グリシドールおよび3‐MCPDの脂肪酸エステルの乳腺発がん修飾作用に関する研究

文献情報

文献番号
201234032A
報告書区分
総括
研究課題名
グリシドールおよび3‐MCPDの脂肪酸エステルの乳腺発がん修飾作用に関する研究
課題番号
H23-食品-若手-018
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
チョウ ヨンマン(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
グリシドール脂肪酸エステル(GEs)は、食用油の精製・脱臭過程で形成される副産物であるが、その毒性や体内動態は明確ではなく、生体内で加水分解され、遺伝毒性発がん物質であるグリシドールに変換される可能性がある。3-クロロ-1,2-プロパンジオール(3-MCPD) 脂肪酸エステル(3-MCPDEs)も食用油の精製・脱臭過程で形成される副産物であるが、その毒性データは充分に得られていない。一方、その加水分解産物である3-MCPDは非遺伝毒性発がん物質で、GEsが3-MCPDの前駆物質となる可能性や3-MCPDがグリシドールに代謝される可能性も指摘されている。
本研究では、グリシドール脂肪酸エステル(GEs)及び3-クロロ-1,2-プロパンジオール(3-MCPD)脂肪酸エステル(3-MCPDEs)の乳腺発がん修飾作用の解析を目的としている。N-methyl-N-nitrosourea(MNU)誘発ラット乳腺発がんモデルを用いて、24年度には3-MCPDEsについて解析を行った。
研究方法
7週齢の雌性SDラット1群20匹に、MNU(50 mg/kg 体重)の単回腹腔内投与後、被験物質を週5回、25週間強制経口投与した。3-MCPDは発癌用量の40 mg/kg 体重を、3-MCPDパルミチン酸ジエステル、3-MCPDパルミチン酸モノエステル及び3-MCPDオレイン酸ジエステルはほぼ同等のモル数になるよう各々220、130および240 mg/kg 体重を投与濃度とした。また溶媒(オリーブオイル、5 ml/kg 体重)対照群および無処置対照群を設けた。投与期間中、体重、摂餌量、触診可能な乳腺部結節の発生率、発生数及び体積の測定を行った。投与終了後、深麻酔下でラットを屠殺解剖し、全身の乳腺及び諸臓器を採取し、結節性病変の病理組織標本を作製し、腫瘍性病変の発生率、発生数及び体積について、病理組織学的に検討した。
結果と考察
生存率には被験物質の投与による有意な変化はみられなかった。3-MCPD投与群では、乳腺部腫瘤の発生以前に腎毒性による4例の死亡例が認められ、そのデータは乳腺腫瘍発生の分析より削除された。3-MCPDの飲水投与による腎毒性及び強制経口投与による死亡例の発生についてすでに報告があり、死因は3-MCPD代謝産物の急激な血中濃度上昇による急性腎毒性であった(2001;Barocelli et.al.)。FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)は、3-MCPDについて生体内では遺伝毒性を認められないとし、腎臓の尿細管過形成という毒性指標の増加結果から暫定最大一日耐容摂取量(PMTDI)を2ug/kg体重/日とした。
溶媒対照群及び3-MCPD群で、無処置対照群に比べ乳腺腺腫/腺癌の発生数及び体積の減少傾向が認められた。3-MCPDオレイン酸ジエステル群では体積の増加傾向を示したものの、溶媒対照群と比較して統計学的に有意差は認められなかった。また、3-MCPDパルミチン酸ジエステル及び3-MCPDパルミチン酸モノエステル群でも有意な変化はみられなかった。
ラットを用いた発がん性試験においては、3-MCPDの飲水投与により、雌雄の腎臓、雄の精巣及び乳腺における良性腫瘍の増加が観察された(1993;Sunahara et.al.)。しかし、Choらによる報告には雄の乳腺発がんの報告はなかった(2008;Cho et.al.)。また、雌の乳腺に及ぼす3-MCPDの影響は報告されていない。3-MCPDの発がんメカニズムとしては(1)3-MCPDの遺伝毒性発がん物質であるグリシドールへの代謝、(2)DNA修復、細胞死、細胞周期調節及びmRNA安定性に関わるglyceraldehydes-3-phosphate-dehydrogenase (GAPDH)の抑制及び(3) 3-MCPDのホルモン様作用などが考えられるが、まだ明らかになっていない。
今後、3-MCPDの発がんメカニズムの解明と共に、ヒト及びラットにおける3-MCPDEsから3-MCPDへの変換率についての詳細な検討が必要と考えられた。
結論
本研究において、3-MCPDEsによるラット乳腺発がん修飾作用は認められなかった。

