重症・難治性急性脳症の病因解明と診療確立に向けた研究

文献情報

文献番号
201231058A
報告書区分
総括
研究課題名
重症・難治性急性脳症の病因解明と診療確立に向けた研究
課題番号
H23-難治-一般-078
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
水口 雅(東京大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 奥村 彰久(順天堂大学 医学部)
  • 斎藤 義朗(国立精神・神経医療研究センター病院)
  • 高梨 潤一(亀田総合病院)
  • 廣瀬 伸一(福岡大学 医学部)
  • 山形 崇倫(自治医科大学 医学部)
  • 山内 秀雄(埼玉医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
急性脳症はありふれた小児の感染症を契機に発症し、しばしば死亡や重篤な後遺症をもたらす。本研究は、急性脳症のうち重症・難治性の病型(症候群)について実態を把握し、臨床・検査・画像所見を集積・解析し、早期診断や予後予測のためのマーカーを見いだし、治療法の共同研究のプロトコール・システムを準備する。さらに急性脳症の遺伝要因解明のため、遺伝子研究の検体を収集し、解析を進める。また、先天性副腎皮質過形成(CAH)にともなう脳症や腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症に併発する脳症など特殊な病型について調査する。
研究方法
急性脳症の代表的症候群のうち急性壊死性脳症(ANE)と遅発性拡散低下をともなう急性脳症(AESD)の発症早期の予後予測因子を抽出し、重症度スコアを作成した。ANE、AESDその他の遺伝子検体を収集し、アデノシン受容体、イオンチャネル、サイトカインなどの候補遺伝子について解析を進め、発症の危険因子となる多型・変異の機能解析をした。CAH脳症やEHEC脳症の臨床所見・頭部画像所見を収集・解析した。
結果と考察
AESDについて早期診断(熱性けいれんとの鑑別)および予後予測のスコアを作成した。ANEについてANE重症度スコアが作成された。症例のデータベースを構築するためのプロトコール、共同研究システムの構築に着手した。
急性脳症の種々の病型に、SCN1AおよびSCN2A遺伝子変異が関与することが示された。またAESDの危険因子としてCPT2、ADPRA2A、IL1B多型が見いだされ、アデノシンやサイトカインのシステムがAESDに対する薬物療法開発のターゲットであることがわかった。CAH脳症やEHEC脳症の臨床経過、頭部画像の特徴が明確となった。
結論
急性脳症の代表的病型(症候群)であるANEとAESDの診断ないし重症度スコアを作成し、治療研究の土台を築いた。遺伝子解析により複数の遺伝子と複数の症候群をつなぐ複雑なgenotype-phenotype correlationを明らかにするとともに、AESDの治療法開発につながる知見を得た。CAH脳症やEHEC脳症の臨床的特徴を明らかにした。

