ツパイ全ゲノム解析に基づくB型肝炎ウイルス感染感受性小動物モデルの開発に関する研究

文献情報

文献番号
201228013A
報告書区分
総括
研究課題名
ツパイ全ゲノム解析に基づくB型肝炎ウイルス感染感受性小動物モデルの開発に関する研究
課題番号
H24-B創-肝炎-一般-014
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
小原 道法(公益財団法人東京都医学総合研究所 ゲノム医科学研究分野)
研究分担者(所属機関)
  • 保富 康宏(独立行政法人医薬基盤研究所・霊長類医科学研究センター)
  • 小原 恭子(鹿児島大学共同獣医学部•越境性動物疾病制御研究センター)
  • 石井 健(独立行政法人 医薬基盤研究所・免疫学)
  • 押海 裕之(北海道大学大学院・医学研究科)
  • 村上 周子(公立大学法人名古屋市立大学院医学研究科)
  • 原島 秀吉(北海道大学大学院薬学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 B型肝炎創薬実用化等研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
90,910,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HBV感染を防ぐワクチンや治療薬の開発には有効な実験動物モデルが必要であるが、これまでに感染感受性が報告された動物モデルはチンパンジーのみである。しかしチンパンジーは、動物愛護の観点から、実験動物としての使用が制限されており、安楽殺が禁止されているため実験終了後も飼育が必要である。以上の点から、チンパンジーに代わる実験動物モデルの確立が急務となっている。
原猿類に分類されていたツパイ(ツパイ科ツパイ目)にHCVが感染する事を見いだして報告してきた。ツパイは中国・雲南省原産とされ、ラット程度の大きさで寿命は4-7年である。HCVがツパイに感染すると1~3年で慢性肝炎、肝硬変、肝がんを発症する事を確認しており(JV 2010)、飼育コストも低い事からチンパンジーに変わる感染実験動物モデルとして期待されている(The turn of the shrew. Nature 2011)。また、HBVのツパイ初代肝臓細胞における増殖効率はヒト初代肝細胞のそれに匹敵し、個体としてのツパイもHBVに感受性である事が報告されている(Hepatology 1996)。
その一方で、ツパイを実験動物とする医学的研究はほとんど行われていないため、ウイルス感染動態の解析ならびに治療効果の評価を行う上で不可欠な免疫系に関する知見は、ほとんど得られてない。そこで本研究では、ツパイの全ゲノムを解析し、この配列情報を基にcDNAクローニング、抗体作製を進めることで、短期間にツパイ免疫系の解析ツールを樹立する。さらに、より効率・感度の高い動物実験モデルの確立を目指し、ツパイ馴化HBV株とHBV高感受性ツパイ系統を樹立することで、ウイルス・宿主の両面からHBV-ツパイ感染実験系を改良する。これらの実験を通じて、正常な免疫機能を持つツパイをHBV感染モデル動物として確立する。
研究方法
①次世代シークエンスを用いてツパイの全ゲノム解析し、②この情報を基にツパイ免疫関連遺伝子の同定と、③その応答解析に必要な実験ツール(免疫系宿主因子のcDNAや特異抗体など)を調製した上で、④HBV感染ツパイの免疫応答を解析する。さらに、⑤より効率の良いHBV感染法(母子感染等)と感染・発症評価系を検討しながら、その一方で、⑥ツパイ馴化HBV株と、⑦HBV高感受性ツパイ系統を各々樹立し、両者を組み合わせることで、⑧HBV感染ツパイが、慢性肝炎や肝がんをより高頻度に発症する実験条件を確立する。さらに、上記で確立した免疫学的解析手法とHBV-ツパイ感染実験系を用いて、⑨抗ウイルス活性を持つ化合物や治療ワクチンなどの効果を見ることで動物モデルとしての資質を評価する。
結果と考察
(1)次世代シークエンスを用いてツパイの全ゲノム解析し、95%とほぼすべての遺伝子を解析することに成功した。
(2)ツパイの全ゲノム解析情報を基にツパイ免疫関連遺伝子の同定をすすめ、CD81, SR-B1, Claudin1, Ocudin, STAT1, STAT3などのヒト遺伝子と90%以上相同性の高い分子とTLR1, -2, -3, IRF1, -2, -3等のヒトとは70-90%と中程度の相同性のものと、IL1, IL6, IFN-a, -b等のように70%以下と低い相同性の分子群の3群に分かれた。これらの解析から、ツパイはマウスよりもほとんどの分子の配列がヒトに近い事が明らかとなった。また、IL-29の様にヒトにあってマウスにない分子をツパイは持っていた。
(3)免疫応答系解析に必要な実験ツールを作製するために、免疫系宿主因子の特異抗体ライブラリーを作製した。本年度は85種類の免疫関連分子を選択し、それぞれ2カ所の細胞外ドメインで免疫抗原最適候補領域を探索した。この領域をペプチド合成し、ウサギに免疫し抗血清を得た。さらに、ペプチドカラムでアフィニティー精製を行った。
(4)ツパイの自然免疫関連の遺伝子の選定、クローニング、蛋白発現系の構築を目標とした。小原恭子先生のご協力の下、ツパイTLR9の約3000塩基の配列を同定、3つのフラグメントに分けクローニングを行い、蛋白発現系の構築に成功した。また、TLR7等ほかの自然免疫遺伝子群のクローニング、発現系実験を開始した。また、B型肝炎予防、治療に向けた新たな免疫療法の可能性を持つ、免疫制御物質、アジュバントのスクリーニングを開始した。
結論
ゲノム解析の遺伝子情報からツパイはマウスよりもヒトに近い事が推測された。本研究を遂行することで、免疫機能が正常でチンパンジーに比較して取扱いも容易なツパイを、HBVの感染から発症に至るまでのトータルな免疫学的変化を解析可能な小型実験モデルとして確立することができると考える。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201228013Z