文献情報
文献番号
201231098A
報告書区分
総括
研究課題名
HTLV-1関連脊髄症(HAM)の新規医薬品開発に関する研究
課題番号
H23-難治-一般-126
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
山野 嘉久(聖マリアンナ医科大学 難病治療研究センター)
研究分担者(所属機関)
- 吉良 潤一(九州大学 大学院医学研究院)
- 藤原 一男(東北大学 大学院医学系研究科)
- 菊地 誠志(北海道医療センター)
- 長谷川 泰弘(聖マリアンナ医科大学 医学部)
- 中川 正法(京都府立医科大学 大学院医学研究科)
- 中村 龍文(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
- 竹之内 徳博(関西医科大学)
- 永井 将弘(愛媛大学 医学部附属病院臨床薬理センター)
- 高嶋 博(鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科)
- 渡嘉敷 崇(琉球大学 大学院医学研究科)
- 齊藤 峰輝(川崎医科大学 医学部)
- 高田 礼子(聖マリアンナ医科大学 医学部)
- 植田 幸嗣(独立行政法人理化学研究所 ゲノム医科学研究センター)
- 外丸 詩野(北海道大学 大学院医学研究科)
- 上野 隆彦(聖マリアンナ医科大学 医学教育文化部門)
- 松本 直樹(聖マリアンナ医科大学 医学部)
- 青谷恵利子(北里大学 臨床薬理研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
27,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
HTLV-1関連脊髄症(HAM)は、進行性痙性脊髄麻痺を特徴とする疾病で、有効な治療法がなく患者の生活の質も大きく損なわれている、アンメットメディカルニーズの高い、極めて深刻な難治性希少疾患である。本研究は、HAMの診療レベル、患者の生活の質の向上のため、画期的な新規医薬品の開発に向けた研究を目的とする。HAMの新規医薬品開発には医師主導治験の実施が必要であり、それには薬事法に基づく承認申請を可能とする治験プロトコールを作成し、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の対面助言を終了することが必要である。そこでHAMの治験対象薬として、本邦で開発され最近ATL治療薬として承認され、我々がHAMに有効性を示すデータを得て特許申請済みの抗CCR4抗体製剤(KW-0761)を選択した。本研究では、HAMを対象としたKW-0761治験プロトコールを作成、PMDAの対面助言を終了することを目指す。また希少難病であるHAMの治験に向けた症例集積性の向上や、患者や社会への情報発信、疫学調査等を目的としたHAM患者登録システムを構築する。さらに今後のHAMの新薬開発につながる新薬のシーズ探索を進める。
研究方法
HAMに対するKW-0761の抗感染細胞活性、抗炎症活性について解析し知財化を進め、PMDAへ提出する報告書を作成した。またプロトコール作成に必要な設定根拠を示す為に、HAMの臨床的・薬力学的指標に関するデータを収集し、生物統計学的解析を実施した。さらに、抗CCR4抗体製剤の非臨床試験データ、治験薬概要書、臨床的・薬力学的データ等を踏まえた医師主導治験のプロトコールを作成、PMDAの事前面談、対面助言を実施した。HAM患者登録システム(HAMねっと)については、ウェブサイト(http://hamtsp-net.com)を立ち上げ、患者会と連携し登録を進めた(目標症例数300)。本システムを利用して、電話による聞き取り調査を実施、臨床像、予後因子から生活環境やニーズなど、多岐にわたる解析を行った。さらに患者検体のサンプルセンターを構築、収集保存検体を用いて、分子レベルでの疾患特性の解明、プロテオーム解析による新規治療標的分子の解析等を実施、次世代の画期的な新規候補薬のシーズ探索を進めた。
結果と考察
本研究では、本邦で開発されたKW-0761のHAMにおける抗感染細胞活性ならびに抗炎症効果を証明し(国際特許出願)、これまでになかったHAMの感染細胞を標的とした根本的治療薬となりうると判断、治験プロトコールを作成、PMDAの対面助言を終了し、HAMに対するKW-0761の医師主導治験を実施出来るレベルを達成した。希少難治性を考慮し、より早期に承認申請がなされるよう治験デザインをPhase I/IIa試験と工夫した。抗感染細胞活性を有するKW-0761療法は、ATLの発症リスクを抱えるHAM患者にとって、機能的な長期予後の改善のみならず、ATL発症予防という生命予後の改善にもつながると期待される。またHAM患者における安全性や有効性が証明されれば、将来はHTLV-1キャリアへの応用へと発展し、ATLやHAMの発症を予防できる可能性を秘めている。HTLV-1キャリアは全国で約108万人存在することから、その対策は厚生行政上、重要課題である。
「HAMねっと」は患者から大きな反響があり、全国から392例が登録を申請、症例集積性の向上がはかられた。そのうち304例について疫学調査を実施し、様々なHAMの臨床像や実態が明らかとなった。特に発症早期の高い疾患活動性が重要な予後不良因子であることが示され、早期診断・早期治療の重要性が示されたが、一方で診断までに長い年数を要していることが判明、HAM患者の予後改善には早期診断を可能にする対策が極めて重要であることが示された。さらに、患者向けの「HAM手帳」を作成した。また、新規治療標的分子を同定し、2件特許出願した。
「HAMねっと」は患者から大きな反響があり、全国から392例が登録を申請、症例集積性の向上がはかられた。そのうち304例について疫学調査を実施し、様々なHAMの臨床像や実態が明らかとなった。特に発症早期の高い疾患活動性が重要な予後不良因子であることが示され、早期診断・早期治療の重要性が示されたが、一方で診断までに長い年数を要していることが判明、HAM患者の予後改善には早期診断を可能にする対策が極めて重要であることが示された。さらに、患者向けの「HAM手帳」を作成した。また、新規治療標的分子を同定し、2件特許出願した。
結論
本研究では、HAMに対する抗CCR4抗体製剤の治験を主軸とし、治療研究推進に必要な情報を収集するための臨床試験の準備や体制構築を完了させた。特にKW-0761療法は、これまで有効な治療法がなかったHAMの画期的な治療薬となり、HAMの治療にパラダイムシフトをもたらすと期待される。今後、医師主導治験の実施や国際共同研究遂行により、日本発のHAMの革新的な新薬が創出され、HAMの最適な治療法の確立に結びつくエビデンスが構築されるであろう。またHAM患者登録システムを利用して得られる情報は、治療研究の基軸として貢献するのみならず、患者の医療体制、福祉、ケアの改善に向けた行政施策に役立つと思われる。
公開日・更新日
公開日
2013-05-30
更新日
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