早期発症型侵襲性歯周炎(遺伝性急性進行型歯槽膿漏症候群)の診断基準確立の更なる推進に関する研究

文献情報

文献番号
201231090A
報告書区分
総括
研究課題名
早期発症型侵襲性歯周炎(遺伝性急性進行型歯槽膿漏症候群)の診断基準確立の更なる推進に関する研究
課題番号
H23-難治-一般-112
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
村上 伸也(大阪大学 大学院歯学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 森崎 裕子(国立循環器病研究センター)
  • 梅澤 明弘(国立成育医療研究センター)
  • 山崎 和久(新潟大学 大学院医歯学総合研究科)
  • 齋藤 正寛(東京理科大学 基礎工学部)
  • 北村 正博(大阪大学 大学院歯学研究科)
  • 山田 聡(大阪大学 歯学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、口腔における難治性疾患の一つである早期発症型侵襲性歯周炎の診断基準および技術の確立を目的として、国立循環器病研究センターに通院しているマルファン症候群およびその類縁患者を対象とした歯周組織検査を行うことにより、同症候群と早期発症型侵襲性歯周炎との関連性を解析するものである。前年度の研究結果から、侵襲性歯周炎の疾患感受性は、マルファン症候群およびその類縁疾患において原因となる遺伝子変異によって異なっている可能性が示された。そこで、平成24年度において、マルファン症候群およびその類縁患者を対象とした歯周病罹患実態調査を継続し、更なる症例数を解析することで、早期発症型侵襲性歯周炎の診断基準およびその技術の確立を目指した研究を遂行した。
早期発症型侵襲性歯周炎は、通常の慢性歯周炎と異なり、その発症と進行に遺伝的要因が関与する比率が高い歯周炎と考えられている。そこで本研究では歯周組織の強度を調整する結合組織の機能低下が遺伝的に引き起こされるマルファン症候群に着目し、国立循環器病研究センター病院に通院しているマルファン症候群およびその類縁疾患患者を対象に、早期発症型侵襲性歯周炎の診断基準・技術の開発を行うことを特徴としている。これらの研究成果を応用することにより、将来的には早期発症型侵襲性歯周病の原因究明がはかられ、その成果は「口が支えるQOL」の維持・増進に大いに寄与することが期待される。
また、マルファン症候群およびその類縁疾患において、原因遺伝子の違いが歯周組織に与える影響が異なる可能性について検討を加えていく。
研究方法
国立循環器病研究センター病院専門外来に歯周病外来を開設し、通院中のマルファン症候群および類縁患者を対象に、歯周病の罹患実態を調査した。歯周組織検査(口腔内写真撮影、歯周ポケット深さ測定、歯の動揺度の検査、プラークスコアの評価、パノラマレントゲン検査)を行い、歯周病の罹患実態について調査した。
結果と考察
 平成25年3月31日現在で、合計126名のマルファン症候群および類縁疾患患者の歯周組織検査を実施した。症候群数として、マルファン症候群99名、ロイス・ディーツ症候群9名、ビールス症候群2名、原因遺伝子の確定に至ってない不明なもの16名、以上の4疾患の合計126名となった。被験者の平均年齢は38.6歳、現在歯数:27.3本、平均ポケット深さ:2.6 mmであった。高口蓋は62.4%、前歯部叢生を特徴とする歯列不正は、54.7%に認められた。このことから、遺伝的要因に加えて歯列不正等による局所的なプラーク停滞因子が起因する歯周炎の可能性が示唆された。
 個々の検査データを解析したところ、歯周病原性細菌由来バイオフィルムの蓄積が原因となる慢性歯周炎を呈する患者は見受けられたものの、侵襲性歯周炎を示すものは認められなかった。
 一方、平成23年度の研究結果からマルファン症候群類縁疾患であるロイス・ディーツ症候群患者において侵襲性歯周炎を示す歯周組織検査結果が得られた。同患者の口腔衛生状態は良好で、辺縁歯周組織には著明な炎症所見は認められなかった。しかしながら、レントゲン所見から、大臼歯部隣接面において歯槽骨の垂直性骨吸収像が観察され、典型的な侵襲性歯周炎の臨床所見が明らかとなった。現在までに合計9名のロイス・ディーツ症候群患者の歯周組織検査を行った結果、1名の歯周性歯周炎患者が見出されている。侵襲性歯周炎との関連性を明らかにするためには更なる症例数が必要と考える。
 ロイス・ディーツ症候群は、結合組織におけるTGF-シグナルの異常により、様々な臨床症状が引き起こされていると考えられているが、その詳細には未だ不明な点が多く、これまでに歯周疾患発症の報告は、成されていない。そこで、歯根膜細胞の硬組織形成細胞への分化過程においてTGF-シグナルの機能を解析したところ、細胞分化がTGF-シグナル阻害剤を添加することで、促進されることを見出された。TGF-シグナルは、歯根膜細胞の分化能を抑制している可能性が示された。
結論
 本研究の結果、マルファン症候群患者では、高口蓋や歯列不正に起因するプラーク性慢性歯周炎のリスクがあり、重度の循環器系疾患を考慮した専門的な歯周炎の予防および治療の必要性が明らかとなった。さらに、マルファン症候群類縁疾患であるロイス・ディーツ症候群と早期発症型侵襲性歯周炎との関連性が示唆されたことから、歯周組織におけるTGF-シグナル異常を解析することで、早期発症型侵襲性歯周炎の診断基準および技術を開発できる可能性が見出された。