公開日・更新日

公開日
2013-06-24
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2014-03-11
更新日
-

文献情報

文献番号
201234032B
報告書区分
総合
研究課題名
グリシドールおよび3‐MCPDの脂肪酸エステルの乳腺発がん修飾作用に関する研究
課題番号
H23-食品-若手-018
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
チョウ ヨンマン(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
グリシドール脂肪酸エステル(GEs)及び3-クロロ-1,2-プロパンジオール(3-MCPD) 脂肪酸エステル(3-MCPDEs)は、食用油の精製・脱臭過程で形成される副産物であるが、その毒性や体内動態は明確ではなく、生体内で加水分解され、各々遺伝毒性発がん物質であるグリシドール及び非遺伝毒性発がん物質である3-MCPDに変換される可能性がある。GEsが3-MCPDの前駆物質となる可能性や3-MCPDがグリシドールに代謝される可能性も指摘されている。
本研究では、N-methyl-N-nitrosourea(MNU)誘発ラット乳腺発がんモデルを用いて、平成23年度はGEsについて、平成24年度は3-MCPDEsについて、乳腺発がん修飾作用の有無を病理組織学的に検討した。
研究方法
7週齢の雌性SDラット1群20匹に、MNU(50 mg/kg 体重)の単回腹腔内投与後、GEsを用いた実験では、26週間被験物質を飲水投与した。グリシドールは発癌用量の800 ppm、グリシドールオレイン酸エステルおよびグリシドールリノール酸エステルは3600 ppmを投与濃度とした。3-MCPDEsを用いた実験では、被験物質を週5回、25週間強制経口投与した。3-MCPDは発癌用量の40 mg/kg 体重を、3-MCPDパルミチン酸ジエステル、3-MCPDパルミチン酸モノエステル及び3-MCPDオレイン酸ジエステルは各々220、130および240 mg/kg 体重を投与濃度とした。また溶媒対照群および無処置対照群を設けた。投与期間中、体重、摂餌量、飲水量、触診可能な乳腺部結節の発生率、発生数及び体積の測定を行った。投与終了後、深麻酔下でラットを屠殺解剖し、全身の乳腺及び諸臓器を採取し、結節性病変の病理組織標本を作製し、腫瘍性病変の発生率、発生数及び体積について、病理組織学的に検討した。
結果と考察
<GEsの乳腺発がん修飾作用>
グリシドール投与群で、乳腺腺腫/腺癌の発生数および体積の有意な増加が認められたが、グリシドールオレイン酸エステル群で、増加傾向を示したものの、対照群と比較して統計学的に有意差は認められなく、グリシドールリノール酸エステル群でも変化はみられなかった。
グリシドール投与群では飲水量の著しい減少による体重増加抑制が認められた。グリシドールによる忌避性が原因と考えられるが、グリシドールの一日平均摂取量は43 mg/kg体重で、2年間の強制胃内投与による発がん用量である37.5mg/kg 体重に達していた。グリシドールオレイン酸エステルおよびグリシドールリノール酸エステルの一日平均摂取量は427及び334 mg/kg体重で、体内で全量がグリシドールに変化したと仮定すると93.4及び73.5 mg/kg 体重相当であり、投与量は充分であった。しかし、今後、ヒト及びラットにおけるGEsからグリシドールへの変換率についての詳細な検討が必要と考えられた。

