希少疾患への治療応用を目指した臍帯および臍帯血由来細胞の系統的資源化とその応用に関する研究

文献情報

文献番号
201231117A
報告書区分
総括
研究課題名
希少疾患への治療応用を目指した臍帯および臍帯血由来細胞の系統的資源化とその応用に関する研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-016
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
長村 登紀子(井上 登紀子)(東京大学 医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 角田 肇(NTT東日本関東病院)
  • 東條 有伸(東京大学 医科学研究所 )
  • 幸道 秀樹(公益財団法人 献血供給事業団)
  • 麦島 秀雄(日本大学医学部)
  • 森尾 友宏(東京医科歯科大学大学院)
  • 辻 浩一郎(東京大学 医科学研究所)
  • 縣 秀樹(東京大学 医科学研究所)
  • 長村 文孝(東京大学 医科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
47,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
臍帯血は血液疾患のみならず、組織幹細胞ソースとして代謝性疾患等にも応用され、さらに近年では脳性麻痺患児への輸注が行われ注目されている。この組織幹細胞ソースの一つである間葉系幹細胞(MSCs)は、分化再生能に加え炎症・組織障害部位へ集積して抗炎症・免疫抑制能、組織修復能を示すことで注目され、骨形成不全症等の難病疾患や造血幹細胞移植後の移植片宿主病(GVHD)を対象に臨床試験が行われ、効果を挙げている。しかし、GVHD治療等では海外の3rd partyの骨髄由来MSCs製剤が主に用いられているのが現状である。臍帯は臍帯血同様胎児由来組織であり、我々は2009年に国内で初めてその構成組織であるワルトンジェリー、動脈および静脈から多くの間葉系幹細胞(MSCs)を分離することが可能であることを報告した (Int. J of Hematology,2009)。本研究は、骨髄に替わる新規細胞ソースとして臍帯血・臍帯由来MSCsの国内初の製剤化と系統的資源化(バンキング)に必要な技術基盤を確立し、基礎的研究により早期に希少・難治性疾患への臨床応用を可能とする体制を整えることを目的とする。
研究方法
臍帯血および臍帯由来MSCsの系統的資源化(バンキング)システムの構築とその性状解析や応用に関する基礎的研究の2面から研究を行った。
結果と考察
(1)系統的資源化;平成24年度は、臍帯由来MSCsの分離・培養方法と採取から凍結保存までの一連の検体管理システムについて検討した。その結果、臍帯血と臍帯の同時採取は可能であり、臍帯から動静脈を除去後、explant法にて細胞を分離培養し、1gから中央値2x106個の細胞が得られることが分かった。得られた臍帯由来MSCsは骨髄由来MSCs同様に付着性を有し、CD73+CD105+ HLA-Class I+, HLA ClassII- CD45-を呈した。臍帯血に関しては、自動分離装置SEPAXを用いた分離手順を確立した。また未だ非臨床ではあるが、ゲノム解析にも対応した同意書や付随情報・遡及可能な書式を確立した。今後は、品質評価に必要な項目を網羅し、最終的に細胞製剤化してOff- the-shelfの供給体制を構築する。
(2)基礎的研究;希少・難治性疾患を対象とした臍帯由来MSCsの有効性を、国内外の情報を収集すると共に新規手法を考案し実証を行った。平成24年度は、臍帯由来MSCsの幹細胞性、骨、神経系への再生能または修復能、免疫抑制能および細胞支持能について分担研究を進めた。臍帯由来MSCsの骨形成能は骨髄由来MSCsに比べ低く、分化に時間を要すが、培養初期段階で骨芽細胞の存在を確認できたことより、今後は臍帯由来MSCsに最適化した誘導法を検討する。また難治性神経疾患モデルでは、子宮内感染症由来脳室周囲白質軟化症のラットモデルを作成し、臍帯由来MSCs投与による有用性が示唆された。また免疫抑制作用に関しては、3rd partyにおいても臍帯由来MSCsはリンパ球混合試験でリンパ球の増殖抑制を認めたことから、難治性疾患に対する造血細胞移植後の移植片対宿主病(GVHD)等の炎症性疾患への応用の可能性が示唆された。また臍帯血造血幹細胞(CD34+)と脂肪由来MSCsのマウスへの同時投与によってヒト造血細胞の生着促進が確認され、今後は臍帯血と臍帯由来MSCsの同時投与について検討を進めることとなった。臍帯由来MSCの治療対象となる可能性が高い疾患は、骨髄由来MSCs治療の対象とされている骨形成不全症や神経疾患、難治性疾患に対する造血細胞移植後の急性または慢性移植片対宿主病(GVHD)、クローン病あるいは膠原病のような自己免疫異常に基づく炎症性疾患で、既に海外では一部臨床試験が進められており、本研究班にて自己・同種の新規細胞ソースとして、臨床への道筋をつける。
 難治性疾患に対する、自家・他家の細胞を効率よく利用した細胞療法の開発は、治療の選択肢を大きく広げる可能性と安定的な供給の面から急務といえる。細胞療法では長期安全性の確認が必要であるが、国内の臍帯血と臍帯を利用できれば、輸入骨髄ドナー由来MSCsに比して品質管理行程が確認可能なこと、遡及調査が実施できることからも安全性が高い。臍帯および臍帯血は医療廃棄物として廃棄されていたものであり、採取の観点から倫理的にも受け入れられ易い。
結論
バンキングのための臍帯血と臍帯の同時採取および細胞処理に関しての検討は着実に進められている。また基礎的研究では、臍帯由来MSCsにおける分化能、免疫抑制能、細胞支持能の検討が進められ、臍帯血、臍帯由来MSCsの有用性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2013-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201231117Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
59,450,000円
(2)補助金確定額
59,450,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 34,004,236円
人件費・謝金 5,624,957円
旅費 2,760,543円
その他 5,510,946円
間接経費 11,550,000円
合計 59,450,682円

備考

備考
利息682円

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-