公開日・更新日

公開日
2013-06-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201231090B
報告書区分
総合
研究課題名
早期発症型侵襲性歯周炎(遺伝性急性進行型歯槽膿漏症候群)の診断基準確立の更なる推進に関する研究
課題番号
H23-難治-一般-112
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
村上 伸也(大阪大学 大学院歯学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 森崎 裕子(国立循環器病研究センター)
  • 梅澤 明弘(国立成育医療研究センター)
  • 山崎 和久(新潟大学 大学院医歯学総合研究科)
  • 齋藤 正寛(東京理科大学 基礎工学部)
  • 北村 正博(大阪大学 大学院歯学研究科)
  • 山田 聡(大阪大学 歯学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
中高年齢層から発症する歯周病は、「口」の生活習慣病と考えられており、我が国における患者数は5,000万人を超えている。そのなかで、全歯周病患者の0.1%にあたる約5万人が早期発症型侵襲性歯周炎を発症していると想定される。早期発症型侵襲性歯周炎の進行は非常に早く、30歳代で多くの歯を失ってしまうこともある。早期発症型侵襲性歯周炎の原因は不明であり、その診断基準や効果のある治療法は未だ確立されていないのが現状である。興味深いことに、大動脈瘤、肺気胸等を主症状にするマルファン症候群の患者が、この早期発症型侵襲性歯周炎のハイリスク集団である事が示唆されている。そこで、本研究は、口腔における難治性疾患の一つである早期発症型侵襲性歯周炎の診断基準および技術の確立を目的として、国立循環器病研究センターに通院しているマルファン症候群およびその類縁患者を対象とした歯周組織検査を行うことにより、同症候群と早期発症型侵襲性歯周炎との関連性を解析する。さらに、歯周炎と動脈硬化性疾患・脂質代謝異常との関連を解析するために歯周病原細菌Porphyromonas gingivalis(P. gingivalis)に対する抗体価と動脈硬化性疾患・脂質代謝異常との関連について検索する。また、マルファン症候群モデルマウスおよび培養細胞を用いて、TGF-bシグナルの細胞生物学的機能解析および微細線維形成の誘導能を有するADAMTSL6bの早期発症型歯周病の治療効果を検証することで治療技術の開発を目指す。また、マルファン症候群およびその類縁疾患において、原因遺伝子の違いが歯周組織に与える影響が異なる可能性について検討を加えていく。
研究方法
国立循環器病研究センター病院専門外来に歯周病外来を開設し、通院中のマルファン症候群および類縁患者を対象に、歯周病の罹患実態を調査した。歯周組織検査を行い、歯周病の罹患実態について調査した。国立循環器病研究センター病院に結合織病外来を受診、あるいは手術目的で当院に入院したマルファン症候群、類縁のロイスディーツ症候群、およびその他の結合織異常による遺伝性大動脈瘤が疑われた患者130例について、診断を確定するためにまず遺伝子検査を行った。新潟県十日町市の基本健診受診者を追跡して脳卒中,虚血性心疾患,糖尿病の新規罹患者を把握した調査結果を解析した。初診時のP. gingivalis FDC381およびSU63株に対する血清抗体価を予測変数とし、5年後の発症をアウトカムとした。さらに、新潟大学医歯学総合病院を受診した中等度から重度歯周炎患者40名および歯周炎・全身疾患を有しない対照者30名を対象とし、術前術後に歯周組織診査、血清中の高感度CRP、PCSK9、抗P. gingivalis抗体価、IL-6、TNF-a、脂質プロファイルを解析した。マルファン症候群モデル動物の歯根膜の損傷治癒効果を判定するために、歯根膜の損傷モデルを用いて判定した。
結果と考察
 平成25年3月31日現在で、合計126名のマルファン症候群および類縁疾患患者の歯周組織検査を実施した。症候群数として、マルファン症候群99名、ロイス・ディーツ症候群9名、ビールス症候群2名、原因遺伝子の確定に至ってない不明なもの16名、以上の4疾患の合計126名となった。被験者の平均年齢は38.6歳、現在歯数:27.3本、平均ポケット深さ:2.6 mmであった。高口蓋は62.4%、前歯部叢生を特徴とする歯列不正は、54.7%に認められた。このことから、遺伝的要因に加えて歯列不正等による局所的なプラーク停滞因子が起因する歯周炎の可能性が示唆された。一方、マルファン症候群類縁疾患であるロイス・ディーツ症候群患者において侵襲性歯周炎を示す歯周組織検査結果が得られた。同患者の口腔衛生状態は良好で、辺縁歯周組織には著明な炎症所見は認められなかった。しかしながら、レントゲン所見から、大臼歯部隣接面において歯槽骨の垂直性骨吸収像が観察され、典型的な侵襲性歯周炎の臨床所見が明らかとなった。
結論
マルファン症候群患者では、高口蓋や歯列不正に起因するプラーク性慢性歯周炎のリスクがあり、歯周疾患と心臓血管系疾患・脂質代謝異常との関連性に基づいて重度の循環器系疾患を考慮した専門的な歯周炎の予防および治療の必要性が明らかとなった。さらに、マルファン症候群類縁疾患であるロイス・ディーツ症候群と早期発症型侵襲性歯周炎との関連性が示唆されたことから、歯周組織におけるTGF-bシグナル異常を解析することで、早期発症型侵襲性歯周炎の診断基準を明確化できる可能性が見出された。さらに、ADAMTSL6bを補充する新たな治療技術が、早期発症型歯周炎の治療のみならずマルファン症候群における解離性大動脈瘤発症の予防技術として発展する可能性が示された。

