腸管不全に対する小腸移植技術の確立に関する研究

文献情報

文献番号
201231116A
報告書区分
総括
研究課題名
腸管不全に対する小腸移植技術の確立に関する研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-015
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
福澤 正洋(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 古川 博之(旭川医科大学 外科 外科学講座消化器病態外科学分野)
  • 仁尾 正記(東北大学医学系研究科 小児外科)
  • 黒田 達夫(慶應義塾大学 外科学 小児外科)
  • 木内 哲也(名古屋大学大学院医学系研究科 移植 内分泌外科学)
  • 上本 伸二(京都大学大学院医学系研究科 肝移植 小腸移植)
  • 田口 智章(九州大学大学院医学研究院 小児外科学分野)
  • 鈴木 友己(北海道大学医学系研究科 外科系外科学講座 消化器外科学分野Ⅰ)
  • 貞森 裕(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 消化器外科学)
  • 佐藤 好信(新潟大学大学院 医歯学総合研究科 消化器 一般外科)
  • 阪本 靖介(国立成育医療研究センター 移植外科)
  • 上野 豪久(大阪大学大学院医学系研究科 小児成育外科)
  • 藤山 佳秀(滋賀医科大学 消化器内科 )
  • 林 行雄(大阪大学大学院医学系研究科 麻酔学)
  • 位田 忍(大阪府立母子保健総合医療センター 消化器内分泌科)
  • 羽賀 博典(京都大学医学部附属病院 病理診断科 病理学)
  • 石田 和之(岩手医科大学医学部 病理学講座分子診断病理学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
35,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
小腸運動機能不全は[疾患区分](8)の小腸疾患に該当する難治性疾患で予後不良であるが、小腸移植によって救命することができる。しかし、診断治療に難渋しているのが現状で全体像の把握すらされていない。日本小腸移植研究会にて全体像の把握に努めているところであるが、適切な治療が行われていない。しかも、小腸移植はまだ保険適用となっておらず、実施数は20例程度である。
本研究の目的は全国に分布する小腸運動機能不全の患者を調査するのみならず、小腸移植の適応疾患である腸管不全全体を登録し、腸管不全の原因、小腸移植の適応判断と、小腸移植の技術の向上を図ることである。また、散発的に行われている小腸移植の患者の登録及び小腸生検の試料登録をおこない中央病理診断と遠隔病理診断支援システムを構築することにより、移植外科のみならず、消化器内科、小児外科、小児科、麻酔科も参加し、治療指針の標準化によって一層救命率の向上が期待でき、小腸移植の保険適用を考える基礎資料の作成および小腸移植の医療経済的な効率化をも企図している
研究方法
腸管不全症例と、腸管不全に対する小腸移植実施症例に対しての、過去5年の後方視的観察研究、および2年の前方視的観察研究とする。また、小腸生検試料の結果の共有を行う。腸管不全に対しては日本小児外科学会認定施設、 日本小腸移植研究会、日本在宅静脈経腸栄養研究会の会員施設に対して、データセンターより症例登録依頼状を送付し、応諾が得られた施設を対象とし、多施設共同研究としての症例登録を行う。小腸移植術後症例に対しては日本小腸移植研究会に実施報告された症例を対象とし、症例の登録ならびに試料の登録を行う。データセンターより1症例あたり1部の症例登録票、1試料あたり1部の登録を依頼する。各実施施設は連結可能匿名化を行った上でWeb上でデーターセンターのサーバーに症例を登録する。本年度はWeb症例登録システム、中央病理診断システムの構築を行う。
結果と考察
63施設より354例の調査票を得ることができた。以降の解析はこの症例を対象として行った。現在の年齢分布は0-98.4歳で平均、17.4歳であった。発症時の年齢分布は0.0-98.0歳で、平均9.7歳であった。およそ、発症より7.7年間経過していた。354例中観察期間中の5年間のうちに44例(12%)が死亡した。短腸症候群は195例(55%)で全体の半数以上を占めた。中腸軸捻転、先天性小腸閉鎖、壊死性腸炎、腹壁破裂などの乳幼児期の疾患が58%と短腸症候群に至った原因の2/3近くを占めていた。ヒルシュスプルング類縁疾患(CIIPSも含む)が99例となりやはり症例の2/3を占めていた。
栄養法は経口栄養が274例、経管栄養が71例、経静脈栄養が239例であった(重複あり)。生存症例310例のうち、図4のように210例(67%)は経静脈栄養から離脱できなかった。
また、そのうち184例は6ヶ月以上中心静脈栄養から離脱できずに、不可逆的小腸機能不全と考えられた。85例が何らかの中枢ルートの閉塞をきたしていた。閉塞血管の本数を図5に示す。このうち2本以上の静脈が閉塞した症例は49例あり小腸移植を考慮するべきだと考えられる。
肝障害をきたしている症例が138例(45%)に認められた。肝機能障害の原因には中心静脈栄養法によるものが考えられる。このうち、19例には黄疸が認められ、肝障害がより進んだものと考えられる。今回の調査では今まで考えられていたよりも多くの小腸移植適応患者が存在することが判明した。今後、この適応患者がスムーズに小腸移植施設に紹介されるように、患者を治療している施設と小腸移植施設との連携が必要であると考えられる。
いずれにせよ、小腸移植が適応であったとしても保険適用でなければ治療は経済的な観点から極めて困難であるので、小腸移植の保険適用は速やかになされるべきだと考えられる。
結論
今回初めて小腸機能不全の全国調査が行われた。また、今回の調査によって、初めて全国の小腸機能不全の患者の症例数が把握できた。不可逆的小腸機能不全を重症度別に層別化した重症群に対しては小腸移植が適応となる。現在、小腸移植は保険適用となっていないため少なくとも31例の小腸移植適応患者が存在することを考えると、早急な保険適用が望まれる。

公開日・更新日

公開日
2013-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201231116Z