新たな薬剤耐性菌の耐性機構の解明及び薬剤耐性菌のサーベイランスに関する研究

文献情報

文献番号
201225060A
報告書区分
総括
研究課題名
新たな薬剤耐性菌の耐性機構の解明及び薬剤耐性菌のサーベイランスに関する研究
課題番号
H24-新興-一般-010
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
柴山 恵吾(国立感染症研究所 細菌第二部)
研究分担者(所属機関)
  • 荒川 宜親(名古屋大学大学院 医学系研究科)
  • 飯沼 由嗣(金沢医科大学 臨床感染症学講座)
  • 大西 真(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 北島 博之(地方独立行政法人 大阪府立病院機構 大阪府立母子保健総合医療センタ- 新生児科)
  • 切替 照雄(独立行政法人 国立国際医療センター 研究所 感染制御部)
  • 黒崎 博雅(熊本大学大学院 医学薬学研究部)
  • 佐多 徹太郎(富山県衛生研究所)
  • 鈴木 里和(国立感染症研究所 細菌第二部)
  • 舘田 一博(東邦大学 医学部)
  • 富田 治芳(群馬大学大学院 医学系研究科)
  • 長沢 光章(東北大学 医学部附属病院)
  • 藤本 修平(東海大学 医学部)
  • 松本 智成(地方独立行政法人 大阪府立病院機構 大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター)
  • 山根 一和(川崎医科大学  )
  • 山本 友子(千葉大学大学院 薬学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
45,950,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
世界ではNDM型カルバペネマーゼ産生菌などの新たな薬剤耐性菌が次々と出現し、拡散している。日本国内でもこれらを含む様々な新型多剤耐性菌の流入が確認されている。この研究では、国内で分離される新型多剤耐性菌の薬剤耐性機構について分子/遺伝子レベルで詳細な解析を行なう。同時に国内の医療機関における感染症の発生状況を把握するための厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)事業のデータを利用して、国内における様々な薬剤耐性菌の分離状況の動向を疫学的に解析する。また、国内における薬剤耐性菌の効率的な捕捉方法や臨床現場のためにさらに必要な新たなサーベイランスシステムの開発を目指す。
研究方法
臨床現場で分離されたカルバペネム耐性菌や、多剤耐性菌を収集し、耐性遺伝子、耐性メカニズムを明らかにした。そして、それらの簡便、迅速な検出法、分子疫学解析法を開発した。また、耐性に関与する酵素の構造機能解析を行い、新薬の開発も試みた。サーベイランスに関しては、JANISデータを利用して薬剤耐性菌及びインフルエンザ菌の髄液からの分離率の解析などを行った。また、サーベイランス結果を臨床現場で感染対策に効果的に活用出来るように還元するためのシステムの構築を進めた。
結果と考察
国内では、2013年2月の時点までにNDM型カルバペネマーゼ産生菌が6例、KPC型カルバペネマーゼ産生菌が6例、OXA-48型カルバペネマーゼ産生菌が2例把握された。NDM型の2例以外は全て輸入例だった。海外、特に途上国への渡航者が現地の医療機関に入院し治療を受け、その後帰国して入院した場合は、NDM型等の新型耐性菌の保菌の可能性について留意する必要があると考えられる。また国内分離の多剤耐性緑膿菌から新型アミノグリコシド不活化酵素AAC(6’)-Iajを、Acientobacter spp.から新型カルバペネマーゼTMB-2を見いだした。バンコマイシン耐性腸球菌では、新型のvanN遺伝子を国内産鶏肉から分離した。海外だけでなく、国内でも新たな耐性菌が出現していることが分かった。これまでに見いだした新型カルバペネマーゼのうちSMB-1蛋白、KHM-1蛋白について結晶化し、分子構造を解明した。今後新薬の開発が期待出来る。多剤耐性緑膿菌で同定したアミノグリコシド耐性因子AAC(6’)-Ib、Acinetobacter属菌のOXA-型カルバペネマーゼ、フルオロキノロン耐性遺伝子qepAについては迅速検出法を確立した。薬剤耐性菌の分子疫学については、近年院内感染が問題となっているAcinetobacter baumannii、Helicobacter cinaediについて簡便な遺伝子型別法を確立した。今後臨床現場での応用が期待される。厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)のデータベースを利用した研究では、インフルエンザ菌b型について、検査部門データの解析からヒブワクチンの導入に伴い髄液からの分離率が劇的に減少していることを明らかにした。肺炎球菌では、7価肺炎球菌コンジュゲートワクチンに含まれない型の株でペニシリン G 低感受性の率が増加していることが分かった。サーベイランスについては、医療機関において重要な耐性菌が異常に集積していることを自動で捕捉する簡易アルゴリズムを開発し、また2DCM-webのepi-curve機能の改良を行った。また、JANISの参加医療機関が多様化してきたことに伴い、療養型病床中心の医療機関と急性期病床中心の医療機関で解析を層別化する必要があることが分かった。さらにJANISで対象としていない200床以下の中小病院の実態を調査し、サーベイランスの導入法を検討した。薬剤耐性菌に関しては、今後も基礎研究とサーベイランス研究が連携し、社会的に重要な耐性菌を把握し、そしてそれに対する対策の策定に資する研究を進める必要がある。また、医療現場での実際の感染対策に関する研究とも連携し、薬剤耐性菌に関する研究を包括的に進めて行く必要がある。
結論
海外で蔓延しているNDM型カルバペネマーゼ産生菌などの新型耐性菌が国内に流入していることが確認された。国内である程度拡散している多剤耐性緑膿菌、Acinetobacter属菌、H. cinaediなどついては検出法や分子疫学解析法を考案した。サーベイランスの研究ではJANISデータからインフルエンザ菌b型の髄液からの分離率が激減していることが明らかになった。また、サーベイランス結果を臨床現場の感染対策により効果的に生かすため、重要な耐性菌の異常集積を捕捉するシステムを構築した。

公開日・更新日

公開日
2013-06-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201225060Z