完全型ジストロフィンを発現させるDuchenne型筋ジストロフィーの治療法の開発

文献情報

文献番号
201224103A
報告書区分
総括
研究課題名
完全型ジストロフィンを発現させるDuchenne型筋ジストロフィーの治療法の開発
課題番号
H22-神経・筋-一般-015
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
松尾 雅文(神戸学院大学 総合リハビリテーション学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
11,058,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)は最も頻度の高いかつ重篤な遺伝性筋疾患である。しかし、未だ有効な治療法は確立されていない。私達は、アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いてジストロフィン遺伝子のエクソンのスキッピングを誘導し、mRNAのアミノ酸読み取り枠を修正するDMD治療法を着想し、着想通りに骨格筋にジストロフィンを発現させることに世界で初めて成功した。その成果はDMDの最も有望な治療法として世界中から大きな注目を集め、現在では世界標準の治療法となりつつある。
しかし、この方法で発現させるジストロフィンは一部領域を欠失した不完全なもので、完全な発現とはいえない。その為、完全型ジストロフィンを発現させる治療の確立が緊急課題となっている。
本研究では、スプライシング時にmRNAを修正して完全型ジストロフィンの発現させる治療の開発を目指し、スプライシングを制御する化学物質の探索を行った。また、このスプライシングを制御する化学物質の探索時に、他の型の筋ジストロフィーのスプライシング異常の修正についても検討できたので報告する。
研究方法
 本研究では、以下の研究を計画した。1)完全型ジストロフィンの発現が可能なジストロフィン遺伝子の異常のDMD患者での同定。2)スプライシングレポーター評価系の構築と完全長ジストロフィンmRNAの産生を導く化学物質のスクリーニング。3)患者由来培養筋細胞の確立。4)他のジストロフィーのスプライシングを修正する化学物質の探索。
結果と考察
DMD患者で通常の遺伝子解析では異常の同定されなかった例で、mRNAの塩基配列解析を追加で行い、mRNAに取り込まれたシュードエクソンの検出をはかった。これまでに合計5種のイントロン内の塩基異常の蓄積をはかることができた。 5個のシュードエクソンについて、異常を有したものと有されないもののそれぞれをH492ベクターに挿入し、スプライシング解析をHeLa細胞に導入して行った。さまざまな化学物質あるいはアンチセンスオリゴヌクレオチドを培養液中に加え培養を行った。スプライシング産物をRT-PCR法で解析した。一部の化学物質でシュ-ドエクソンのスキッピング効果が得られた。しかしながら、その効果は以前得たTG003によるエクソンスキッピング誘導効果と比較すると弱く、臨床応用するに十分な活性ではないと判断した。アンチセンスオリゴヌクレオチドによるエクソンスキッピングについても検討した。シュードエクソンの配列全体をカバーする様に1個のエクソンにつき10個近くのS-オリゴを作成し、それぞれのエクソンスキッピング誘導効果を解析した。しかしながら、有効なエクソンスキッピング誘導作用を得ることは出来なかった。そこで、修飾核酸を変更し、ENAを用いたところ、有効にシュードエクソンのスキッピング効果を得た。また、完全型ジストロフィンの発現が期待される遺伝子の異常を持つ患者を対象として筋生検し、生検組織から筋培養細胞株を樹立をはかった。他の型の筋ジストロフィーの中には、病態として遺伝子のスプライシング異常を合併する例がある。本研究のスプライシングを修飾する化学物質の探索時に、同時に他の型の筋ジストロフィーのスプライシング異常の修正の可能性を検討していった。驚くべきことに、スプライシング異常を修正する有力な化合物の同定に成功した。本化合物については今後臨床応用をはかってゆく予定である。
結論
 DMDで欠損しているジストロフィンを完全な形で発現させる方法について道筋がつけられた。今後、アンチセンスオリゴスクレオチドを用いたエクソンスキッピング誘導による完全型ジストロフィンを発現させる治療法を確立することが可能となった。また、他の型のジストロフィーでもスプライシングを修正する治療法が応用可能なことが示され、明るい光明を見い出した。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