<3-MCPDEsの乳腺発がん修飾作用>
溶媒対照群及び3-MCPD群で、無処置対照群に比べ乳腺腺腫/腺癌の発生数及び体積の減少傾向が認められた。3-MCPDオレイン酸ジエステル群では体積の増加傾向を示したものの、溶媒対照群と比較して統計学的に有意差は認められなかった。また、3-MCPDパルミチン酸ジエステル及び3-MCPDパルミチン酸モノエステル群でも有意な変化はみられなかった。
ラットを用いた発がん性試験においては、3-MCPDの飲水投与により、雌雄の腎臓、雄の精巣及び乳腺における良性腫瘍の増加が観察された(1993;Sunahara et.al.)。しかし、Choらによる報告には雄の乳腺発がんの報告はなかった(2008;Cho et.al.)。また、雌の乳腺に及ぼす3-MCPDの影響は報告されていない。3-MCPDの発がんメカニズムとしては(1)3-MCPDの遺伝毒性発がん物質であるグリシドールへの代謝、(2)DNA修復、細胞死、細胞周期調節及びmRNA安定性に関わるglyceraldehydes-3-phosphate-dehydrogenase (GAPDH)の抑制及び(3) 3-MCPDのホルモン様作用などが考えられるが、まだ明らかになっていない。今後、3-MCPDの発がんメカニズムの解明と共に、ヒト及びラットにおける3-MCPDEsから3-MCPDへの変換率についての詳細な検討が必要と考えられた。
結論
GEsの加水分解物、グリシドール投与群では体重増加抑制が認められたにもかかわらず、乳腺腫瘍の発生数と体積が増加しており、乳腺腫瘍発生促進作用が明らかになった。一方、本研究において、GEs及び3-MCPDEsの明らかな乳腺発がん促進作用は示さなかった。

公開日・更新日

公開日
2013-06-24
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2014-03-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201234032C

成果

専門的・学術的観点からの成果
食用油の精製・脱臭過程で形成される副産物、グリシドール脂肪酸エステル(GEs)及び3-クロロ-1,2-プロパンジオール(3-MCPD) 脂肪酸エステル(3-MCPDEs)は、その毒性や体内動態が明確ではなく、生体内で加水分解され、各々発がん性が懸念されるグリシドール及び3-MCPDに変換される可能性が懸念されている。しかし、ラット乳腺発がんモデルを用いた本研究により、GEs及び3-MCPDEsの明らかな乳腺発がん促進作用がないことが分かった。
臨床的観点からの成果
日本の乳腺がんの発生率は近年急速に増加しており、食生活の欧米化による脂肪の摂取量増加が一因とされている。脂肪酸の種類による乳腺発がん修飾作用に関する研究は多くされてきたが、食用油中の副産物に関する研究は殆んどない。本研究では、ラット乳腺発がんモデルを用いて食用油中の副産物であるGEs及び3-MCPDEsは乳腺発がん促進作用を示さないことを明らかにした。
ガイドライン等の開発
本研究のみならず、我々の研究班で行われているGEs及び3-MPCDEsの(1)グリシドール及び3-MCPDへの変換率に関する研究、(2)遺伝毒性に関する研究及び(3)90日間反復毒性に関する研究の結果は今後、日本の食品安全委員会及び国際審議会がGEs及び3-MPCDEsの発がん性・安全性評価や暫定最大一日耐容摂取量などの設定を行う際に、貴重な情報になると考えられる。
その他行政的観点からの成果
1999年に特定保健用食品とされたジアシルグリセロール(DAG)を主成分とする食用油「エコナ」に、2009年GEsが高濃度に含まれるとの報告があった。また、2007年精製植物油脂や乳幼児用調整乳等の油脂加工品から高濃度の3-MCPDEsが検出された。GEs及び3-MCPDEsの安全性に関する正確な情報が求められるが、生体への影響を検討した報告はほとんどない。本研究により、食品の安全確保を推進する行政に重要な情報を提供することができたと考えられる。
その他のインパクト
GEs及び3-MCPDEs等の食品汚染物質の健康への影響について、食品の安全確保を推進する行政、食品汚染物質が高濃度に含まれるとされる食用油や食品加工品の製造業者及び食品を利用する消費者が高い関心を示している。GEs及び3-MCPDEsはラット乳腺発がん促進作用を示さないことを明らかにした本研究の結果により行政、製造業者及び消費者に的確で有意義な情報が提供できたと考えられる。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
第39回日本毒性学会学術年会(2012.7) 第71回日本癌学会学術総会(2012.9) 第29回日本毒性病理学会総会および学術集会(2013.1)
学会発表(国際学会等)
2件
KSTP International Joint Symposium 2012 (2012.11) 52nd Annual Meeting of the SOT (2013.3)
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2014-06-02
更新日
2018-07-13

収支報告書

文献番号
201234032Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
8,000,000円
(2)補助金確定額
8,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 6,998,063円
人件費・謝金 0円
旅費 690,680円
その他 311,685円
間接経費 0円
合計 8,000,428円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-07-13
更新日
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