公開日・更新日

公開日
2013-05-10
更新日
-

文献情報

文献番号
201231058B
報告書区分
総合
研究課題名
重症・難治性急性脳症の病因解明と診療確立に向けた研究
課題番号
H23-難治-一般-078
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
水口 雅(東京大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 奥村 彰久(順天堂大学 医学部)
  • 斎藤 義朗(国立精神・神経医療研究センター病院)
  • 高梨 潤一(亀田総合病院)
  • 廣瀬 伸一(福岡大学 医学部)
  • 山形 崇倫(自治医科大学 医学部)
  • 山内 秀雄(埼玉医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
急性脳症はインフルエンザなどの小児期ウイルス感染症を契機に発症し、しばしば死亡や後遺症をもたらす。急性脳症は急性壊死性脳症(ANE)、遅発性拡散低下を呈する急性脳症(AESD)、可逆性脳梁膨大部病変を有する軽症脳炎・脳症(MERS)など複数の症候群に分類される。急性脳症の研究において、日本は世界を四半世紀にわたりリードしてきた。しかしANE、AESDなど重症の病型は依然として難治である。当研究班は、急性脳症の病因・病態を詳細に解明し、より適切な治療を開発することを目的として、平成22~24年度の3年間にわたり研究を行った。
研究方法
平成23年度は前年度に実施した全国調査のデータを解析し、重症度スコアを作成し、予後との相関を検討した。またANE、AESDの発症に関与する複数の遺伝要因解明のため検体を多数収集したので、候補遺伝子(イオンチャネル、アデノシン受容体など)の解析を続けた。なお腸管出血性大腸菌(EHEC)O-111食中毒による急性脳症の多発という事態を受け、臨床情報・頭部画像所見の収集を開始した。
平成24年度は、前年度の結果に基づき、治療の共同研究を本格化した。共通プロトコー作成と、症例の登録システム整備に着手し、多施設共同研究を開始した。また急性脳症発症との関連が判明した遺伝子について、機能解析を進めた。EHEC脳症の知見を分析・総括した。
結果と考察
第一にAESDの早期診断(FSとの鑑別)、ANEの予後予測を目的とした重症度スコアを作成した。AESDでは早期診断にもとづいて脳低体温療法などの治療を早期に開始することが、予後の改善(後遺症の軽減)に寄与すると期待されている。ANEにおいては従来の研究により、副腎皮質ステロイド治療の有効性が示されているが、治療成績いまだ不十分である。今後、AESD早期診断スコアやANE重症度スコアは、治療法の客観的評価に際して活用されると期待され、その臨床的意義は大きい。
第二にAERRPSの病態とCAH脳症の臨床像に関する新たな知見が追加された。とくにAERRPSについてSCN2A変異の関与を新たに示し、その「てんかん性脳症」としての側面を遺伝学的に立証したことの学術的意義は大きい。
第三に遺伝子解析の成果として、イオンチャネル(SCN1A、SCN2A)遺伝子変異が急性脳症の複数の症候群(AESD、AERRPS、分類不能例)に関与していることを解明できた。従来の研究で関与が指摘されたCPT-II、ADORA2A遺伝子多型と合わせて、複数の遺伝子(多型・変異)が複数の症候群と複雑に関連している事実を証明した。これらの成果は多数の論文として国際学術雑誌で発表ないし刊行予定であり、その学術的意義はきわめて大きい。このうちADORA2A遺伝子多型については、機能解析を通じて遺伝子発現とcAMP産生への影響を示すことに成功し、アデノシン・cAMPを介したシグナル経路の過剰な活性化がAESDの病態であることを立証した。この知見は、アデノシン・cAMP経路をターゲットとした薬物による新たな治療法開発の可能性を切り開き、今後の研究の発展性という点からも意義が大きい。
第四に富山県下で多発したEHEC脳症の臨床像、画像所見の特徴をまとめることができた。本症については頭部画像、炎症性サイトカインの関与、治療(副腎皮質ステロイド、血液浄化)の効果などについて、貴重な知見を得て発表するとともに、現在編纂中の「腸管出血性大腸菌感染にともなるHUS診療ガイドライン」にも反映させることができ、学術的にも臨床的にも有意義な研究となった。近年、EHEC感染患者(中でもHUS・脳症の合併例)の集団発生事例は日本のみならず欧米でも散発していることから、本研究成果は国際的・社会的にも注目されると予想される。
結論
本研究の成果により、急性脳症の種々の症候群における臨床経過が明らかになり、経過や予後の見通しが良くなった。また発症の遺伝的背景や病態生理も解明された。これらの成果は近い将来、急性脳症の診療に関して、以下の進歩をもたらすものと期待される。1) 診断・治療が従来のような画一的なものでなくなり、病型・重症度に応じて個別化されること。2) 重症・難治性急性脳症の診療が確立・向上し、医療経済的にも効率化されること。3) 急性期における患者・家族への説明やケア、回復期におけるリハビリテーションが、より良質のエビデンスに立脚したものとなること。

