成人を対象とした眼検診プログラムの臨床疫学、医療経済学的評価

文献情報

文献番号
201224035A
報告書区分
総括
研究課題名
成人を対象とした眼検診プログラムの臨床疫学、医療経済学的評価
課題番号
H22-感覚-一般-003
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
山田 昌和(独立行政法人国立病院機構東京医療センター 臨床研究センター・視覚研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 福原 俊一(京都大学医学部・医療疫学分野)
  • 平塚 義宗(国立保健医療科学院 医療・福祉サービス研究部)
  • 村上 晶(順天堂大学医学部・眼科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
12,121,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本邦の視覚障害の原因の1位は緑内障、2位が糖尿病網膜症であり、変性近視、加齢黄斑変性、白内障を含めた上位5疾患で全体の75%を占めている。これはいずれも中高年以降に発症し、徐々に進行する慢性疾患という点で共通しており、社会の高齢化に伴い今後、増加が予想される。視覚障害対策として二次予防である眼科診が特に重要と考えられるが、成人を対象とした眼検診プログラムの医学的根拠や費用対効果は確立されていない。本研究は、成人を対象とした眼検診の効果を臨床疫学、医療経済学の視点から評価することを目的とした。
研究方法
 本研究は大きく3つの研究から構成される。1)全国自治体を対象とした成人眼検診の現状の全国調査、2)地域住民を対象としたコホート研究、3)眼検診で発見された眼疾患に医療介入を加えた場合の効果を主要疾患別に評価し、成人眼検診の医学的効果と費用対効果を検討するための研究、である。
 成人眼検診の現状を把握するために、全国1747自治体を対象とした眼検診実施状況に関するアンケート調査を行った。
 福島県南会津郡南会津町及び只見町において3年間にわたり地域住民を対象とした眼検診を実施して、視覚障害の原因となる眼疾患の有病率、罹患率を年代別、性別に明らかにするコホート研究を行った。
 成人の失明原因の上位5疾患(白内障、緑内障、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性、病的近視)を眼検診でスクリーニングし、医療介入を加えた場合の医学的効果と費用対効果をマルコフモデルを用いて主要疾患別に評価した。最後に5疾患全体をまとめて、成人眼検診の総合的な効果、費用対効果を検討した。
結果と考察
 成人眼検診の実施状況に関する全国調査では1132自治体(64.8%)から回答が得られた。広く住民を対象とした独自の眼検診を行っているのは22自治体(1.9%)であり、人間ドック補助などを含めても42自治体(3.7%)に限られていた。眼検診の対象年齢、実施方法、事後評価は自治体により様々であり、地域間の比較は困難と考えられた。
 地域住民を対象としたコホート研究では、福島県南会津郡南会津町、只見町における3年間の住民眼検診によって3000名以上の基本データを構築することができた。失明とロービジョンそれぞれの有病割合は0.07%(95%CI 0.01-0.24)と3.95%(95%CI 3.28-4.70)であり、多くの眼疾患の有病率と網膜血管径に関するベースラインデータを示すことができた。本コホート研究は、視覚障害関連では過去最大規模であること、現地との協力関係が強固であり、眼科関連の情報だけではなく、特定健診結果やレセプト情報、要介護認定情報などとのアクセス,相互解析が可能である。今後は前向きコホート研究として、種々の眼疾患の発症率やリスク要因についての検討を行っていく予定である。
 成人眼検診で失明原因の上位5疾患(白内障、緑内障、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性、病的近視)をスクリーニングした場合の医学的効果と費用対効果をマルコフモデルで検討した。ベースケース分析での検診介入のICERは107万-168万円/QALYとWTPの閾値である500万円/QALYを下回る値をとり、費用対効用に優れることが示された。また検診介入によって40歳以上の失明率が36.4%減少し、失明予防効果が大きいことが示された。モデルに関与するパラメータ数は非常に多いが、それらの不確実性を考慮しても分析結果に大きな影響を与えないことが分かった。費用効果と失明予防の観点から最適な検診プログラムは、40歳から開始し、70歳以降まで5年に1度よりも頻回に行うのがよいと考えられた。また検診受診率が低下すると検診の費用対効果が悪化するため受診率向上のための働きかけが重要であることも示された。
