うつ病の最適治療ストラテジーを確立するための大規模多施設共同研究

文献情報

文献番号
201224058A
報告書区分
総括
研究課題名
うつ病の最適治療ストラテジーを確立するための大規模多施設共同研究
課題番号
H22-精神-一般-008
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
古川 壽亮(国立大学法人京都大学 大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康増進・行動学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 米本 直裕(国立精神・神経医療研究センター トランスレーショナル・メディカルセンター)
  • 堀越 勝(国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター)
  • 明智 龍男(名古屋市立大学大学院医学研究科 )
  • 渡辺 範雄(名古屋市立大学大学院医学研究科)
  • 下寺 信次(高知大学教育研究部医療学系 )
  • 尾崎 紀夫(名古屋大学大学院医学系研究科精神医学教室)
  • 山田 光彦(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神薬理研究部)
  • 稲垣 正俊(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神薬理研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
21,098,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、日本人の健康損失の最大原因であるうつ病について、(1)これまでに明らかになった世界のベストエビデンスを踏まえた上で、(2)それでも残る重要な臨床疑問に解答すべく、(3)生物統計学疫学者とともに各臨床疑問に適したデザインを組み、(4)十分な統計学的検出力を持った大規模な無作為割り付け比較試験(RCT)とコホート研究と横断研究を、(5)実践力のある研究者が行い、(6)もって今後日本の精神医学で大規模臨床研究を行う際のひな形となる体制づくりを目指す研究である。
研究方法
具体的には、大規模実践的RCTとして、A1.「大うつ病に対する新規抗うつ剤の最適使用戦略を確立するための大規模無作為割り付け比較試験のパイロット研究」(以下SUN-D研究)、A2.「抗うつ剤治療に併用する普及型認知行動療法のパイロット研究」(以下FLATT研究)、コホート研究としてB「周産期の精神的健康に関する2世代コホート研究」、横断研究としてC「一般身体診療科おけるうつ病の早期発見と治療への導入に関する研究」を行った。以下に述べるように、RCTから横断研究に渉る複数の大規模研究により、21世紀日本の精神科臨床研究の新地平を切り開く基盤を構築できたと考えている。
結果と考察
平成24年度はスマートフォンアプリの開発を進め、まず、ひな形を試作し、10名以上の健常者から試用フィードバックを得てiterativeに修正・改善を加えた。12月からうつ病患者でもオープンパイロット研究を行い、うつ病患者に親しみが持て、完遂しやすいアプリとなったことが確認された。
2世代コホート研究については、平成24年度は、産後5日間の気分状態を元に、産後1ヶ月において抑うつ状態を呈するオッズ比を算出した。産後5日間で抑うつ状態のみを呈した妊産婦は3.3、躁うつ混合状態を呈した妊産婦は6.6、気分変動を認めた妊婦は4となった。SSQ-6は「人数」と「満足度」の2因子構造であることを確認した。高い内的整合性と、試験再試験信頼度の高さ、構成概念妥当性の高さを確認した。
一般身体診療科における横断研究の結果、大うつ病エピソード(現在)の有病率は7.4%(95%信頼区間:3.3%-11.4%)であった。大うつ病エピソ度と小うつ病エピソード(大うつ病エピソードの診断モジュールの9項目中1項目目または2項目目を含め2から4項目)を合わせると有病率は14.1%(95%信頼区間:8.2%-20.0%)であった。うつ病スクリーニングツールの性能の検討を検討すると、カテゴリカルなスクリーニング方法では大うつ病のスクリーニングに関して感度0.42、特異度1.00、陽性的中率0.93、陰性的中率0.96、陽性尤度比178.7、陰性尤度比0.58という結果であった。一般的に推奨されているカットオフ値9/10で計算すると、感度0.55、特異度0.98、陽性的中率0.65、陰性的中率0.96、陽性尤度比23.2、陰性尤度比0.46という結果であった。一方、カットオフ値を4/5点に設定すると感度0.86、特異度0.85、陽性的中率0.32、陰性的中率0.99、陽性尤度比5.9、陰性尤度比0.16という結果であった。
結論
大規模な実践的RCTおよび観察研究を日本で行う方法論的および実践的基盤が確立され、エビデンスに基づく厚生行政を行うために必要な研究を日本で推進できる
抗うつ剤治療に併用する普及型認知行動療法のためのスマートフォンアプリのひな形が完成したので今後これを活用したRCTを実施する。
妊娠出産期あるいはプライマリケア受診者というハイリスク群における大うつ病の有病率とその危険因子が解明され、有効な予防施策につながる
総合病院内科などプライマリケアの前線に得られた結果を均てん化する

