文献情報
文献番号
201224068A
報告書区分
総括
研究課題名
自閉性障害における遺伝子変異がもたらすシナプス機能障害と小胞体ストレス誘導についての研究
課題番号
H22-精神-若手-020
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
神保 恵理子(自治医科大学 医学部・小児科学講座)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
1,925,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
脳発達障害である自閉性障害は、社会的な大きな問題であり、治療法の確立が緊急な課題である。しかしながら、分子病態が未だ十分に把握されていない。本研究は自閉性障害に見出された遺伝子変異産物(神経接着蛋白CADM1)が誘導する小胞体ストレスシグナルにより小胞体ストレス応答(UPR)が引き起こすシナプス機能タンパクの膜輸送障害の関係を明らかにし、自閉性障害の統一的な病態解明を目的とする。
研究方法
①CADM1変異蛋白の機能障害についての解析:ヘテロに持つ自閉性障害家系からインフォームドコンセントにより得られた血液からリンパ球を分離し、EBウィルスを添加し、培養細胞株(リンパ芽球)とした。リンパ芽球は、小胞体ストレス誘導試薬の有無で、一定時間経過後に細胞を回収し実験に使用した。②Cadm1変異ノックインマウスにおける行動解析:マウスを用いて、行動解析を行った。③Cadm1結合蛋白の変化:Cadm1ノックアウトマウスにおけるシナプス蛋白の変化を調べた。
結果と考察
本年度は、①シナプスにおけるCadm1複合体形成と機能について、②これまで解析を行ってきたCadm1ノックアウトマウスではなく、自閉性患者により近い変異を導入したCadm1変異ノックインマウスについて解析することが研究の進展につながると考え、解析を実施した。Cadm1はホモフィリックな結合をし、シナプス前膜で、C末端のPDZ結合領域を介してCASKと結合し膜輸送される。Cadm1が、13個のPDZを有し、SynGAP、GABBR2、セロトニン受容体に結合するMulti-PDZ domain protein 1 (Mupp1)に結合することを明らかにした(JNC, 2012;PLOS ONE,2012)。また、Cadm1ノックアウトマウスでは興奮性のシナプスの変動が示唆され、種々の受容体と結合できるMupp1を介して形成するCadm1複合体に、変化が生じることが自閉性障害の分子病態に関与していると考えられた。また、CADM1変異が個体に及ぼす影響について作製した変異ノックインマウスの解析では、ノックアウトマウスの行動にはない、限局的な行動を含む自閉性障害様の行動を示し、より自閉性障害に近い行動が表れた。このことから、Cadm1がコミュニケーション障害、社会性に関わっていることが明らかとなった。また、患者リンパ芽球を用いた小胞体ストレスの解析では、変異遺伝子により小胞体ストレスを誘発しやすいことを見出した。
結論
機能障害Loss-of-functionだけでなく、変異タンパクによるGain-of-functionとしての 小胞体ストレスが病態に関わっている可能性がさらに高まった。
公開日・更新日
公開日
2015-05-20
更新日
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