弾性線維性仮性黄色腫の病態把握ならびに診断基準作成

文献情報

文献番号
201231081A
報告書区分
総括
研究課題名
弾性線維性仮性黄色腫の病態把握ならびに診断基準作成
課題番号
H23-難治-一般-102
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
宇谷 厚志(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 谷岡 未樹(京都大学 大学院医学研究科)
  • 服部 友保(群馬大学 大学院医学系研究科)
  • 北岡 隆(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 築城 英子(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 田村 寛(京都大学 医学部附属病院)
  • 前村 浩二(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 山本 洋介(京都大学 大学院医学研究科)
  • 吉浦 孝一郎(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 荻 朋男(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 磯貝 善蔵(国立長寿医療研究センター 先端診療部)
  • 小川 文秀(長崎大学 病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1) 平成23年度までに実態調査を終了させ、その結果を統計学的に検討することにより、PXE診断基準を作成する。
2) 特に重篤な臓器障害の合併、進行、予後等を予測できる因子の有無を検討し予防、早期医療への応用を行う。
3) ABCC6遺伝子解析を行う。全国からの依頼にも迅速に対応する。
4) 同時に本研究により患者相談窓口の充実、疾患や受診施設情報の発信することによってQOLの向上を図る。
研究方法
【臨床疫学調査によるPXE患者の把握】全国医療機関の、皮膚科、眼科、循環器科へ臨床調査個人票を送った調査表を基に診断基準を作成した。調査項目作成は皮膚・眼・心血管のそれぞれの専門家が班員として作成し、簡潔で詳細な記入を可能とした。皮膚科医、眼科医、循環器科医が調査結果を検討する。 
【遺伝子診断】同意の得られた症例に対して、患者のDNAからABCC6の遺伝子変異をエクソンのシーケンスにて同定する。
【統計学的解析】調査票で得られた情報、すなわち臓器別疾患症状、有病率、重症度等を統計学的に詳細に検討し、診断基準、検査指針作成に有用な因子の抽出を行う。
結果と考察
[皮膚]集計された162例の中で、不明の5例を除いた157例のうち、150例に皮疹が認められ、7例に皮疹は存在しなかった。この無皮疹7症例は、全ての例で組織検査により弾性線維変性が確認できている。このため、皮膚「もしくは」組織の陽性所見が診断に重要であると判断している。無疹症例の存在が7/162例ほど存在することから、肉眼的所見と病理はどちらか1つの陽性所見を1項目とする我々の診断基準の妥当性が再確認されたと言えよう。
[眼]眼科症状の有無が確認できた症例では、網膜色素線条、網膜オレンジ皮様外観が、PXEに特異的に認められる所見であることが確認された。また脈絡膜新生血管は、約2/3で同定され、視力への重大な影響が示唆された。
[循環器]PXE患者での虚血性心疾患割合は極めて高率である。従って、PXE症例においての病変は、その多くがPXEを原因とする動脈病変によるものと考えられる。脳梗塞も高率に発症していることが明らかになった。従って、50歳以上の症例においても、その多くが弾性線維性仮性黄色種を原因とする動脈病変によるものと推測される。
[情報の発信]PXEに関する情報の発信を長崎大学皮膚科のホームページで行い、問い合わせも受け付けている。
[診断基準]厚生労働省難治性疾患克服研究事業「弾性線維性仮性黄色腫の病態把握ならびに診断基準作成」班として、診断基準を決め、日本皮膚科学会雑誌、日本眼科学会雑誌に発表した。以下に抜粋を転記する。
弾性線維性仮性黄色腫診断基準 2012
A.診断項目
 a. 皮膚病変がある
 b. 皮膚病理検査で弾性線維石灰化をともなう変性がある
 c. 網膜色素線条がある
 d. ABCC6遺伝子変異がある
B.診断
I. 確診:(aまたはb)かつ c
II. 疑診:(aまたはb)のみ、cのみ
     注意:疑診例に遺伝子変異を証明できた場合は、確実とする。
[解説]
 (1)皮膚病変… 10-20代で頚部、腋窩、鼠径部、肘窩、膝窩、臍周囲に好発する集簇性または線条に分布する黄白色丘疹で、癒合して局面となる場合もある。口唇粘膜に黄白色斑が認められる。典型的皮疹は見慣れた皮膚科医師には診断は容易であるが、皮疹を見慣れていない場合、また非典型皮疹のみの場合は、必ず組織検査を併用しなければならない。
 (2)病理像… 皮疹のある部位から組織検査を行う。HE染色で、真皮中層~下層に好塩基性に染色される石灰沈着を伴う変性弾性線維を認める。Von Kossa染色等で石灰沈着を証明することは早期病変の診断ならびに鑑別診断に有用である。皮疹が無い場合は、ブラインドで頚部、腋窩など好発部位より組織検査を行い、石灰沈着をVon Kossa染色等で証明する。
 (3)網脈絡膜病変… Bruch膜の断裂に伴い網膜色素線条を呈し、それに続発して網膜下出血や脈絡膜新生血管を生じることがある。その結果、重篤な視力障害をはじめとした種々の視機能障害をきたし得る。眼底にはオレンジ皮様変化を認める症例もある。
結論
1) PXE患者の重篤な視力障害、虚血性疾患の有病率が初めて明らかにされ、その予防の重要性が認識された。
2) 皮疹の広がり、口腔粘膜疹の有無が、循環器疾患と相関することが判明した。このような患者に対しては積極的に適切な検査を定期的に行うことが重要と考えられる。
3) 本邦の患者調査に基づいた診断基準作成を作成した。
4) 遺伝子変異の同定の拠点を構築し、全国からの依頼に応えている。