公開日・更新日

公開日
2013-06-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201231090C

成果

専門的・学術的観点からの成果
今回の解析では、組織におけるTGF-bの解析は行っていないが、マルファン症候群やロイス・ディーツ症候群をはじめとする各種の遺伝性大動脈瘤では、TGF-bシグナルの亢進が示されており、マルファン症候群等における歯周囲炎の発症にTGF-bシグナルの亢進が関与している可能性は十分にある。したがって、対象疾患を広げることにより、FBN1遺伝子変異自体ではなく、それに続くTGF-bシグナルの亢進が歯周囲組織障害の要因であるか否かが明らかにできると思われた。
臨床的観点からの成果
本研究の結果、マルファン症候群患者では、高口蓋や歯列不正に起因するプラーク性慢性歯周炎のリスクがあり、重度の循環器系疾患を考慮した専門的な歯周炎の予防および治療の必要性が明らかとなった。さらに、マルファン症候群類縁疾患であるロイス・ディーツ症候群と早期発症型侵襲性歯周炎との関連性が示唆されたことから、歯周組織におけるTGF-bシグナル異常を解析することで、早期発症型侵襲性歯周炎の診断基準および技術を開発できる可能性が見出された。
ガイドライン等の開発
現在、マルファン症候群およびその類縁疾患における歯科・歯周治療のガイドラインを作成中。
その他行政的観点からの成果
早期発症型侵襲性歯周炎とは、通常中高年齢層で発症する歯周病が若年層で発症し、進行が早いために早期に歯を喪失してしまう難治性疾患である。早期発症型侵襲性歯周炎の診断基準および技術を確立することは、該当患者のみならずマルファン症候群患者、さらには今後益々増加すると予想される歯周病ハイリスク群の高齢者における「口が支えるQOL」の向上に大きく貢献する。
その他のインパクト
特記事項無し。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
21件
その他論文(和文)
6件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
4件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2017-05-25
更新日
-

収支報告書

文献番号
201231090Z