文献情報

文献番号
201224103B
報告書区分
総合
研究課題名
完全型ジストロフィンを発現させるDuchenne型筋ジストロフィーの治療法の開発
課題番号
H22-神経・筋-一般-015
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
松尾 雅文(神戸学院大学 総合リハビリテーション学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)は男児3500人に1人が発症する最も頻度の高いかつ重篤な遺伝性筋疾患である。しかし、未だ有効な治療法はなく、DMD患者は20歳台に長い闘病生活のはてに死亡する。そのため世界中の数万の患者とその家族が治療法の確立を待望している。アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いてジストロフィン遺伝子のスプライシング時にエクソンのスキッピングを誘導し、ジストロフィンmRNAを修正して骨格筋にジストロフィンを発現させる治療は世界標準の手法となりつつある。しかしながら、この手法では発現するジストロフィンは1部領域を欠失した不完全なタンパクで、完治とはいえない。そのため、完全型ジストロフィンを発現させる方法の確立が世界の研究者の解決すべき課題となっている。本研究では以下の研究を実施した。1)完全型ジストロフィンの発現が可能なジストロフィン遺伝子の異常をさらに多くのDMD患者での同定。2)同定した遺伝子の異常を対象としてスプライシングレポーター評価系を構築。3)完全長ジストロフィンの産生を導くシュードエクソンスキッピングを誘導する化学物質のスクリーニング。その結果、スプライシング時にエクソンスキッピングを誘導して完全型ジストロフィンの発現させるアンチセンスオリゴヌクレオチドの同定に成功した。
研究方法
以下の項目について研究を実施した。1)完全型ジストロフィンの発現が期待される遺伝子異常の探索2)ジストロフィン遺伝子のエクソンのスプライシング制御特性の解析3)スプライシングレポーター評価系を用いた化学物質スクリーニング4)治療対象となる症例の筋細胞株の樹立
結果と考察
1)完全型ジストロフィンの発現が期待される遺伝子異常の探索 完全型ジストロフィンの発現が期待されるジストロフィン遺伝子のイントロン内の点変異からシュードエクソンを形成する異常を有する例を探索した。DMD患者で通常の遺伝子解析では異常の同定されなかった例で、ジストロフィンmRNAの全長の塩基配列解析を追加で行い、mRNAに取り込まれたシュードエクソンの検出をはかった。これまでに合計5種のイントロン内の塩基異常の蓄積をはかることができた。2)ジストロフィン遺伝子のエクソンのスプライシング制御特性の解析 ジストロフィン遺伝子の77個のエクソンは、そのスプライシング制御因子の26種のパラメーターを用いて決定木の手法で5つのグループに分類することが出来た。スプライシング部位のコンセンサス配列の強い保存性に依存しているグループから、多くのスプライシング制御因子の関与が必要なグループまで多岐が存在した。各エクソンのスプライシング制御因子の関与度を26のパラメーターにして、ジストロフィン遺伝子に同定されている15ケのクリプチックエクソンを区別する決定木を作成した。その結果、77ケのエクソンはAからEの5つのグループに分類された。3)スプライシングレポーター評価系を用いた化学物質スクリーニング 5個のシュードエクソンについて、異常を有したものと有されないもののそれぞれをH492ベクターに挿入し、ハイブリットミニ遺伝子を構築した。そして、それらのスプライシングをHeLa細胞に導入して行った。さまざまな化学物質あるいはアンチセンスオリゴヌクレオチドを培養液中に加え細胞培養を行った。生じたスプライシング産物をRT-PCR法で解析した。一部の化学物質でシュ-ドエクソンのスキッピング効果が得られた。しかしながら、その効果は以前得たTG003によるエクソンスキッピング誘導効果と比較すると弱く、臨床応用するに十分な活性ではないと判断した。アンチセンスオリゴヌクレオチドによるエクソンスキッピングについて検討した。シュードエクソンの配列全体をカバーする様に1個のエクソンにつき10個近くのS-オリゴを作成し、それぞれのエクソンスキッピング誘導効果を解析した。しかしながら、有効なエクソンスキッピング誘導作用を得ることは出来なかった。用いる修飾核酸を変更し、RNA/ENAキメラを用いた。その結果、シュードエクソンのスキッピングを誘導する配列が得られた。今後、このアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて、完全型ジストロフィンの発現をはかるものである。4)患者由来培養筋細胞の樹立 治療対象となる症例の筋細胞株の樹立をはかった。完全型ジストロフィンの発現が期待される遺伝子の異常を持つ患者を対象として筋生検し、生検組織から筋培養細胞株を樹立した。
結論
DMDにおいて完全型ジストロフィンの発現を可能とするシュードエクソンを形成する遺伝子異常についてハイブリッドミニ遺伝子の構築にすべての異常で成功した。また、エクソンスキッピングを誘導するアンチセンスオリゴヌクレオチドの同定に成功し、DMD治療の確立へ新しい世界を切り開いた。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201224103C

成果

専門的・学術的観点からの成果
今回、決定木で得られた個々のエクソンのスプライシング制御の特徴によるグループ化は、まだまだ未知の因子によるスプライシングが制御を示唆した。また、イントロン内の配列が一塩基の異常によってエクソン化しても、そのスプライシング制御機能はほぼ普通のエクソンと同じであることが決定木の手法をもちいることにより判明した。スプライシング促進配列を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドがエクソンスキッピング誘導に有効なことを明らかにした。
臨床的観点からの成果
ジストロフィン遺伝子のエクソンスキッピングを誘導するアンチセンスオリゴヌクレオチドの開発を目指してきた。これまで、ジストロフィン遺伝子のエクソン45スキッピングを誘導するENA核酸を用いたアンチセンスオリゴヌクレオチドの開発を推進してきた。その結果、これまで開発してきたアンチセンスオリゴヌクレオチドが2015年に第一三共(株)によって治療薬としての治験が開始された。これは、ENAアンチセンスオリゴヌクレオチドの実用化を大きく推進するものである。
ガイドライン等の開発
本研究で得られた成果を臨床治験に応用の予定
その他行政的観点からの成果
DMDで完全型ジストロフィンを発現させる方向性が見出せた。このことが完成された時には、DMD患者が救われることとなる。DMDへの医療・療育費の大幅な削減が期待される。これは、現在治験が実施されているジストロフィン発現治療が一部の領域を欠いたジストロフィンを発現させるものであることから、両治療法の効果を比較するで、よりよい治療法を開発する評価判定法を提示するものと期待される。
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
12件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
4件
学会発表(国際学会等)
8件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件
講演会を開催した

