マイクロRNAを標的とした新規抗C型肝炎ウイルス治療戦略の開発

文献情報

文献番号
201227025A
報告書区分
総括
研究課題名
マイクロRNAを標的とした新規抗C型肝炎ウイルス治療戦略の開発
研究課題名(英字)
-
課題番号
H23-肝炎-若手-009
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
渡士 幸一(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
7,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 C型肝炎ウイルス(HCV)感染者は本邦において約100万人存在すると推定されている。HCV治療としては現在まで主にペグインターフェロンとリバビリンの併用療法が用いられていたが、その著効率は約50%にとどまることから、新たな抗HCV療法が求められている。本研究ではマイクロRNA (miRNA)等の宿主因子を標的とした新規治療法の開発を目指し、まずmiRNA阻害剤TPFを用いmiRNAによるHCV複製機構の解析を行う。またこれとは別のmiRNA阻害剤及び抗HCV化合物を探索する。得られた化合物のmiRNA阻害、抗HCV効果の分子メカニズムの解明をおこなうことにより、抗HCV剤の創薬標的の同定を目指す。
研究方法
(1) miRNA阻害剤によるHCV複製抑制作用メカニズムの解析
 AGO2複合体内miR-122量およびRNA helicase A (RHA)は、免疫沈降後にreal time RT-PCR法およびイムノブロット法で検出した。
(2) さらに抗HCV効果の高いmiRNA阻害剤の探索
 TPF誘導体として市販の15化合物を用い、サイレンシング活性をレポーターアッセイで定量した。またHCV RNA複製は、Flucを有するHCVレプリコンを用いたレポーターアッセイにより測定した。
(3) TPFとは別系統のmiRNA阻害剤の同定
 Huh-7細胞にさまざまな化合物を処理した後の細胞内総miR-122量をreal time RT-PCR法により定量した。細胞毒性はMTTアッセイにより調べた。
(4) 新規抗HCV化合物の同定
 JFH1 RNA導入Huh-7-25細胞に各化合物を処理し、72時間後の培養上清に放出されたHCVの感染性を測定した。
(5) (4)で得られた化合物の抗HCV作用機構の解析
 HCV生活環中の、吸着・侵入を含む初期過程はHCVシュード粒子(HCVpp)系により検討した。翻訳・RNA複製を含む中期過程はHCVレプリコン系により評価した。
結果と考察
(1) miRNA阻害剤によるHCV複製抑制作用メカニズムの解析
1. TPFがAGO2複合体へ与える影響
 TPFは細胞内総miR-122量には影響を与えずにAGO2複合体内miR-122量を有意に減少させた。またAGO2複合体へのmiR-122の取り込みに関わるRHAとAGO2の相互作用がTPF処理により解離した。一方miR-122量に影響を与えないTPF誘導体ACDは、RHAとAGO2の相互作用を変化させなかった。
2. TPFのHCV生活環内標的ステップの解析
 HCVレプリコンを用いた解析において、TPFはHCV RNA安定性には大きな変化は与えなかったが、HCV翻訳およびそれに続くRNA複製を大きく抑制することが観察された。
(2) さらに抗HCV効果の高いmiRNA阻害剤の探索
 miRNAサイレンシングおよびHCVゲノム複製への効果を、15種類のTPF誘導体について調べた。これらのうち1種類が強い、2種類が中程度もしくは弱いshRNA誘導サイレンシング抑制効果を有していた。強いサイレンシング抑制効果を持つ誘導体は、顕著なHCVゲノム複製抑制を示した。
(3) TPFとは別系統のmiRNA阻害剤の同定
 TPFを含む合剤であるACFはマウス体内で速やかに代謝・排泄された。そのためTPFとは別のmiRNA阻害剤および抗HCV化合物を同定する必要があると考え、Huh-7細胞内の総miR-122量を減少させる低分子化合物のスクリーニングをおこなった。その結果coumermycinA1が細胞内総miR-122量を低下させることが明らかとなった。
(4) 新規抗HCV化合物の同定
 一方、HCV粒子産生培養系を用いて感染性HCV産生を抑制する低分子化合物をスクリーニングした。その結果、coumermycinA1の他に、さらに16化合物を感染性HCV産生を低下させるものとして同定した。
(5) (4)で得られた化合物の抗HCV作用機構の解析
 得られた低分子化合物の作用ステップを調べたところ、1化合物が吸着・侵入を含む初期過程、coumermycinA1を含む4化合物が翻訳・RNA複製といった中期過程を、また12化合物は粒子形成から放出に至る後期過程を阻害することが示唆された。
結論
 miRNA阻害剤TPFはmiR-122とAGO2複合体の相互作用を低下させ、HCV翻訳を阻害することが示唆された。一方、今回coumermycinA1をmiR-122産生を低下させるものとして同定した。またこの他にさらに16の抗HCV化合物を新たに得た。今後化合物のmiRNA経路への影響ならびに抗HCV分子メカニズムを解析することにより、宿主因子を標的とする新規抗HCV剤の取得を目指す。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201227025Z