結論
 成人を対象とした眼検診プログラムは失明者減少という医学的効果、社会的意義が大きく、費用対効果にも優れることが示された。成人眼検診プログラムは今後の視覚障害対策に組み込まれていくべき重要課題であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2013-06-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201224035B
報告書区分
総合
研究課題名
成人を対象とした眼検診プログラムの臨床疫学、医療経済学的評価
課題番号
H22-感覚-一般-003
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
山田 昌和(独立行政法人国立病院機構東京医療センター 臨床研究センター・視覚研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 福原 俊一(京都大学医学部 医療疫学)
  • 平塚 義宗(国立保健医療科学院・医療・福祉サービス)
  • 村上 晶(順天堂大学医学部・眼科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本邦の視覚障害の原因の1位は緑内障、2位が糖尿病網膜症であり、変性近視、加齢黄斑変性、白内障を含めた上位5疾患で全体の75%を占めている。これはいずれも中高年以降に発症し、徐々に進行する慢性疾患という点で共通しており、社会の高齢化に伴い今後、増加が予想される。視覚障害対策として二次予防である眼科診が特に重要と考えられるが、成人を対象とした眼検診プログラムの医学的根拠や費用対効果は確立されていない。本研究は、成人を対象とした眼検診の効果を臨床疫学、医療経済学の視点から評価することを目的とした。
研究方法
 本研究は大きく3つの研究から構成される。1)全国自治体を対象とした成人眼検診の現状の全国調査、2)地域住民を対象としたコホート研究、3)眼検診で発見された眼疾患に医療介入を加えた場合の効果を主要疾患別に評価し、成人眼検診の医学的効果と費用対効果を検討するための研究、である。
 成人眼検診の現状を把握するために、全国1747自治体を対象とした眼検診実施状況に関するアンケート調査を行った。
 福島県南会津郡南会津町及び只見町において3年間にわたり地域住民を対象とした眼検診を実施して、視覚障害の原因となる眼疾患の有病率、罹患率を年代別、性別に明らかにするコホート研究を行った。
 成人の失明原因の上位5疾患(白内障、緑内障、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性、病的近視)を眼検診でスクリーニングし、医療介入を加えた場合の医学的効果と費用対効果をマルコフモデルを用いて主要疾患別に評価した。最後に5疾患全体をまとめて、成人眼検診の総合的な効果、費用対効果を検討した。
結果と考察
 成人眼検診の実施状況に関する全国調査では1132自治体(64.8%)から回答が得られた。広く住民を対象とした独自の眼検診を行っているのは22自治体(1.9%)であり、人間ドック補助などを含めても42自治体(3.7%)に限られていた。眼検診の対象年齢、実施方法、事後評価は自治体により様々であり、地域間の比較は困難と考えられた。
 地域住民を対象としたコホート研究では、福島県南会津郡南会津町、只見町における3年間の住民眼検診によって3000名以上の基本データを構築することができた。失明とロービジョンそれぞれの有病割合は0.07%(95%CI 0.01-0.24)と3.95%(95%CI 3.28-4.70)であり、多くの眼疾患の有病率と網膜血管径に関するベースラインデータを示すことができた。本コホート研究は、視覚障害関連では過去最大規模であること、現地との協力関係が強固であり、眼科関連の情報だけではなく、特定健診結果やレセプト情報、要介護認定情報などとのアクセス,相互解析が可能である。今後は前向きコホート研究として、種々の眼疾患の発症率やリスク要因についての検討を行っていく予定である。
