HTLV-1感染症の診断法の標準化と発症リスクの解明に関する研究

文献情報

文献番号
201225038A
報告書区分
総括
研究課題名
HTLV-1感染症の診断法の標準化と発症リスクの解明に関する研究
課題番号
H23-新興-一般-016
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
浜口 功(国立感染症研究所 血液・安全性研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 山口一成(熊本大学 発生医学研究所 幹細胞誘導分野)
  • 渡邉俊樹(東京大学大学院 新領域創成科学研究科)
  • 岡山昭彦(宮崎大学 内科)
  • 佐竹正博(日本赤十字社 中央血液研究所)
  • 出雲周二(鹿児島大学 難治ウイルス研 分子病理)
  • 望月學(東京医科歯科大学 眼科学)
  • 齋藤滋(富山大学院 産婦人科)
  • 大隈和(国立感染症研究所 血液・安全性研究部 )
  • 高起良(JR大阪鉄道病院 血液内科)
  • 内丸薫(東京大学 医科研 血液内科)
  • 山野嘉久(聖マリアンナ医科大 難病治療研究センター )
  • 魚住公治(鹿児島大院 血液・免疫疾患研究分野 )
  • 緒方正男(大分大学 医学部 血液内科学)
  • 長谷川寛雄(長崎大院 医学部 検査部)
  • 宇都宮與(慈愛会今村病院分院 血液内科 )
  • 岩永正子(帝京大院 公衆衛生学)
  • 巽正志(国立感染症研究所 エイズ研究センター )
  • 相良康子(日本赤十字社 九州ブロック血液センター 品質部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
27,270,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HTLV-1検査は、平成23年末より妊婦健診において必須検査とされたが、2次検査のWestern Blotting(WB)検査の結果なお判定保留となる場合が少なからず存在する。それらの保留検体の判定にHTLV-1核酸検査が期待されているが、核酸検査実施の有効性については科学的に明らかになっていなかった。そこで本年度は、①各施設のHTLV-1核酸検査法で検出できるウイルスコピー数の限界について確認し、②WB判定保留検体に対して核酸検査を行った場合の核酸検出効率の測定を試みた。
 また、2002年(平成14年)から継続しているHTLV-1関連疾患の全国疫学コホートであるJSPFADを継続・維持・解析を行うとともに、HTLV-1検査法標準化確立グループの研究をサポートし、HTLV-1キャリアの発症リスクの解明に貢献する。さらに献血者のHTLV-1スクリーニング検査結果を一般集団における水平感染率の推定に応用し、HTLV-1キャリアの水平感染による増加の根絶の方策を探る。
研究方法
・HTLV-1感染症の診断法の標準化
 低濃度ウイルス核酸検体として、CFSE染色したTL-Om1をPBMCで希釈し、0.02~0.0005%までの濃度でTL-Om1を含む測定用検体を準備した。また日本赤十字社判定保留検体として、日本赤十字社の判定基準でIF法とWB法の結果が不一致となった献血血液検体を153検体使用した。試験は各施設の方法に従い、genomic DNAの核酸抽出を行い、HTLV-1核酸および内部標準遺伝子のコピー数をQ-PCRで測定し、プロウイルス量を測定した。結果はPBMCs100細胞中の陽性細胞数(Proviral Load (%))とした。
・JSPFADデータベースの維持・継続および発症リスク解明
 既に確立されたJSPFADの研究実施方法に基づいて、血液検体・臨床情報・疫学情報の収集を行った。得られたウイルス学的解析ならびに臨床・疫学情報を比較し、HTLV-1キャリアからATLおよびHAMへの発症リスクを疫学的に解析した。
・HTLV-1水平感染の実態推定
 2005年~2006年度献血陰性者でかつ2011年末まで2回以上の複数回献血がある者を対象とし(追跡母集団)、HTLV-1スクリーニング検査の縦断的データを抽出し、2011年度までのHTLV-1陽転化をアウトカムとした後ろ向きコホート研究を行った。
結果と考察
・HTLV-1感染症の診断法の標準化
 HTLV-1感染の検査法としてのHTLV-1核酸測定(定量PCR)の有用性についてこれまで不明な点が多かったが、本年度の班研究の結果、DNA量を500ng以上使用することで、それぞれの施設でPVL 0.004%まで検出可能であることが確認できた。検査法の感度としては十分であると考えられた。また、日本赤十字社WB判定保留検体の測定の結果、WB判定保留検体の約半数でPCR陽性となったことから、PCRの実施は効果的判定方法となることが期待でき、WB保留検体の対策として核酸検査の追加測定の意義は高いことが確認できた。
・JSPFADデータベースの維持・継続および発症リスク解明
 JSPFADの検体データベース、疫学データベース、バイオマテリアルの発展的活用を検討した。本年度は、ATL進展者24例、HAM進展者3例(HUからの進展者を含めると6例)を確認し、HTLV-1キャリアを長期追跡すると、確実にATL・HAMへの進展リスクが高くなることが確認された。10例の新規ATL進展者すべての登録時プロウイルス量は4%以上であった。一方、HAM進展者では全員の登録時プロウイルス量は4%以下であり(2~3%)、両疾患の発症に関わるプロウイルス量の意義に相違があることが示唆される。
・HTLV-1水平感染の実態推定
 パイロット研究として、九州圏内献血データベースによる抽出作業を検討した。新規HTLV-1陽転者は、検体陽性をメルクマールとして抽出することによって、縦断データセットを比較的容易に作成可能であった(2011年末までに九州圏内で約130人)。一方、母集団設定にはさらなる工夫が必要で、現在検討中である。
結論
今年度の核酸検査法標準化に関する検討の結果、1μg程度のgDNAを用いて定量PCRを行うことによって、十分な検出感度を得ることができることを確認し、またWB判定保留検体に対しても定量PCRによる核酸検査を実施することで陽性検体を明確にできることを確認した。疫学グループの解析ではJSPFADに登録されているキャリアからATL、HAM両疾患の発症に関わるプロウイルス量がリスクファクターになりうることが確認できた。

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201225038Z