新規薬剤の生体内スクリーニングシステムの確立と網膜保護用 デバイスの開発

文献情報

文献番号
201224040A
報告書区分
総括
研究課題名
新規薬剤の生体内スクリーニングシステムの確立と網膜保護用 デバイスの開発
課題番号
H23-感覚-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
阿部 俊明(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 中澤 徹(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 西澤 松彦(東北大学 大学院工学系研究科)
  • 永井 展裕(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 植田 弘師(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
15,633,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
“比較的短期間で実現可能な既存薬や安全性が担保された薬剤ライブラリーを用いた神経保護薬剤スクリーニングとドラックデリバリーシステムを確立することを目的とする。”
視覚障害は高齢者に多く、超高齢化社会を迎えた日本では喫緊の課題であり早期に実現可能な治療法開発が必要とされる。また、視覚障害の上位はすべて網膜疾患であるために網膜保護に着目した。新規薬剤は他疾患のために開発されたが全身投与が困難などで臨床応用されなかった薬剤や既存薬の薬剤ライブラリー、既存の点眼薬で直接眼内投与により神経網膜保護効果が証明された薬剤で、点眼では十分な有効濃度を保持できないもの、我々が各病態解析から有効性がみられた薬剤や東北大学に特許を有する薬剤のライブラリーを再スクリーニングする。さらに薬剤徐放デバイスを動物モデルの眼球表面(眼内操作はしない)からで持続的に薬剤を投与する。全身の副作用を最低限に抑えながら局所で薬剤の効果をする。また本研究での神経保護薬の発見やデバイスの開発は、これまでに治療法のない疾患に広く適応できる可能性があり、点眼のできない高齢者や複数の薬剤が必要な疾患にも有用である。失明疾患上位は網膜疾患で、本デバイスで、持続的な網膜への薬剤徐放が可能になれば新しい治療法開発になりえる。
研究方法
候補薬剤スクリーニング:すでに臨床薬として承認されている既存薬ライブラリー,米国でヒト安全性は確立されたが最終的に製薬にならなかった薬剤ライブラリー、東北大学に特許を有するもの、我々がこれまでの研究成果として動物実験レベルで網膜神経保護効果を認めた分子を候補薬剤として網膜神経細胞培養を利用して低栄養・虚血負荷に対する保護効果スクリーニングを行う。
デバイスの作製:TEGDMでデバイス外側を作成する。薬剤はPEG/TEG比を調整してペレット化し徐放膜で蓋をする。
薬効検討及び網膜移行検討:網膜変性モデルは光障害モデルで検討した。薬剤徐放デバイスを強膜上に固定して評価し、眼内組織への薬物移行性は蛍光色素で標識し組織学的に、直接蛍光色素を測定して評価した。ラベルできない分子については液体クロマトグラフィーやELISAなどで定量を行った。網膜機能は網膜電図、眼底検査、蛍光眼底撮影を行い網膜保護効果を確認した。
結果と考察
(1)薬剤ライブラリーのスクリーニング
網膜色素上皮細胞株を用いて低栄養・虚血負荷(血清、グルコース非含有培地、2% 酸素下)に各種薬剤を投与し細胞増殖アッセイを行って保護薬候補ライブラリー(2314種)のスクリーニングを終了した。小胞体ストレスに有効とされているゲラニルゲラニルアセトン(GGA)を比較対象として用いた。また、血清、グルコース含有培地を用いて20% 酸素下でインキュベートしたものをポジティブコントロールとした。その結果285種でGGAと同等かより効果が見られた。さらにポジティブコントロールと同等の効果が見られるヒット化合物を見出した。本化合物は網膜神経節細胞を利用した負荷培養でも濃度依存的に効果を示した。
(2)デバイス徐放による神経保護の探索
薬剤徐放に先立って蛍光色素の網膜内への徐放を確認したが、移植1日で最低でも網膜色素上皮に達し、3日では神経網膜内に広がるのが確認された。
1. デバイスからの徐放が網膜保護効果を示すか、まず低分子の代表としてGGAを用いて、網膜光障害に対する効果につて検討した。これは既報でGGAの硝子体内投与が光障害から網膜を保護することが報告されているために、本デバイスの効果を確認できると考えて行われた。その結果、網膜電図ではGGA徐放デバイス移植群で有意に網膜保護効果が確認された。さらに眼球摘出後、網膜外顆粒層(ONL)の厚さを視神経乳頭から網膜鋸状縁まで計測したが、デバイス移植側で有意にONLの厚さが保たれることも確認した。徐放されるGGAの量も徐放膜はPEG60%が最適であることが判明した。
2.高分子の代表としてバソヒビン(40kDa)を徐放するデバイスを作製した。まずラットに新生血管モデル(CNV)を作製して検討したがバソヒビン徐放デバイス強膜上移植群では有意にCNV抑制効果があることが判明した。Flat mountを作製した標本の検討ではバソヒビン徐放量の多いデバイス移植でより効果が見られた。
結論
本研究では、安全性が担保されている薬剤ライブラリーから網膜細胞に保護効果のある薬剤をスクリーニングして、強膜上から徐放することで網膜保護効果を確認した。本方法は近年特に注目を集めているドラック・リポジショニングの1つになると考えられるが、今回の検討で注目されるのは、DRをさらに有効にする手段として局所で安全に薬剤徐放デバイスを機能させたことにある。

公開日・更新日

公開日
2013-06-04
更新日
-

収支報告書

文献番号
201224040Z