公開日・更新日

公開日
2013-05-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201224058B
報告書区分
総合
研究課題名
うつ病の最適治療ストラテジーを確立するための大規模多施設共同研究
課題番号
H22-精神-一般-008
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
古川 壽亮(国立大学法人京都大学 大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康増進・行動学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 米本 直裕(国立精神・神経医療研究センター トランスレーショナル・メディカルセンター)
  • 堀越 勝(国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター)
  • 明智 龍男(名古屋市立大学大学院医学研究科)
  • 渡辺 範雄(名古屋市立大学大学院医学研究科)
  • 下寺 信次(高知大学教育研究部医療学系 神経精神科学)
  • 尾崎 紀夫(名古屋大学大学院医学系研究科精神医学教室)
  • 山田 光彦(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 精神薬理研究部)
  • 稲垣 正俊(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 精神薬理研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、日本人の健康損失の最大原因であるうつ病について、(1)これまでに明らかになった世界のベストエビデンスを踏まえた上で、(2)それでも残る重要な臨床疑問に解答すべく、(3)生物統計学疫学者とともに各臨床疑問に適したデザインを組み、(4)十分な統計学的検出力を持った大規模な無作為割り付け比較試験(RCT)とコホート研究と横断研究を、(5)実践力のある研究者が行い、(6)もって今後日本の精神医学で大規模臨床研究を行う際のひな形となる体制づくりを目指した
研究方法
A1. Strategic Use of New generation antidepressants for Depression
SUN-D研究は、研究代表者らが2009年に発表した12種類の新規抗うつ剤のネットワークメタアナリシスに基づきこれを一歩進めて、(1)ファーストラインで選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)の初期投与戦略、(2)セカンドラインで無ないし部分反応者への変薬または増強療法の優劣という、世界中の誰も答えを知らない非常に重要な臨床疑問に解答できることを目指した
A2. Fun to Learn, Act and Think through Technology
FLATT研究は、上記研究に基づきこれを一歩進めて、薬物療法のみでは治療が不完全なうつ病を対象に、モバイルテクノロジーを筆頭とするICT技術の応用により患者の生活に溶け込んで対面精神療法を越える介入となる可能性に着目して、スマートフォン認知行動療法の開発と検証を開始した。
B. 周産期2世代コホート研究
産後うつ病は、母親のQOLの低下に加え、児の養育環境にも悪影響を与え得るとされ、産後うつ病の早期発見・早期介入が重要である。しかし、妊娠期から前向きに調査し、産後うつ病の発症リスクや産後の気分障害の実態を検討した研究は未だ乏しい。そこで、我々は、妊娠中から産後にかけての妊産婦の気分障害の実態を明らかにすると同時に、発症リスクを同定するための前向きコホート研究を実施した。
C. 一般身体診療科おけるうつ病の早期発見と治療への導入に関する横断研究
本研究では、かかりつけ機能を有する日本の身体科診療科における(1)うつ病有病率の調査、(2)うつ病スクリーニングツールの性能の検討、(3)うつ病重症度および自然経過の観察、(4)うつ病スクリーニングおよび適切な治療導入実施の可能性の検討を行った
結果と考察
A1. SUN-D研究
平成22年12月に開始したパイロット研究は順調にエントリーを伸ばし、平成23年度いっぱいで予想を大幅に超える281名のエントリーを得た。エントリーした患者の追跡率は、第3週で98%、第9週で97%、そして、と第25週に至るも95%を維持し、かつ、BDI得点にしてベースラインの平均約33点が第25週には約8点まで下がる非常に有効な治療選択肢の間での比較であることが確認された。
A2. FLATT研究
平成24年度はスマートフォンアプリの開発を進め、まず、対話型の「こころアプリ」と、ゲーミフィケーションを重視した「元気アプリ」を試作した。10名以上の健常者から試用フィードバックを得てiterativeに修正・改善を加えた。
B. 2世代コホート研究
妊娠中から産後にかけての抑うつ状態の経過は「非抑うつ群」「妊娠期一過性抑うつ群」「持続抑うつ群」「産後抑うつ群」の4種類に分類できることを確認した。EPDSは「不安因子」「抑うつ因子」「快感喪失因子」の3因子構造であることを確認した。
産後5日間の気分状態を元に、産後1ヶ月において抑うつ状態を呈するオッズ比を算出した。産後5日間で抑うつ状態のみを呈した妊産婦は3.3、躁うつ混合状態を呈した妊産婦は6.6、気分変動を認めた妊婦は4となった。
C. 一般身体診療科における横断研究
大うつ病エピソード(現在)の有病率は7.4%(95%信頼区間:3.3%-11.4%)であった。大うつ病エピソ度と小うつ病エピソード(大うつ病エピソードの診断モジュールの9項目中1項目目または2項目目を含め2から4項目)を合わせると有病率は14.1%(95%信頼区間:8.2%-20.0%)であった
結論
1)日本人の健康損失の最大原因であるうつ病について、日本人を対象として実践的大規模無作為割り付け比較試験が可能であることが示された。これを可能とならしめる実践的基盤、すなわち研究者組織や研究実施体制のノウハウが本研究を通じて確立された。
2)観察研究においても、系統的・大規模な観察研究が行われた。わが国のかかりつけ機能を有する身体科診療科においてもうつ病有病率が高いことが示された

