革新的医療機器開発を加速する規制環境整備に関する研究

文献情報

文献番号
201235049A
報告書区分
総括
研究課題名
革新的医療機器開発を加速する規制環境整備に関する研究
課題番号
H24-医薬-指定-018
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
松岡 厚子(国立医薬品食品衛生研究所 医療機器部)
研究分担者(所属機関)
  • 配島 由二(国立医薬品食品衛生研究所 医療機器部)
  • 宮島 敦子(国立医薬品食品衛生研究所 医療機器部)
  • 中岡 竜介(国立医薬品食品衛生研究所 医療機器部)
  • 伊佐間 和郎(国立医薬品食品衛生研究所 医療機器部)
  • 澤田 留美(国立医薬品食品衛生研究所 医療機器部)
  • 加藤 玲子(国立医薬品食品衛生研究所 医療機器部)
  • 迫田 秀行(国立医薬品食品衛生研究所 医療機器部)
  • 植松 美幸(国立医薬品食品衛生研究所 医療機器部)
  • 石原 一彦(東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻)
  • 石川 格(東洋大学計算力学研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
28,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
循環器系医療機器の基本的特性として血液との接触があり、特に埋植医療機器では、長期間血液凝固、血栓形成を起こさないことが要求される。血液適合性の評価は血栓形成、血液凝固、血小板、溶血性及び補体系について実施されるが、その試験法は国際的にも整備は不十分で、ヒト血液を使用する試験法もあり、代替法の開発が望まれている。本研究では、医療機器開発を加速する規制環境整備の一環として、新技術を用いた新しい血液適合性評価手法の開発を目標とする。
研究方法
材料として、チタン、PSF/PVPポリマー、MPCポリマー、及びPMEA/PHEMA共重合体を用い、評価項目として、材料と細胞の界面で観察される事象、すなわち、材料表面近傍の水和状態、材料吸着イオン、タンパク質及びアパタイト、並びに材料上で培養した細胞の遺伝子発現解析を行った。
結果と考察
1.プロテオミクス解析を利用した医用材料の生体適合性・機能評価
血液透析器の中空糸材料であるPSF/PVPポリマー及びPMEA/PHEMA共重合体へのヒト血漿タンパク質の吸着挙動解析から、内因性血液凝固活性化リガンドとしてVTNC及びFINC、補体・補助因子としてClr等、血液凝固因子としてFA7等、その他としてPLD5とGPX3を血液適合性マーカ候補とした。VTNCはすべての材料上で濃縮されたが、良好な血液適合性を示すPMEAへの吸着はその他の表面と比較して低い傾向にあった。PLD5とGPX3はPMEA以外のすべての材料上で濃縮されたことから、これら3種のタンパク質は血液適合性マーカとして利用できる可能性が高いと考えられた。

2.化学処理を施したチタン表面特性解析及びその上で培養したヒト間葉系幹細胞(hMSC)の遺伝子発現解析
チタン表面をアルカリ処理後、CaCl2(1)又はCa(OH)2(2)を用いてカルシウム導入を試みた。その結果、擬似体液中でのアパタイト形成能及びカルシウム、マグネシウム及びリンの試料表面への吸着量は、アルカリ処理群、(1)群、(2)群の順に高くなり、初期リン酸イオンの吸着速度はアパタイト形成能と相関していた。また、(2)群では、チタン酸カルシウム様の表面構造が形成されていた。一方、hMSCの増殖及び遺伝子発現を検討した結果、アルカリ処理群、(1)群、(2)群の順にhMSCの増殖は低下し、逆に、オステオポンチン遺伝子発現は上昇した。免疫染色により(2)群では、明らかにオステオカルシンタンパク質が観察され、hMSCの骨への分化誘導が示唆された。本研究では分化誘導培地ではなく増殖培地を用いているが、カルシウム導入したチタンが、通常の生体環境でもhMSCを骨へ分化させる傾向があることを強く示唆している。そのメカニズムは、骨分化誘導時に特徴的に観察されるBMP2、Cox2、PTHLHの発現亢進が認められたことから、noncanonicalBMPシグナル伝達経路によることが判明した。材料のアパタイト形成能を細胞の骨分化傾向の指標とできる可能性が示唆された。

3.材料表面の水和状態からの血液適合性の予測
材料表面近傍の水和状態、特に中間水(凝固点より低い温度で凍る水)の有無は材料の血液適合性との相関が報告されている。本研究ではポリマー表面近傍の水和状態を、示差走査熱量計及び核磁気共鳴装置(NMR)で実測する研究と、分子動力学的シミュレーションで推定する研究とを実施した。双性イオン性及び非イオン性ポリマーブラシ表面に加えて、アニオン性及びカチオン性ポリマーブラシ表面を構築し、NMRでその表面近傍の水分子運動性を評価した。イオン性ポリマーブラシ表面近傍の水分子の自己拡散係数は、双性イオン性及び非イオン性ポリマーブラシ表面周辺と比較して小さい値となった。つまり、イオン性ポリマーブラシ表面近傍の水分子はその運動性が非常に制限されていることがわかった。これらの表面では、タンパク質との直接的な相互作用や吸着量が大きく、水分子の運動性がこれらの特性に影響を与えていることが示唆された。一方、PMEAについて、動径分布関数により材料表面近傍の水の存在確率と運動性を評価した。運動性が低い水はエステル結合のカルボニル基周辺に、運動性が高い水(中間水)はメトキシ基の酸素原子周辺に存在すると推定された。
結論
上記指標中最も期待される評価指標は、シミュレーションによる材料近傍水和状態の測定である。この手法では、材料が実際になくても、シミュレーションで材料を合成することによってその表面近傍の水和状態を測定し、中間水の有無を推定することができる。血液適合性に優れた材料の設計・開発の時間を大幅に短縮できることが期待される。今後、組成比の異なるPMEA/PHEMA共重合体を共通材料として新規評価マーカ間の相関を確認し、より安定したマーカを選択する。

公開日・更新日

公開日
2018-06-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201235049Z