を定量的に評価できることが明らかになった。
結論
家庭用品から放散され、実際に室内環境中で検出される様々な化合物が、TRPV1及びTRPA1の活性化を介して気道の刺激を引き起こす可能性が示された。これら多種多様な化合物が同時に同一室内を汚染している状況は容易に想定できる。その場合には、TRPV1又はTRPA1をターゲットとして複数の化合物が同時に影響を及ぼし、気道刺激を相加的及び相乗的に引き起こす可能性も考えられる。 本研究によって得られた結果は、指針値の策定等によるリスク管理が必要な室内空気中の揮発性有機化合物に関するプライオリティーリストを作成する上で、また、未だ十分に解明されていないシックハウス症候群や本態性多種化学物質過敏状態の発症メカニズムを明らかにする上でも極めて重要な情報であると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2013-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201236007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
家庭用品から放散される可能性のある、あるいは室内環境中に存在する化学物質225物質について、気道刺激性のin vitro評価として、TRPイオンチャネルの活性化を指標として評価した結果、溶剤として広く使用されシックハウス症候群との因果関係も指摘されている2-Ethyl-1-hexanolをはじめ、香料として使用される脂肪族アルコール類や、溶剤、可塑剤難燃剤など、本研究で実際に家庭用品から放散されることが確認された様々な物質がTRPA1を活性化することが明らかとなった。
臨床的観点からの成果
本研究成果は、臨床的観点から直接的な効果が期待出来るものではないが、近年、TRPイオンチャネルが気道や皮膚の慢性炎症疾患において極めて重要な役割を果たすことが明らかになりつつあり、本研究で室内環境中に存在する化学物質、特に、シックハウス症候群との因果関係が指摘されている化学物質を含む様々な化学物質がTRPイオンチャネルを活性化することが明らかになり、シックハウス症候群や本態性多種化学物質過敏状態の発症メカニズムを明らかにする上でも極めて重要な情報であると考えられる。
ガイドライン等の開発
現時点では該当なし
その他行政的観点からの成果
本研究によって、家庭用品から放散される化学物質、あるいは実際に室内空気中に存在する様々な化学物質がTRPイオンチャネルを介した感覚神経あるいは気道の刺激を引き起こす可能性が明らかとなり、室内濃度指針値の策定等によるリスク管理が必要な室内空気中の揮発性有機化合物に関するプライオリティーリストを作成する上で、重要な情報であると考えられる。
その他のインパクト
現時点では該当なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
7件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
33件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ohkawara, S., Tanaka-Kagawa, T., Furukawa, Y., et al.,
Activation of the Human Transient Receptor Potential Vanilloid Subtype 1 by Essential Oils.
Biol. Pharm. Bull. , 33 (8) , 1434-1437  (2010)
bpb33.1434
原著論文2
Ohkawara, S., Tanaka-Kagawa, T., Furukawa, Y., et al.
Development of a SYBR Green Real-time Polymerase Chain Reaction Assay for Quantitative Detection of Human N-methyl-D-aspartate Receptors Subtype 1 Splice Variants.
J. Health Sci. , 56 (5) , 527-533  (2010)
jhs.56.527
原著論文3
Miura, T. and Kumagai, Y.
Immunochemical method to detect proteins that undergo selective modification by 1,2-naphthoquinone derived from naphthalene through metabolic activation.
J. Toxicol. Sci. , 35 , 843-852  (2010)
jts.35.843
原著論文4
Miura, T., Shinkai, Y., Jiang, HY., et al.
Initial response and cellular protection through the Keap1/Nrf2 system during exposure of primary mouse hepatocytes to 1,2-naphthoquinone.
Chem. Res. Toxicol. , 24 (4) , 559-567  (2011)
tx100427p
原著論文5
Takayama, N., Iwamoto, N., Sumi, D., et al.
Peroxiredoxin 6 is a molecular target for 1,2-naphthoquinone, an atmospheric electrophile, in human pulmonary epithelial A549 cells.
J. Toxicol. Sci. , 36 (6) , 817-821  (2011)
jts.36.817
原著論文6
Ohkawara, S., Tanaka-Kagawa, T., Furukawa, Y., et al.
Methylglyoxal ativates the human transient receptor potential ankyrin 1 channel.
J. Toxicol. Sci. , 37 (4) , 831-835  (2012)
jts.37.831
原著論文7
Hirose, R., Miura, T., Sha, R., et al.
A method for detecting covalent modification of sensor proteins associated with 1,4-naphthoquinone-induced activation of electrophilic signal transduction pathways.
J. Toxicol. Sci. , 37 (5) , 891-898  (2012)
jts.37.891

公開日・更新日

公開日
2016-06-13
更新日
-

収支報告書

文献番号
201236007Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
14,040,000円
(2)補助金確定額
14,040,833円
差引額 [(1)-(2)]
-833円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 9,144,723円
人件費・謝金 508,200円
旅費 418,200円
その他 3,969,710円
間接経費 0円
合計 14,040,833円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2016-06-13
更新日
-