公開日・更新日

公開日
2013-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201231081B
報告書区分
総合
研究課題名
弾性線維性仮性黄色腫の病態把握ならびに診断基準作成
課題番号
H23-難治-一般-102
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
宇谷 厚志(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 谷岡 未樹(京都大学 大学院医学研究科)
  • 服部 友保(群馬大学 大学院医学系研究科)
  • 北岡 隆(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 築城 英子(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 田村 寛(京都大学 医学部附属病院)
  • 前村 浩二(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 山本 洋介(京都大学 大学院医学研究科)
  • 吉浦 孝一郎(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 荻 朋男(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 磯貝 善蔵(国立長寿医療研究センター 先端診療部)
  • 小川 文秀(長崎大学 病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1) 弾性線維性仮性黄色腫(PXE)の実態調査を終了させ、その結果を統計学的に検討することにより、PXE診断基準を作成する。
2) 重篤な臓器障害の合併、進行、予後等を予測できる因子の有無を検討し予防、早期医療への応用を行う。
3) ABCC6遺伝子解析方法を確立させ、遺伝子診断の拠点を構築する。全国からの依頼にも迅速に対応し、早期・軽症例の診断を可能とする。
4) 弾性線維変性の発生機序の検討
研究方法
【臨床疫学調査によるPXE患者の把握】全国医療機関の、皮膚科、眼科、循環器科へ臨床調査個人票を送った調査表を基に診断基準を作成した。調査項目作成は皮膚・眼・心血管のそれぞれの専門家が班員として作成し、簡潔で詳細な記入を可能とした。皮膚科医、眼科医、循環器科医が調査結果を検討する。
【遺伝子診断】同意の得られた症例に対して、患者血液より採取したDNAからABCC6の遺伝子変異をエクソンのシーケンスにて同定する。
【統計学的解析】調査票で得られた情報、すなわち臓器別疾患症状、有病率、重症度等を統計学的に詳細に検討し、診断基準、検査指針作成に有用な因子の抽出を行う。
【弾性線維変性の発生機序の検討】弾性線維に特異的に変性、石灰沈着が生じる機序は不明のままである。変性・石灰沈着の起こる弾性線維が真皮の少し深い部位(いわゆる真皮網状層)に限局する機序として、その網状層弾性線維に特異的な構成成分を同定する。
結果と考察
[皮膚]集計された162例の中から、不明の5例を除いた157例のうち、150例に皮疹が認められ、7例に皮疹は存在しなかった(全例に網膜色素線条あり)。無皮疹7症例は、6例で組織検査により弾性線維変性が確認できており、組織検査の有用性が明らかにされた。
[眼]全症例162例中、眼科症状の有無が確認できた症例では、網膜色素線条(およそ90%)、網膜オレンジ皮様外観(およそ74%)が、PXEに特異的に認められる所見であることが判明した。また脈絡膜新生血管は、およそ67%で同定され、視力への重大な影響が示唆された。
[循環器]120例中17例に虚血性心疾患を認めた。本邦の虚血性心疾患の有病率(50歳以上で1,000人に14人)を考えるとPXE患者での虚血性心疾患割合は極めて高率である。特に冠動脈狭窄の若年での発症、びまん性病変、全周性の石灰化は本疾患の特徴として特筆すべきである。脳梗塞は記載のある症例113例中15例で認め、本邦の50歳以上での有病率は1,000人あたり38人となり、それに比して本症患者での脳梗塞の割合は極めて高率である。
[統計]PXE皮疹の非連続性分布に着目し、皮疹分布部位ごとに皮疹の有無を、それぞれ1点、0点とした。その結果、皮疹スコア、口腔粘膜疹の存在などが、循環器症状と相互相関するという結果が出た。すなわち、皮疹スコアが高い患者、口腔粘膜疹がある患者は循環器異常と正に相関するため、より積極的に検査・治療を進めるべきである。H23年度の141例に引き続き20例増えたH24年度の162例でも確かめられた。
[遺伝子解析]本邦患者の遺伝子変異部位が同一であることが多いことから、いわゆるfounder効果があると考えられる。現時点では、ABCC6遺伝子有意な変異の同定率62%であるが、欧米の陽性率と近いレベルである。
[診断基準]H24年度皮膚科ならびに眼科雑誌に発表した。基本的には皮疹、病理組織検査もしくは眼科所見の両方が揃えば確診例とした。このうち片方のみの疑い症例に遺伝子検査を加えることで精度を上げている。162例中137例に組織検査が行われ、その中で弾性線維変性・石灰化が認められたのは132例で、正常とされたものが5例であった。また皮疹が存在しない7症例中6例が組織異常有りであった。このことから、皮疹の有無だけではfalse negativeの危険性がある。組織検査は、皮疹がある症例では異常同定率も97%と高いため、早期例、鑑別疾患の除外の観点からも必須と判断した。
結論
1) 皮疹の広がり、口腔粘膜疹の有無が、循環器疾患と相関することが判明した。このような患者に対しては積極的に適切な検査を定期的に行うことが重要と考えられる。
2) 診断基準を作成し、誰にでも適正な診断が可能になった。
3) 長崎大学皮膚科ホームページに情報を掲載している。
4) 全国からの依頼に応え、遺伝子検査を実行している。
5) PXE患者は、従来考えられてきたより高率に重篤な視力障害、虚血性疾患を合併することが明らかになった。その予防、定期的経過観察の重要性が認識された。