 成人眼検診で失明原因の上位5疾患(白内障、緑内障、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性、病的近視)をスクリーニングした場合の医学的効果と費用対効果をマルコフモデルで検討した。ベースケース分析での検診介入のICERは107万-168万円/QALYとWTPの閾値である500万円/QALYを下回る値をとり、費用対効用に優れることが示された。また検診介入によって40歳以上の失明率が36.4%減少し、失明予防効果が大きいことが示された。モデルに関与するパラメータ数は非常に多いが、それらの不確実性を考慮しても分析結果に大きな影響を与えないことが分かった。費用効果と失明予防の観点から最適な検診プログラムは、40歳から開始し、70歳以降まで5年に1度よりも頻回に行うのがよいと考えられた。また検診受診率が低下すると検診の費用対効果が悪化するため受診率向上のための働きかけが重要であることも示された。
結論
 成人を対象とした眼検診プログラムは失明者減少という医学的効果、社会的意義が大きく、費用対効果にも優れることが示された。成人眼検診プログラムは今後の視覚障害対策に組み込まれていくべき重要課題であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2013-06-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201224035C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 成人を対象とした眼検診で失明原因の上位5疾患(白内障、緑内障、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性、病的近視)をスクリーニングした場合の医学的効果と費用対効果をマルコフモデルで検討し、検診介入によって40歳以上の失明率が36.4%減少するなど医学的効果が大きいこと、そのICERは107万-168万円/QALYと費用対効果に優れることを示した。また、費用対効果と失明予防の双方の観点から最適な検診プログラムを理論的に検討、提示することができた。
臨床的観点からの成果
 福島県南会津郡南会津町、只見町における3年間の住民眼検診によって3000名以上の基本データを得ることができ、失明とロービジョンの有病割合、多くの眼疾患の有病割合と網膜血管径に関するベースラインデータを揃えることができた。本邦で最大規模の眼検診データであり、今後は前向きコホート研究として種々の眼疾患の発症率やリスク要因についての検討を行っていくとともに、特定健診結果やレセプト情報、要介護認定情報などとのアクセスを通じて、相互解析を行っていく予定である。
ガイドライン等の開発
 成人を対象とした眼検診の有用性について、医学的効果と費用対効果を元にした理論的根拠を構築することができた。マルコフモデルを用いたシミュレーションによって最適な検診プログラムを探索した結果、成人眼検診は40歳から開始し、70歳以降まで5年に1度程度行うのがよいという指針を示すことができた。
その他行政的観点からの成果
 全国1747自治体を対象とした眼検診実施状況に関するアンケート調査を行った。本全国調査の結果をまとめた資料を全国自治体に送付したところ、送付後にいくつかの自治体から成人眼検診に関する問い合わせがあった。また実際に島根県松江市や富山県富山市では新たに成人を対象とした眼疾患スクリーニングが開始された。
その他のインパクト
 平成24年度日本眼科医会記者発表会で研究代表者の山田と研究協力者の中野が、成人眼検診に関する発表を行った。この内容はNHKニュースに2回紹介され、中日新聞、東京新聞など新聞各社でも記事として取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
15件
原著論文(英文等)
41件
その他論文(和文)
24件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
46件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
日本眼科医会記者発表会