公開日・更新日

公開日
2013-05-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201231058C

成果

専門的・学術的観点からの成果
遅発性拡散低下をともなう急性脳症(AESD)の発症早期の所見にもとづく予後予測を行うとともに、先天性副腎皮質過形成(CAH)や腸管出血性大腸菌(EHEC)感染に合併する急性脳症の臨床像を明らかにした。AESDや脳炎・脳症における髄液バイオマーカーや血中抗神経抗体を探索した。AESDをはじめ急性脳症を合併するてんかん症候群、発作性疾患の遺伝子解析を行い、サイトカイン関連遺伝子多型やイオンポンプ遺伝子変異の関与を明らかにした。AESDの治療に関する前方視的多施設共同研究を準備した。
臨床的観点からの成果
本研究におけるAESDの遺伝子解析研究から、アデノシンA2A受容体およびIL1βが病態の中心にある分子であることが明らかになった。今後、両分子を標的とした薬物治療によりAESDの新しい治療法を開発すること、またPDGFとVEGFなどの早期診断マーカーよりAESDの早期診断を確実にすることが研究の具体的目標である。これらの進歩により、現在よい治療法がなく神経学的予後の不良なAESDの治療成績が向上すると期待される。
ガイドライン等の開発
「重症・難治性急性脳症診断基準」として、急性壊死性脳症(ANE)、遅発性拡散低下をともなう急性脳症(AESD)、可逆性脳梁膨大部病変を有する軽症脳炎・脳症(MERS)の3症候群の診断基準を、日本小児神経学会のホームページに収載、公開した。EHEC感染に合併する溶血性尿毒症症候群研究班(新興・再興感染症研究・大西班)の診断・治療ガイドライン作成において、急性脳症の項に関して協力した。
その他行政的観点からの成果
AESD、ANE、MERSの臨床的研究成果により、治療(副腎皮質ステロイドなど)の効果が症候群により異なることを示し、診療内容の改善と医療費の削減への道筋を示すことができた。EHEC感染に合併する急性脳症の、富山県における多発事例の解析を行って、今後の対策について示唆することができた。
その他のインパクト
AESDの発症リスクとなるアデノシンA2A受容体遺伝子多型の研究成果が新聞(2013年4月18日読売新聞夕刊)の記事「脳症のメカニズム」として報道された。EHEC感染に合併する急性脳症についての研究成果、とりわけステロイド治療の効果に関しては全国10紙以上の新聞(2014年1月25日朝日新聞夕刊ほか)で報道された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
28件
その他論文(和文)
11件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
12件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
新聞記事掲載

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Saitoh M, Shinohara M, Hoshino H, et al.
Mutations of the SCN1A gene in acute encephalopathy.
Epilepsia , 53 (3) , 558-564  (2012)
10.1111/j.1528-1167.2011.03402.x.
原著論文2
Hoshino A, Saitoh M, Oka A, Okumura A, et al.
Epidemiology of acute encephalopathy in Japan, with emphasis on the association of viruses and syndromes.
Brain and Development , 34 (5) , 337-343  (2012)
10.1016/j.braindev.2011.07.012.
原著論文3
Bergamino L, Capra V, Biancheri R, et al.
Immunomodulatory therapy in recurrent acute necrotizing encephalopathy ANE1: Is it useful?
Brain and Development , 34 (5) , 384-391  (2012)
10.1016/j.braindev.2011.08.001.
原著論文4
Kobayashi K, Ohzono H, Shinohara M, et al.
Acute encephalopathy with a novel point mutation in the SCN2A gene.
Epilepsy Research , 102 (1-2) , 109-112  (2012)
10.1016/j.eplepsyres.2012.04.016.
原著論文5
Saito T, Saito Y, Sugai K, et al.
Late-onset epilepsy in children with acute encephalopathy with prolonged febrile convulsions – a clinical and encephalographic study.
Brain and Development , 35 (6) , 531-539  (2013)
10.1016/j.braindev.2012.08.007.
原著論文6
Takanashi J, Taneichi H, Misaki T, et al.
Clinical and radiologic features of encephalopathy during 2011 E coli O111 outbreak in Japan.
Neurology , 82 (7) , 564-572  (2014)
10.1212/WNL.0000000000000120.

公開日・更新日

公開日
2017-05-25
更新日
-

収支報告書

文献番号
201231058Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
11,700,000円
(2)補助金確定額
11,700,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,784,057円
人件費・謝金 2,159,058円
旅費 535,310円
その他 1,521,575円
間接経費 2,700,000円
合計 11,700,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
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