動物由来感染症に対するリスク管理手法に関する研究

文献情報

文献番号
201225056A
報告書区分
総括
研究課題名
動物由来感染症に対するリスク管理手法に関する研究
課題番号
H24-新興-一般-006
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
吉川 泰弘(千葉科学大学 危機管理学部)
研究分担者(所属機関)
  • 門平 睦代(帯広畜産大学)
  • 井上 智(国立感染症研究所)
  • 今岡 浩一(国立感染症研究所)
  • 濱野 正敬(一般社団予防衛生協会)
  • 八木 欣平(北海道立衛生研究所)
  • 前田 健(山口大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
31,143,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
約100種の動物由来感染症を階層性分析法(AHP法)で順位化し、上位20種からリスク管理対応が必要と考えられる5種の感染症を選出した。これまで研究者は病原体検査、陽性例の検出を進め、リスクを指摘するだけであった。リスク警告は必要であるが、それだけでは問題解決にならない。例えば、ほとんど全ての動物園はBウイルス検査を避けている。常に危険を感じながらも「知らない方がまし」という態度を取っている。動物由来感染症の研究が抗体調査や病原体分離、遺伝子解析に限られ、論文として発表すれば興味を失うという態度が、こうした結果を招いてしまった。本研究班は、このような事態の反省に立ち有効なリスク管理手法を開発しようと考え、課題を「動物由来感染症に対するリスク管理手法に関する研究」とした。
研究方法
キタキツネ及び中間宿主のエゾヤチネズミとエキノコックス、ニホンザルのBウイルス、高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)のイノシシ等における感染、アジアのコウモリリッサウイルス、カプノサイトファーガ菌と伴侶動物の関係は、欧米では研究されなかった。本研究班で独自に、リスク管理法確立のため野生動物における病原体の生態を調査し、リスクシナリオ作成、重要管理点の特定、リスク回避・危機管理のための指針作成を目指す。月1回の統合戦略会議(吉川、門平、太田、吉崎)を開くとともに、各テーマに関して分担研究グループとの検討を行い、総合班会議を開いて情報交換を進めた。
結果と考察
5種及び、緊急課題として1種の感染症に特化し研究を進めた。①緊急課題のキンカジュウ回虫では、飼育動物園7ヵ所19頭を対象に調査と寄生虫検査をした。過去、3施設4頭で回虫卵確認、駆虫薬投与により駆虫に成功していた。最近2年間に23頭のキンカジュウが輸入された。18頭の寄生虫検査の結果、1頭からアライグマ回虫に極めて近縁な回虫が検出された。陽性の個体を入手し、感染実験を開始した (杉山、宇根、平、吉川)。②Bウイルスでは、最も危険度の高い動物園のニホンザルの感染調査を開始した。北海道、関東地区の3動物園を調べた。ウイルスフリーでコロニーを維持できている動物園、アルファ―メイル等が陽性など、個々に状況が異なっていた。陽性個体を隔離する方法の有効性調査及び譲渡された陽性個体を用いた、再活性化、感染経路の推定等の研究を進めた。(濱野、門平、宇根、吉川)。③コウモリリッサウイルスでは、サーベイランス用のPCRプライマーを設計した。5つの遺伝子型ウイルス(野外株、ラゴス、モコラ、ドゥーベンハーゲ、EBL1型、固定株)の検出が可能であった。国内での狂犬病発生時の危機管理対応措置をマニュアル化し、追補版として関係機関に配布した(井上、佐藤、朴、杉山、Boldbaatar)。ベトナムコウモリにハンタウイルス感染があることを明らかにした(新井、荒木、佐藤、多屋、大石、福井、大館、森川、吉川)。④エキノコックスではフィールドグループと実験グループを組織した。フィールドグループによるベイト剤散布では、キツネの陽性率低下など、有用性が評価できた。また、人への感染リスクの軽減のための実験的検討として中間宿主及び終宿主に対するワクチン開発研究を進めた(八木、神谷、スミヤ、小林、斉藤、野中、関谷、奥梅田、加地、岡崎、高橋、浦口、山野、孝口)。⑤イノシシを中心に野生動物でのA型インフルエンザウイルスの調査を進めた。HPAIの発生養鶏場周辺で捕獲されたアライグマ38頭中2頭にH5N1の感染歴が、中国地方と関東のイノシシ各々、123頭中1頭と124頭中9頭にA型の感染歴があった。フィリピンのオオコウモリ92頭中3頭にA型の感染歴があった(前田、堀本、谷口、鈴木、島田、米満)。⑥カプノサイトファーガ(C. canimorsus、C.c)感染症では、C. cの菌種同定においてはgyrB遺伝子が有用であること、C. cがヒトの補体に対して感受性であることを明らかにした。疫学調査では35例(うち死亡例9例)を把握し、患者が中高年齢者中心であること、基礎疾患が無くても発症すること、国内ではネコ咬掻傷の割合が海外より高いことを明らかにした(今岡、鈴木、木村)。
結論
問題解決型のアプローチを目指して、緊急課題1種と選出された5種の感染症について、これまで基盤研究ではなされなかったリスク管理手法の開発を進めた。成果は学会、研究会で発表するとともに、ガイドライン等を含め、関係者に様々な形で提供する。このアプローチは公衆衛生行政にとって高い貢献度をもつと思われる。

公開日・更新日

公開日
2013-06-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201225056Z