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Roberts CB, Hiratsuka Y, Yamada M, et al.
The economic cost of visual impairment in Japan.
Arch Ophthalmol. , 128 (6) , 766-771  (2010)
10.1001/archophthalmol.2010.86.
原著論文2
Yamada M, Hiratsuka Y, Taylor HR,et al.
Prevalence and causes of visual impairment in adult Japanese population: present status and future projection.
Ophthalmic Epidemiol. , 17 (1) , 50-57  (2010)
10.3109/09286580903450346.
原著論文3
Mizuno Y, Yamada M, Miyake Y,the Dry Eye Survey Group of National Hospital Organization in Japan.
Association between Clinical Diagnostic Tests and Health-Related Quality of Life Surveys in Patients with Dry Eye Syndrome.
Jpn J Ophthalmol. , 54 (5) , 259-265  (2010)
10.1007/s10384-010-0812-2. Epub 2010 Aug 11.
原著論文4
Hiratsuka Y, Yamada M, Akune Y, et al.
Assessment of vision-related quality of life among patients with cataracts and the outcomes of cataract surgery using a newly developed visual function questionnaire: the VFQ-J11.
Jpn J Ophthalmol. , 58 , 415-422  (2014)
10.1007/s10384-014-0335-3
原著論文5
Kawasaki R, Akune Y, Hiratsuka Y, Fukuhara S, Yamada M.
Cost-utility Analysis of Screening for Diabetic Retinopathy in Japan: A Probabilistic Markov Modeling Study.
Ophthalmic Epidemiol. , 22 , 4-12  (2014)
原著論文6
Fukuhara S, Wakita T, Yamada M, Hiratsuka Y, Green J, Oki K.
Development of a Short Version of the Visual Function Questionnaire Using Item-Response Theory.
PLoS ONE , 8 (9) , e73084-  (2013)
原著論文7
Tamura H, Goto R, Akune Y, et al.
The Clinical Effectiveness and Cost-Effectiveness of Screening for Age-Related Macular Degeneration in Japan: A Markov Modeling Study.
PLoS ONE , 10 , e0133628-  (2015)
原著論文8
Ono K, Hiratsuka Y, Murakami A.
Global inequality in eye health: country-level analysis from the Global Burden of Disease Study.
Am J Public Health. , 100 (9) , 1784-1788  (2010)
10.2105/AJPH.2009.187930. Epub 2010 Jul 15.
原著論文9
Hiratsuka Y, Yamada M, Murakami A, etal.Eye Care Comparative Effectiveness Research Team (ECCERT).
Cost-effectiveness of cataract surgery in Japan.
Jpn J Ophthalmol. , 55 (4) , 333-342  (2011)
10.1007/s10384-011-0041-3. Epub 2011 Jun 22.
原著論文10
Tano T, Ono K, Hiratsuka Y, et al.
Retinal vessel diameters in a Japanese population: the Locomotive Syndrome and Health Outcome in Aizu Cohort Study.
Acta Ophthalmol. , 94 (6) , e432-441  (2016)
10.1007/s10384-011-0022-6. Epub 2011 Apr 27.
原著論文11
平塚義宗、山田昌和、村上晶、他
医療における費用効果分析と白内障手術.
日眼会誌 , 115 , 730-734  (2011)
原著論文12
平塚義宗
疫学研究の重要性と必要な知識.
あたらしい眼科 , 28 , 11-17  (2011)
原著論文13
平塚義宗、山下英俊
眼科における疫学研究の重要性と課題:問題解決の理論的枠組みから
あたらしい眼科 , 28 , 1-3  (2011)
原著論文14
平塚義宗, 小野浩一
アウトカム評価と眼科治療.
眼科 , 53 , 1843-1851  (2011)
原著論文15
Tano T, Ono K, Yamada M, etal.
Prevalence of pterygium in a population in Northern Japan: The Locomotive Syndrome and Health Outcome in Aizu Cohort Study.
Acta Ophthalologica , 91 (3) , 232-236  (2013)
doi: 10.1111/aos.12044. Epub 2013 Apr 1.
原著論文16
Hiratsuka Y, Akune Y, Yamada M, Eye Care Comparative Effectiveness Research Team (ECCERT).
Cost-utility analysis of cataract surgery in Japan: a probabilistic Markov modeling study.
Jpn J Ophthalmol , 57 (4) , 391-401  (2013)
doi: 10.1007/s10384-013-0238-8. Epub 2013 Apr 16.
原著論文17
山田昌和、阿久根陽子、平塚義宗
成人眼検診プログラムの効用分析.
日本の眼科 , 83 , 1042-1048  (2012)
原著論文18
川島素子、阿久根陽子、山田昌和.
公的な成人眼検診の実施状況.
日本の眼科 , 83 , 1036-1040  (2012)
原著論文19
Nakano T, Kawashima M, Hiratsuka Y, et al.
Assessment of quality of life in patients with visual impairments using a new visual function questionnaire: the VFQ-J11.
Clin Ophthalmol , 10 , 1939-1944  (2016)
原著論文20
Kawashima M, Hiratsuka Y, Nakano T, et al.
The association between legal Japanese visual impairment grades and vision related quality of life.
Jpn J Ophthalmol , 60 , 219-225  (2016)

公開日・更新日

公開日
2017-06-06
更新日
-

収支報告書

文献番号
201224035Z