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201224058C

成果

専門的・学術的観点からの成果
1)日本人の健康損失の最大原因であるうつ病について、日本人を対象として実践的大規模無作為割り付け比較試験が可能であることを示し、その実践的基盤、すなわち研究者組織や研究実施体制のノウハウが本研究を通じて確立された。このノウハウを元にメガトライアルを推進し、2015年3月で目標症例数の2000例をエントリーできた。最終追跡は9月に終結する予定である。
2)観察研究においても、系統的・大規模な観察研究が行われた。わが国のかかりつけ機能を有する身体科診療科においてもうつ病有病率が高いことが示された。
臨床的観点からの成果
日本人において世界に発信するに足るエビデンスを作る基盤が整えられつつある。日本に真にエビデンスベーストな臨床を導入するために貴重な成果であり、21世紀日本の精神科臨床研究の新地平を切り開く基盤を構築できたと考えている。上記1)の結果を分析することにより、うつ病の薬物療法について世界に発信できると期待される。
ガイドライン等の開発
かかりつけ機能を有する身体診療科において実際にどの程度のうつ病の有病率があるかを妥当な方法論で示した研究は今後の日本におけるうつ病治療ガイドライン作成における重要なデータとなるであろう。
登録予定症例数2000例に対し、2014年5月現在、1500例までエントリーが進み、現時点ですでにうつ病の臨床試験として世界3番目の大きさとなっている。臨床試験であるのでもちろん結果はまだ全く分からないが、世界のうつ病臨床を変える研究になることが強く期待される。
その他行政的観点からの成果
エビデンスベーストな政策決定は今や世界の常識である。限られた医療資源を有効に(そして少なくとも有害ではない形で)使用するためには本研究で端緒が開かれたcomparative effectiveness researchが益々重要となってきているが、精神医療の領域において世界をリードする研究が日本から発信される基盤が整った。
その他のインパクト
なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
8件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Furukawa TA, Akechi T, Shimodera S, et al
Strategic Use of New generation antidepressants for Depression: SUN(^_^)D study protocol.
Trials , 12 , 116-  (2011)
10.1186/1745-6215-12-116
原著論文2
Shimodera S, Kato T, Sato H, et al
The first 100 patients in the SUN(^_^)D trial (strategic use of new generation antidepressants for depression): examination of feasibility and adherence during the pilot phase
Trials , 13 , 80-  (2012)
10.1186/1745-6215-13-80
原著論文3
Hayakawa H, Koide T, Okada T et al
The postpartum depressive state in relation to perceived rearing: A prospective cohort study
PLOS ONE , 7 (11) , e50220-  (2012)
10.1371/journal.pone.0050220
原著論文4
Furumura K, Koide T, Okada T et al
Prospective Study on the Association between Harm Avoidance and Postpartum Depressive State in a Maternal Cohort of Japanese Women
PLOS ONE , 7 (4) , e34725-  (2012)
原著論文5
Ishikawa N, Goto S, Murase S et al
Prospective study of maternal depressive symptomatology among Japanese women
J Psychosom Res , 71 (4) , 264-269  (2011)
原著論文6
Hironaka M, Kotani T, Sumigama S et al
Maternal mental disorders and pregnancy outcomes: A clinical study in a Japanese population
J Obst Gyn Res , 37 (10) , 1283-1289  (2011)
原著論文7
Ohtsuki T, Inagaki M, Oikawa Y et al
Multiple barriers against successful care provision for depressed patients in general internal medicine in a Japanese rural hospital: a cross-sectional study
BMC Psychiatry , 10 , 30-  (2010)
10.1186/1471-244X-10-30.
原著論文8
Inagaki M, Ohtsuki T, Yonemoto N et al
Prevalence of depression among outpatients visiting a general internal medicine polyclinic in rural Japan
General Hospital Psychiatry , 35 (3) , 286-290  (2013)
10.1016/j.genhosppsych.2012.11.013
原著論文9
Yonemoto N, Tanaka S, Furukawa TA et al
Strategic Use of New generation antidepressants for Depression: SUN(^_^)D protocol update and statistical analysis plan
Trials , 16 , 459-  (2015)
10.1186/s13063-015-0985-6.

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
2017-05-23

収支報告書

文献番号
201224058Z