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Rani.,Sasongko.,Matsuo,M.,et al.
Mutation Spectrum of Dystrophin Gene in Malaysian Patients with Duchenne/Becker Muscular Dystrophy
Journal of Neurogenetics , 33 , 369-371  (2013)
10.3109/01677063.2012.762580
原著論文2
Thu Tran,TH.,Zhang,Z.,Matsuo,,M.et al.
Molecular characterization of an X(p21.2;q28) chromosomal inversion in a Duchenne muscular dystrophy patient with mental retardation reveals a novel long non-coding gene on Xq28.
J Hum Genet , 58 , 33-39  (2012)
10.1038/jhg.2012.131;
原著論文3
Solyom S, Ewing AD,Matsuo M, et al.
Pathogenic orphan transduction created by a non-reference LINE-1 retrotransposon.
Hum. Mutat. , 33 , 369-371  (2012)
10.1002/humu.21663
原著論文4
Ota, M., Takeshima, M., Matsuo, M.et al.
A G-to-T transversion at the splice acceptor site of dystrophin exon 14 shows multiple splicing outcomes that are not exemplified by transition mutations.
Genet Test Mol Biomarkers. , 16 , 3-8  (2012)
10.1089/gtmb.2010.0276
原著論文5
Malueka,R.G., Takaoka,Y., Matsuo,M.et al.
Categorization of 77 dystrophin exons into 5 groups by a decision tree using indexes of splicing regulatory factors as decision markers.
BMC Genetics. , 31 , 13-23  (2012)
10.1186/1471-2156-13-23.
原著論文6
Malueka, R., Yagi, M., Matsuo, M.et al.
Antisense oligonucleotide induced dystrophin exon 45 skipping at a low half-maximal effective concentration in a cell-free splicing system.
Nucleic Acid Therapeutics . , 21 , 347-353  (2011)
10.1089/nat.2011.0310
原著論文7
Nishida, A., Kataoka, N., Matsuo, M.et al.
Chemical treatment enhances skipping of a mutated exon in the dystrophin gene.
Nat Commun , 2 , 308-  (2011)
10.1038/ncomms1306
原著論文8
Rani, A.Q., Malueka, R.G., Matsuo, M. et al.
Two closely spaced nonsense mutations in the DMD gene in a Malaysian family.
Mol Genet Metab , 103 , 303-304  (2011)
10.1016/j.ymgme.2011.04.002.
原著論文9
Takeshima, Y., Yagi, M., Masuo, M et al.
Mutaion spectrum of the dystrophin gene in 442 Duchenne/Becker muscular dystrophy cases from one Japanes referral center.
J Hum Genet , 55 , 379-388  (2010)
10.1038/jhg.2010.49.
原著論文10
Okizuka, Y., Takeshima, Y., Matsuo, M. st al.
Low incidence of limb-girdle muscular dystrophy type 2C revealed by a mutation study in Japanese patients clinically diagnosed with DMD.
BMC Med Gene , 11 , 49-  (2010)
10.1186/1471-2350-11-49.
原著論文11
Kubokawa, I., Takeshima, Y. Matsuo, M. et al.
Molecular characterization of the 5'-UTR of retinal dystrophin reveals a cryptic intron that regulates translational activit
Mol Vis , 6 , 2590-2597  (2010)
原著論文12
Dwianingsih, E.K.,Takeshima, Y., Matsuo, M. et al.
A Japanese child with asymptomatic elevation of serum creatine kinase shows PTRF-CAVIN mutation matching with congenital generalized lipodystrophy type 4.
Mol Genet Metab , 101 , 233-237  (2010)
10.1016/j.ymgme.2010.06.016
原著論文13
Awano, H., Malueka, R.G., Matsuo, M. et al.
Contemporary retrotransposition of a novel non-coding gene induces exon-skipping in dystrophin mRNA.
J Hum Genet , 55 , 785-790  (2010)
10.1038/jhg.2010.111.

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
2017-06-02

収支報告書

文献番号
201224103Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
12,164,000円
(2)補助金確定額
12,164,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 7,989,597円
人件費・謝金 2,199,813円
旅費 622,150円
その他 246,440円
間接経費 1,106,000円
合計 12,164,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-