公開日・更新日

公開日
2013-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2014-03-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201231081C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では全国医療機関の皮膚科、眼科、循環器疾患に焦点をあてて精度の高い臨床調査を施行した。その数は2015年時点で200例以上に到達した。このように多くの患者数から得たデータは本邦患者実態を把握するものとなった。さらに遺伝子診断を加えて行うことで早期、軽症の診断も可能となった。
臨床的観点からの成果
調査によりPXE診断基準作成し、2012年皮膚科と眼科の学会雑誌に掲載し、診断を容易にした。
ガイドライン等の開発
ガイドラインは作成中であるが、上記の如く診断基準を作成した。
その他行政的観点からの成果
視力障害が重篤な障害の1つであることが判明した。さらに皮疹分布が広いこと、また口腔粘膜疹の存在が、循環器症状と相互相関することの発見は循環器科の疾患への注意喚起にもつながる。積極的に検査を通して、病状を把握し、患者個人のフォローアップを介して健康的生活の維持に貢献する。
その他のインパクト
なし

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
8件
その他論文(和文)
19件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
22件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
診断基準の作成2012 指定難病(概要・診断基準・重症度)作成
その他成果(普及・啓発活動)
25件
皮膚科医を対象とする講演会、講習会や産業医研修会での講演を行った

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
宇谷厚志,北岡隆,前村浩二,荻朋男,谷岡未樹,田村寛,山本洋介,築城英子,服部友保,厚生労働省難治性疾患克服研究事業「弾性繊維性仮性黄色腫の病態把握ならびに診断基準作成」班
弾性線維性仮性黄色腫診断基準2012
日本皮膚科学会雑誌 , 122 (9) , 2303-2304  (2012)
原著論文2
宇谷厚志,北岡隆,前村浩二,荻朋男,谷岡未樹,田村寛,山本洋介,築城英子,服部友保,厚生労働省難治性疾患克服研究事業「弾性繊維性仮性黄色腫の病態把握ならびに診断基準作成」班
弾性線維性仮性黄色腫診断基準2012
日本眼科学会雑誌 , 116 (12) , 1156-1157  (2012)

公開日・更新日

公開日
2016-05-26
更新日
-

収支報告書

文献番号
201231081Z